映画「ウィキッド 永遠の約束」を観た。

第97回アカデミー賞では作品賞を含む10部門にノミネートされ、衣装デザイン賞と美術賞を受賞、さらに興行的にも世界中で大ヒットした前作「ウィキッド ふたりの魔女」の待望の後編。監督は前作に引き続き、「イン・ザ・ハイツ」「クレイジー・リッチ!」などのジョン・M・チュウ監督が担当している。すでに北米では、全世界興行収入歴代1位を記録した前編「ウィキッド ふたりの魔女」のオープニング記録を超える1億5000万ドルを売上げ、初登場第1位を獲得している。出演はエルファバ役のシンシア・エリボ、グリンダ役のアリアナ・ グランデ、フィエロ役でジョナサン・ベイリー、マダム・モリブル役のミシェル・ヨー、オズ役のジェフ・ゴールドブラムと前作から続投しているキャストも多い。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ジョン・M・チュウ
出演:シンシア・エリボ、アリアナ・ グランデ、ジョナサン・ベイリー、ミシェル・ヨー、ジェフ・ゴールドブラム
日本公開:2026年
あらすじ
オズの国に隠された真実を知り、それぞれの道を歩むことになったエルファバとグリンダ。「悪い魔女」として悪名を着せられ民衆の敵となったエルファバは、言葉を奪われた動物たちの自由のために戦い続けていた。一方「善い魔女」となったグリンダは、希望の象徴として名声と人気を手にするも、その心にはエルファバとの決別が深い影となって落ちていた。和解の言葉も届かず、2人の溝が深まっていく中、オズの国に突如現れた“カンザスから来た少女”によって運命は大きく動き出し、2人はかつてのかけがえのない友と向き合うことになる。
感想&解説
前作「ふたりの魔女」は2024年11月にアメリカ公開された後、2025年3月に日本でも公開され、全世界の興行としても記録に残る大ヒット作品となったミュージカル作品だ。さらに第97回アカデミー賞では「作品賞」「主演女優賞」「助演女優賞」など合計10部門にノミネートされ、「美術賞」と「衣装デザイン賞」の2部門で受賞した上に、アメリカ国内でのブロードウェイミュージカル原作映画としては歴代最高の興行収入を達成した作品として、高い評価を受けたことは記憶に新しい。そして前作から約1年後という短いスパンで公開されたのが、待望の続編である「ウィキッド 永遠の約束」だ。”西の悪い魔女”となるエルファバと”善い魔女”となるグリンダが辿る、「オズの魔法使」に繋がる物語を描いたファンタジーミュージカルである。
前編は、魔法と幻想の国オズにあるシズ大学の学生として出会った、誰よりも人気者になりたいグリンダと、不倫の末に生まれた子供であり生まれつき全身が緑色だったため、忌み嫌われながらも強大な魔力を持つエルファバの二人が、紆余曲折ありながらも友情を紡いでいく”学園ものミュージカル”の作風が強かったと思う。エルファバの肌の色が緑であることを皆が”問題だ”と言い、見た目だけで差別されるという表現は現実社会においての人種差別を強く想起させるし、王子フィエロを愛しかけるも、自分の容姿と友情のために諦めざるを得ない彼女は、父親からも愛されず、希望を抱いてエメラルドシティまで会いにいったオズは動物実験の首謀者であり、魔法の使えない詐欺師だったという哀しい運命を辿る。かたやグリンダも魔法学部長マダム・モリブルに気に入られたいという目的がありつつも、実力を認められずに無視されている。
そして世界中のすべてに裏切られ、絶望に打ちひしがれたエルファバはグリンダと別れ、ガラスの窓を突き破って落下し、子供時代の自分の姿を見たことで過去と決別する。そして超絶的な存在として覚醒し、もっとも観客のテンションが高まったところで「To Be Continued」となり、疾走感と共に前作は幕を閉じる。ただ前作の冒頭では、“悪い魔女”が死んだことを市民が喜ぶ場面があったし、そもそも「オズの魔法使」は少女ドロシーが、カカシ、ブリキの木こり、ライオンと共にバケツの水をかける事でグリンダを溶かし、カンザスに帰るまでの物語なので、どう考えてもこの続編は悲劇的な話にならざるを得ない。前作ではあれほど各賞にノミネートされたアカデミー賞でも、この「永遠の約束」は完全にスルーされており、”0ノミネート”で終わっているのだが、やはり前作に比べるとカタルシスが得にくい作品になっているのは否めない。
