映画「MERCY マーシー AI裁判」を観た。

「ナイト・ウォッチ」「デイ・ウォッチ」「ウォンテッド」などでメガホンを取り、近年でも「search サーチ」や「アンフレンデッド」などのプロデュースを手掛けた、ティムール・ベクマンベトフによるSFミステリー。出演は「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」「ジュラシック・ワールド」シリーズ、「トゥモロー・ウォー」などのクリス・プラット、「デューン/砂の惑星」「ミッション:インポッシブル」シリーズや「ドクター・スリープ」などのレベッカ・ファーガソン、「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」「マリグナント 狂暴な悪夢」のアナベル・ウォーリス、「プレゼンス 存在」のクリス・サリバン、「ボーはおそれている」のカイリー・ロジャーズなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ティムール・ベクマンベトフ
出演:クリス・プラット、レベッカ・ファーガソン、アナベル・ウォーリス、クリス・サリバン、カイリー・ロジャーズ
日本公開:2026年
あらすじ
凶悪犯罪が増加する近未来。敏腕刑事のレイヴンは、バディを組んでいた同僚警官が捜査中に殉職し、犯人が裁判によって無罪放免となったという苦い過去から、AIによる厳格な裁判制度の制定を提唱し、AI裁判所である「マーシー裁判所」が設立された。しかしある日、レイヴンが目を覚ますと、妻殺しの容疑で自らがマーシー裁判所に拘束されていた。レイヴンは冤罪を主張するが、事件前の記憶は断片的だった。無実を証明するには、AIが支配する世界中のデータベースから証拠を集め、AI裁判官が算出する「有罪率」を規定値まで下げなくてはならない。それがかなわなければ即処刑という状況の中、レイヴンは残された90分で真実にたどり着こうと奔走する。
感想&解説
本作を手掛けた、カザフスタン出身の映画監督ティムール・ベクマンベトフといえば、ロシア国内で大ヒットした2004年の「ナイト・ウォッチ」とその続編である「デイ・ウォッチ」が評価された後、ハリウッドに渡りアンジェリーナ・ジョリーを主演に迎えて撮った、2008年公開の「ウォンテッド」が有名だろう。その後も「リンカーン/秘密の書」や「ベン・ハー」のリメイクなどのやや評価は微妙だった監督作はあるものの、「search/サーチ」などのプロデュース業で成果をあげていたので、監督作としては久々の作品だと思う。今作はクリス・プラットとレベッカ・ファーガソンというスターを迎えて撮った、AI裁判をテーマにしたSFミステリーだ。
レベッカ・ファーガソン演じるAI裁判官のマドックスに、「妻殺害の容疑で起訴されたので制限時間90分の間に無罪を証明しろ。さもなくば即処刑が実行される」と宣告された、クリス・プラット演じるレイヴン刑事の奔走を描いた作品だが、この設定で最初に思い出されるのは、フィリップ・K・ディック原作、スティーヴン・スピルバーグ&トム・クルーズによるSFサスペンスの「マイノリティ・リポート」だった。予知能力者たちを使った殺人予知システムが実用化された近未来で、主人公がこれから起こす殺人の罪で告発されるという物語だったが、本作は予知能力者たちが全知全能の”AI裁判官”に置き換わっているのが、いかにも現代っぽい。そして実際に鑑賞してみると、かなりティムール・ベクマンベトフがプロデュースした、「search/サーチ」シリーズの延長にある作品だと感じる。さらに本作が影響を受けたであろう、もう一作は「デトロイト ビカム ヒューマン」というPS用のアドベンチャーゲームだ。アンドロイドの捜査官が主人公のゲームだったが、特に本作の捜査シーンにはほとんどそのままの演出があったので、監督は影響を受けているのだろう。
映画の冒頭、クリス・プラット演じるレイヴンが目を覚ますと、そこはAI判事のもと行われる法廷であり、目の前にいる裁判官はレベッカ・ファーガソン演じるマドック判事だった。2029年のロサンゼルスでは犯罪者の増加に伴い、裁判官も弁護士も陪審員も廃止し、全てをAIの判断に委ねる”マーシー裁判”が導入されていたが、レイヴンは最初にこの裁判にかけられた犯人を逮捕した刑事だ。だが拘束された罪状は妻ニコールを殺した犯人というもので、マドックが提示する証拠映像のすべては彼が犯人であると指し示しており、97.5%の確率で有罪と判断されていた。仕事場からなぜか帰宅し妻と口論した後、バーで酒を飲んでいるところを逮捕されたレイヴンは記憶を無くしており、90分の間に自分が無罪である証拠を見つけないと即死刑となってしまうが、実娘のブリットでさえ彼を疑っていた。
