映画「トゥギャザー」を観た。

本作が長編デビュー作となるオーストラリア出身のマイケル・シャンクスが、監督/脚本を手がけたボディホラー。サンダンス映画祭でのワールドプレミア上映で大反響を呼び、配給会社NEONが争奪戦の末に米国配給権を獲得したらしい。出演は「ウォーム・ボディーズ」「グランド・イリュージョン」シリーズのデイブ・フランコ、「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」「プロミシング・ヤング・ウーマン」のアリソン・ブリー、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」「BETTER MAN ベター・マン」のデイモン・ヘリマンなど。ちなみにデイブ・フランコとアリソン・ブリーは実生活でもパートナーらしく、倦怠感のある恋人同士をリアルに演じている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:マイケル・シャンクス
出演:デイブ・フランコ、アリソン・ブリー、デイモン・ヘリマン
日本公開:2026年
あらすじ
長年連れ添ってきたミュージシャン志望のティムと小学校教師のミリーは、住み慣れた都会を離れて田舎の一軒家に移り住む。しかし森で道に迷い、不気味な地下洞窟で一夜を過ごしたことをきっかけに、ふたりの穏やかな日常は暗転。ティムは突然意識が混濁して身体が暴走する不可解な症状に悩まされるようになり、気持ちがすれ違いがちだったミリーとの関係も揺らいでしまう。やがて、ミリーの身にも同じような症状が起こりはじめる。見えない磁力に引き寄せられるかのように互いを求めあうその現象は、ふたりが育んできた愛と人生のすべてを侵蝕していく。
感想&解説
昨年のコラリー・ファルジャ監督「サブスタンス」に続いて、新たなボディホラーの話題作が日本公開となった。本作が長編デビュー作となるオーストラリア出身のマイケル・シャンクスが、監督/脚本を手がけたホラー映画であり、サンダンス映画祭でのワールドプレミア上映で大反響を呼んだ作品らしい。主演のアリソン・ブリーとデイヴ・フランコは役者以外にもプロデューサーを務めているが、この二人は2017年に実生活でも2017年に結婚しており、本作の倦怠期にありながらも離れられないというキャラクター設定に大きな説得力を与えていると思う。
公式ページの監督インタビューから引用すると、”ひと言で言えば、この映画は「恋に落ちることで人はどう変わるのか」を描いた作品です。(中略)この映画は、誰かと人生を共有することの持つ恐怖や、付きまとう不安を、少し大げさに描いた作品です。共依存、一途な愛、ロマンスと恨み、そんな感情が交錯し、ある時点から「自分の人生」と「相手の人生」の境目が曖昧になっていく。そんなテーマを掘り下げています。”とのことで、長く付き合っているパートナーとの関係や感情を寓話的に描いた作品なのだろう。それをフィジカルな変化として、”身体がくっ付いていく”という表現をしているのである。
主人公は35歳でミュージシャンとしての成功を夢見ながらも結果が出ていないティムと、小学校の教師として働くミリーのカップルだが二人は倦怠期を迎えており、特にティムの方は自分のミュージシャンとしての未来と彼女との生活のどちらにも行き詰まりを感じている。ミリーはティムを愛していながらも、いつもセックスを拒まれており、フラストレーションを抱えている。そんな二人が心機一転、友人たちの住む都会を離れて、ティムの両親が残した田舎の一軒家に移り住むことになるが、森のハイキングの途中で地面に空いた穴に落ちてしまい、そこで一夜を過ごすことになる。朽ち果てた鐘や長椅子が置かれた不気味な空間には不思議な泉があり、喉の渇きを覚えてその水を飲んだティムだったが、翌朝になぜかミリーの足の一部とくっ付いてしまい、それから彼の身体には異変が起こり始める。ミリーが遠出するとその動きに合わせてティムの身体が勝手に動いてしまい、離れられないのだ。ここからネタバレになるが、ミリーの同僚教師であるジェイミーをもてなした夜、嫉妬したティムがミリーとキスすると唇がくっ付いてしまうし、バンドのリハーサルのために電車に乗ろうとしてもミリーの働く学校に勝手に足が向かってしまい、トイレでそのままセックスしてしまう二人。