映画冒頭、前作に引き続いて、映画「オズの魔法使」が公開された1939年当時の古いロゴと共に幕を開ける本作は、“悪い魔女”として民衆の敵となったエルファバと、マダム・モリブルの元で希望の象徴としての役割を背負い“善い魔女”となったグリンダの数年後が描かれる。エメラルドシティへと続く黄色いレンガの道を建設するため、こき使われている動物たちを助けるために颯爽と現れるエルファバの登場シーンは、完全にヒーロー映画の主人公のようだ。一方グリンダは魔法学部長マダム・モリブルの元、魔法が使えないのに”善い魔女”としての役割を与えられ、その代わりに彼女が夢見てきた人気者としての人生を歩んでいる。警備隊長となったフィエロとも婚約し幸せだと歌うグリンダだが、完全に魔女として国民から恐れられているエルファバのことが、心の片隅に引っかかっているという展開だ。
ここからネタバレになるが、映画中盤まではオズから逃げ出そうとする動物たちを止めるエルファバの前に現れる臆病なライオンが、前作でフィエロと一緒に檻から森に逃がした子どもライオンだったり、グリンダが婚約したことを知り、自分の気持ちを伝えようと去っていくボックにネッサローズが魔法をかけたことで、彼はブリキの身体に変えられてしまう。そもそも原作の「オズの魔法使」では、マンチキンの国を牛耳っていた「東の悪い魔女」が竜巻で飛ばされてきたドロシーの家によって潰されるというシーンがあったので、総督の地位を父親から引き継いだネッサローズこそが「東の悪い魔女」ということになる。そしてその後にドロシーが手に入れることになる靴は、もちろんネッサローズの”銀の靴”であり、このあたりから「ウィキッド」の続編というよりも、「オズの魔法使」のプリクエル(前日譚)の要素が強くなってくる。そしてこの竜巻を発生させたのはマダム・モリブルであり、前作でも描かれていた、天気を操る魔法が使えるという伏線をしっかりと回収している訳だ。
フィエロは真実の愛に目覚めたことでエルファバと行動を共にするが、ネッサローズが殺すことでエルファバをおびき出し、グリンダとエルファバは決定的に対立する。エルファバを助けるために捕まったフィエロはリンチを受けるが、彼が死なないように魔法をかけるエルファバは「善い行いをしても報われることはないのだ」と歌う。ラストで明らかになるが、この時点でフィエロはカカシになってしまったのだろう。これでドロシーを含んだ「オズの魔法使」のキャラクターがすべて描かれたことになる。この後は、オズの元を訪れたドロシーが「西の悪い魔女のほうきを持ってこい」と言われ、ブリキの身体に変えらたボックや臆病なライオンが住民たちと共に、「悪い魔女を殺せ」とエルファバに殺意を向けていることに懸念を抱いたグリンダは、エルファバの元へ急ぐ。ここで歌われるのは、本作のタイトルにもなっている「For Good」だ。二人の友情を確かめ合う曲であり、お互いの変化を認め合う美しい曲だ。そして原作通りに水を掛けられ(たように見えた)エルファバは消え去り、グリンダはオズに対して、エルファバの母親の浮気相手がオズだったこと、すなわちエルファバの父親はオズだったことを示し、彼を追放する。
そして怒涛のラストシーン、実は水をかけられてはおらず床下に隠れていたエルファバは、カカシとなったフィエロと再会を果たす。愛する人との幸せを掴んだエルファバとオズの国のリーダーとなったグリンダは、それぞれの場所で共に「For Good」を歌い、お互いの行く末を祝福することで本作は幕を閉じる。それにしても本作、正直中盤まではかなり退屈だった。キャラ心情に動きのない、分かり切った展開のまま終盤まで進む上に、全体的に暗くて憂鬱な展開が続くからだ。逆に終盤になると、とにかく広げた風呂敷を大急ぎで畳む展開になり説明不足過ぎて、ネッサローズが圧死したりフィエロがカカシになる展開は、「オズの魔法使」からの逆算の設定でしかないので、前作しか観ていない人だと意味不明だろう。今更ながら「オズの魔法使」と前作の復習は必須の作品だと言える。ただ前作から引き続き、「No Place Like Home」「Wonderful」「No Good Deed」「The Girl in the Bubble」など、楽曲については文句が出ないほどに素晴らしい。特にリプライズの使い方は秀逸だったと思う。ラストにかけて右肩上がりに盛り上がっていく、畳みかけ展開は見応えがあったが、やはり前作が素晴らしすぎたということだろう。謎にユルいエルファバとグリンダの小競り合い格闘シーンなど、やや残念な場面もある続編だったと思う。
6.5点(10点満点)