ここからネタバレになるが、相棒の刑事が殉職してしまったことを境に、酒に溺れる生活を送っていたレイヴンは断酒会のロブの助けを得ていたが、再び酒に溺れる毎日を送っており夫婦間の仲は争いが絶えなかったりと、レイヴンの行動には疑わしい点が多い。レイヴンはWEBカメラや監視カメラ、SNSやネット上の画像など可能な限りのデータベースにアクセスできる権限を与えられ、証拠を見つけていくことになるが、相棒の女性警官ジャッキーにも現場検証を頼み、妻のスマホを発見し浮気相手を突き止めるが、アリバイのあった彼は犯人ではなく、レイヴンの有罪確立は98%まで上昇する。だが、妻のスマホの履歴から職場で発生している尿素の盗難事件に行きつき、ギャンブルで借金を抱えており妻ニコールと口論していた同僚に目を付ける。事件前日のBBQパーティにも参加しており、どうやら誰かが自宅の地下室に隠れていた形跡を突き止めたレイヴンは、同僚の男を問い詰めると尿素を盗んでいたのは意外な人物であることが判明する。それはロブだった。
彼は事件当日も体調不良で会社を休んでおり、ロブの自宅を調査した警察とSWATチームは尿素から作られたと思われる爆弾の残骸を発見する。さらにレイヴンとマドック判事は部屋に飾ってあった写真から、彼の兄弟が最初にマーシー裁判によって死刑となった男であることを突き止め、彼の目的が今裁判が行われているこの場所であることが分かったが、なんとトラックには誘拐された娘ブリットも同乗していた。ジャッキーの助けを借りて暴走する爆弾トラックを追跡することになるが、数々の制止を振り切ってロブは裁判所に到着してしまう。そしてレイヴン&マドックとロブの最後の駆け引きが始まる、というストーリーだ。
基本的にはカメラの映像やSNSの履歴から、真犯人を追いかけていくという展開は「search/サーチ」シリーズそのものだろう。物語がすべてPCやスマホなのデジタルデバイス上に映る映像で進行していくというコンセプトで、2作品が作られているがどちらもストーリーが巧く練られており、ミステリー映画としても面白かったが、本作ではそれを裁判所のスクリーンに置き換え、AI判事のマドックと一緒に進めていくという展開にヒネリを感じる。これだけAIが普及した現代において、彼らは敵ではなく心強い味方なのだ。序盤こそレイヴンを犯人だと決めてかかり冷酷に対応していたマドックだが、中盤以降はレイヴンにヒントを提供しながら真相を追求していく”バディ”と化していく。直感で推理を進めていくレイヴンのことが理解できないマドックも、彼の人間性に感化されていくのである。レイヴンがラスト、「人間もAIも間違える、だが一緒に学んでいくんだ。」と呟くセリフに対して、マドックは「そうね。」と同意するが、これこそ人間とAIの在り方についてのメッセージなのだろう。ただ彼女がなぜ途中からマドックに肩入れしていったのか?という、”心情の変化”はもう少し明確に描くべきだっただろう。また作り手側がこの”AI裁判”に対して、どういうスタンスなのか?も分かりづらい。人間とAIは共存できるというのは理解できたが、この裁判制度についてはやはり人間がしっかりとしたプロセスで罪を裁いた方が良いという、明確なメッセージが伝わってこないので、ややぼんやりとした着地になってしまっていると感じる。
また、正直ストーリー展開としては「search/サーチ」シリーズよりも無理があると言えるだろう。そもそもレイヴンが逮捕される直接的なきっかけとなる、妻ニコールが死ぬ間際に発した「誰に刺された?」という問いかけに対する、「クリス」という答えはなんだったのだろうか。直前まで口論していたとはいえ、あれはミスリードが過ぎる。また序盤のクリスが記憶を酒のせいで完全に無くしており、自分の行動を覚えていないというのもかなり都合が良い設定だ。また妻ニコールがロブの犯罪行為を自分の上司やレイヴンには言わず、浮気相手にだけ相談していたという展開や、ロブの復讐の動機やラストのジャッキーの行動もイマイチ納得がいかない。風呂敷を広げたいがための展開という感じで、血の通ったキャラクターの行動とは思えずに強引さを感じてしまうのだ。とはいえクリス・プラットとレベッカ・ファーガソンは役柄にハマっていたと思うし、リアルタイムに展開する上映時間の100分は退屈することはないだろう。肩の力を抜いて気軽に楽しめる娯楽映画だった。
6.5点(10点満点)