だがその異常なティムの行動に対して不満を感じたミリーは彼に不信感を抱き、逆に距離を取ろうとする。そんな時ティムは、過去に行方不明になったカップルが同じ穴の洞窟の近くにいたことをSNSの履歴から発見するが、ミリーの身体にも異変が起こり始める。腕がくっ付いてしまったことから、筋弛緩剤を飲んでチェンソーで強引に腕を引き離す二人。その後、ジェイミーの家で新興カルト教団のビデオを見てしまったミリーは腕を切られ、洞窟の中でクリーチャーを見たティムはそれぞれなんとか脱出して、二人は合流する。相変わらず引き寄せられる二人だったが、ティムは今までの行動をミリーに謝罪し、自決する事でミリーを助けようとする。だが逆にミリーが出血多量で瀕死の状態になっていた。だがティムは合体することで傷口を塞ぐという判断をし、二人は想い出のスパイスガールズの曲を聴きながら、身体を重ね合う。そして二人の身体は溶け合い、文字通りひとつになっていく。そして後日、ミリーの両親を玄関に出迎えた合体したティム&ミリーの姿で映画は終わる。
すごく挑戦的で新鮮味のあるボディホラー映画だったと思う。ビジュアルとしても新しい表現に溢れていて、脚本も意外性があって先が読めないし、示唆に富んでいる。マイケル・シャンクスは本作が長編初監督とのことだが、オーストラリアからまたすごい才能のクリエイターが誕生したと感じる。序盤の引っ越しパーティの時、ミリーからサプライズのプロポーズを受けたティムが、困惑して固まってしまう場面があるが、序盤でのティムは明らかに未熟な存在であると描かれる。音楽家としての夢を追っているので、恐らく生活費の大半はミリーが負担しているのだろう。だが自分の才能は棚上げして、ミリーに付いて田舎に引っ越してしまうと自分の夢はいっそう成就できなくなると考えており、彼は彼女との未来に躊躇している。だが経済的にも精神的にも彼はミリーとは離れられないのである。ミリーが「あなたのママじゃない」と言うシーンは、彼女が日頃から思っているセリフなのだろう。
森の中で迷うシーンでの彼は、「いつでも戻れる」と豪語し森の奥に入ってしまい、大雨の中で迷った挙句に闇雲に歩き続けて、ミリーに制される場面があるが、彼は人生をこうやって歩んできたと想像できる。そして穴に落ちて、起こせもしない火を起こそうと湿った木片を集めるが、出来ないことをミリーは見透かしている。そしてそんなティムとは対照的に、ミリーは非常に大人だ。ティムの気持ちの変化を知りながらも、彼の気持ちに寄り添って色々と我慢している。ティムに夜の行為を断られたミリーが、「愛し合ってるのか、利用し合ってるだけなのか」と呟くシーンがあるが、彼らの間に確かに愛はありつつも、ティムは自分の才能が発揮できないのはミリーに囚われているからだと感じ、ミリーはいつまでも大人になれない彼に愛着はありつつも不満を感じている。二人の関係には大人の打算と疑念が入り込んでいるのだ。だが、そんな彼らの関係が変化するのは映画の終盤だ。絶対絶命のシーンで、ティムはパーティのミリーと同じくひざまずいてミリーにプロポーズの格好をする。そして自分がどれだけ未熟だったかを謝罪し、自分の命を絶ってまでミリーを救おうとすることで、最後に彼は成長するのである。
だからこそ、ラストで”ふたりがひとつになる”という意味のスパイス・ガールズ「2 Become 1」のレコードをかけながら溶け合う二人は、ジェイミーの言う”完全体”になれたのだろう。逆にティムが洞窟の中で見た不気味なクリーチャーは、完全体になれなかった成れの果てなのだと思う。多くのホラー映画が、このような身体が変形する結末に対してバッドエンディングの扱いが多いと思うが、本作においては”真実の愛”を確かめ合った上でひとつになったというポジティブな面と、カルト教団の鐘を玄関先につら下げていた不穏さが混ざり合った、不思議なニュアンスの着地になっていたと感じる。二人の目玉が融合するシーンはポスターデザインにもなっていて、どうやらグロすぎるからと変更になったようだが、ラストカットまできっちりと逃げずに見せ切る姿勢には感動したし、今までに観たことのないシーンになっていたと感じる。トイレでのセックスシーンの嫌さや摺りガラスのホラー演出など、あらゆる場面が本当によく出来ていた本作。次回作が楽しみなホラー監督がまた登場したと感じる。
8.0点(10点満点)