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映画「YADANG ヤダン」ネタバレ考察&解説 二転三転する脚本が魅力!”ヤダン”という聞きなれない仕事を描いた、新たな韓国クライムの力作!

映画「YADANG ヤダン」を観た。    

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監督は「ウェディング・キャンペーン」でメガホンを取り、映画「ベテラン」「アシュラ」「ソウルの春」などの出演で俳優としても活躍しているファン・ビョングク。「犯罪都市」「ベテラン 凶悪犯罪捜査班」に続く、韓国ノワール&クライム・アクションだ。出演は「ラブリセット 30日後、離婚します」やドラマ「イカゲーム」「椿の花咲く頃」などのカン・ハヌル、「破墓/パミョ」「タクシー運転手 約束は海を越えて」のユ・ヘジン、ドラマ「夫婦の世界」「おつかれさま」のパク・ヘジュン、「層間騒音」「人質 韓国トップスター誘拐事件」のリュ・ギョンス、チェ・ウォンビンなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:ファン・ビョングク

出演:カン・ハヌル、ユ・ヘジン、パク・ヘジュン、リュ・ギョンス、チェ・ウォンビン

日本公開:2026年

 

あらすじ

大統領選を間近に控えた韓国。麻薬犯罪者から情報を引き出し、検察や警察に提供して司法取引を操る「ヤダン」と呼ばれる闇のブローカー、イ・ダンスは、出世を狙う野心的な検事グァニと手を組み、次々と犯罪者の検挙を成功させていた。しかし、ある麻薬摘発事件をきっかけに、国家と裏社会をも巻き込む巨大な陰謀が姿を現し、ヤダンは地獄の底へと転落する。やがて、すべてを奪われた彼は復讐に打って出る。

 

 

感想&解説

監督を務めたファン・ビョングクの過去作を観た事がなかったが、どうやら「ベテラン」「インサイダーズ/内部者たち」「ソウルの春」などに出演してきた俳優出身の監督らしい。14年ぶりにメガホンを取った本作は、麻薬を巡る犯罪劇という内容のために、”19歳未満の観覧不可”というレーティングだったにも関わらず、本国韓国では2025年1位の337万人以上の観客を集めて特大ヒットとなった作品だ。出演はドラマ「イカゲーム」のシーズン2&3や「殺人配信」、ネットフリックス映画だった「84m2」などで主演が続くカン・ハヌル、「王の男」「タクシー運転手~約束は海を越えて~」「コンフィデンシャル」「梟-フクロウ-」「破墓/パミョ」など、話題の韓国作品には欠かせない名バイプレイヤーのユ・ヘジン、「非常宣言」「ソウルの春」でも印象的なパク・ヘジュンなど、俳優陣のアンサンブルも魅力的な映画となっている。

タイトルである「ヤダン/YADANG」という聞きなれない単語は、本作の主人公であるイ・ガンスの登場シーンと共に冒頭で丁寧に説明されるが、どうやら逮捕された麻薬犯罪者と減刑交渉を行い、その見返りとして麻薬の売人や製造者の情報を得て、それを捜査当局に流すことで報酬を得るという司法取引のブローカーのことらしい。どうやら実在する職業らしく、ファン・ビョングク監督も取材しながら本作を作ったらしいが、にわかにはこんな職業があるとは信じられない。映画を観ていると、犯罪者にビットコインで報酬を振り込ませたりしているシーンもあり、実際かなり合法と違法のグレーゾーンのポジションなのだろう。イ・ガンスの身なりや立ち振る舞いも派手で、ほとんどホストかIT成金のようだ。


本作を観ていて強烈に感じるのは、麻薬の恐ろしさだ。過去の韓国映画でも麻薬業者を扱った作品としては「麻薬王」「毒戦 BELIEVER」などがあるが、本作では主人公を含めて麻薬中毒者側の実態が生々しく描かれている。ドラッグ常習者の描写という意味では、ダーレン・アロノフスキー監督の「レクイエム・フォー・ドリーム」という傑作があったが、一度麻薬の常習者になってしまうとそれを克服するまでに地獄のような苦しみが待っていることが、克明に描写されているのだ。どうやら本作を通して、韓国に急増している麻薬常習の危険性を啓蒙したいという製作者側の意図もあったようで、だからこそのリアルな幻覚症状描写なのだろう。映画作品としてはかなり面白い事と両立して、かなり容赦ない描写が飛び込んでくるのも本作の特徴だ。

 

 


”ヤダン”として活躍するイ・ガンスは過去、麻薬取引法違反で逮捕された過去を持っていたが、薬物犯罪の捜査担当となり出世欲をたぎらせたユ・ヘジン演じるク・グァニによってフックアップされ、二人して麻薬取引の検挙に乗り出していく。イ・ガンスはク・グァニを兄のように慕い、固い絆で結ばれた二人は次々と実績を積むことにより、ク・グァニも出世していく。ここからネタバレになるが、ある時、女優オム・スジンが薬物使用の疑いで逮捕され、刑事オ・サンジェの取り調べにより、ヨム・テスという男から薬物を入手したことが判明する。早速ヨム・テスを追う刑事チームだったが、そこに先回りしたイ・ガンスとク・グァニが現れヨムを確保してしまう。獲物を横取りされたサンジェ刑事たちは、次にオム・スジンを囮にホテルで行われる薬物パーティに乗り込むが、ヨムから情報を得たイ・ガンスたちはまたしても先回りし関係者を逮捕する。


だがそのパーティは次期大統領候補の息子が仕切っており、ク・グァニは出世をエサに買収されたことで、邪魔になったヤダンのイ・ガンス、サンジェ刑事、女優オム・スジンは罠にハメられる。イ・ガンスはヨム・テスによって麻薬中毒にさせられ、サンジェ刑事は架空の収賄罪で逮捕されてしまう。そして時が経ち、決死で麻薬を絶ったイ・ガンスと冤罪で出所したサンジェ刑事、芸能界から引退してドラッグ業界で身をひそめるオム・スジンの3人は復讐を誓いチームとなっていく。ク・グァニは大統領候補の息子チョ・フンが起こすトラブルの後始末に追われていたが、更に出世を果たしていた。イ・ガンスたちはホテルでのチョ・フン逮捕の動画データと、チョ・フンが再び開催する船上ドラッグパーティの動画を入手することで権力者たちを引きずり降ろそうとするが、動画を持つオム・スジンを殺されたことで再び窮地に立たされる。失意の二人だったが、イ・ガンスとサンジェは最後の大勝負に出る。


二転三転する脚本にラストの30分はワクワクしっぱなしだ。よく考えられた脚本なのでツイストも効いており、しかもラストではしっかりと溜飲が下がる韓国娯楽映画の快作だろう。中でもやはり野心家検事ク・グァニを演じるユ・ヘジンが最高だ。まだ出世する前のク・グァニは事務所の中で一匹のゴキブリを見つける。その後を追うと壁に大量のゴキブリを発見するというシーンがあるが、最後まで本作を観るとあの大量のゴキブリは幻覚だったのではと思う。イ・ガンスが麻薬に冒され、幻覚を見るシーンで大量に現れるのもゴキブリなので、本作においては中毒状態にあることの”表現”としてゴキブリが使われているのだろうが、ク・グァニはさしずめ”権力中毒”なのだろう。ラストも一匹のゴキブリがク・グァニの背中に入り込む描写があったが、逮捕されながらもまだク・グァニの野心は消えていないという意味合いだったのだと感じる。状況によってコロコロと顔色を使い分け、力のある方に従っていく生き方をしていたク・グァニが、イ・ガンスのライターという”友情の証”によって足元をすくわれるという終盤の展開も、皮肉が効いていて面白い。


イ・ガンスとオ・サンジェは再びヤダンと刑事としてタッグを組んだことが示され映画は終わるが、これは続編が期待できるエンディングだった。自分を「スーパーマンだ」と言い放ち、暴虐武人に振る舞っていたチョ・フンの最後や、次期大統領が国民から卵を投げられるシーンなどはスッキリさせられるが、リュ・スンワン監督の「ベテラン」でも描かれていたように、現実の権力者に対しての国民のフラストレーションが見事に映画に反映されていたと感じる。とにかく鑑賞後は、面白い映画を観たという満足感で満たされる作品だったが、現在の韓国映画界は劇場ヒット作がなく、観客が配信コンテンツに流れて未曾有の危機らしい。日本も含めてちゃんと面白い映画が、映画館でヒットする日が来てほしいと強く感じる。

 

 

8.0点(10点満点)