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映画「ザ・クロウ(2026)」ネタバレ考察&解説 前作「飛翔伝説」とはどこが違うのか?アクション映画としては凡庸だが、世界観やキャラクターの作り込みが素晴らしいリブート作!

映画「ザ・クロウ(2026)」を観た。

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「スノーホワイト」「ゴースト・イン・ザ・シェル」のルパート・サンダースが監督を務め、アレックス・プロヤス監督&ブランドン・リー主演で1994年に日本公開されたカルト・アクション映画「クロウ 飛翔伝説」をリブートしたダーク・ファンタジー。出演は「IT イット “それ”が見えたら、終わり。」「ジョン・ウィック コンセクエンス」「ノスフェラトゥ」のビル・スカルスガルド、「ハニーボーイ」にも出演していたシンガーソングライターのFKAツイッグス、「グッバイ、リチャード!」「探偵マーロウ」のダニー・ヒューストン、「マーシャル・ロー」のサミ・ブアジラなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ルパート・サンダース
出演:ビル・スカルスガルド、FKAツイッグス、ダニー・ヒューストン、サミ・ブアジラ
日本公開:2026年

 

あらすじ

恵まれない環境に育ち非行を繰り返してきたエリックは、同じく暗い過去を持つシェリーと更正施設で出会い、激しい恋に落ちる。施設から脱走したエリックとシェリーは、誰も知らない場所で2人だけの時間を過ごすうちに、お互いの中に生きる意味を見いだしていく。しかし謎の組織が隠れ家を襲撃し、2人はともに惨殺されてしまう。やがてエリックの強い怨念に引き寄せられるように、死の国の使者であるカラスが彼の魂のもとを訪れ、「復讐のための力を手に入れて生き返る代わりに、目的を遂げた後は魂を永遠に捧げる」という取引を持ちかける。これを受け入れ復活を果たしたエリックは、組織を滅ぼすべく夜の闇へと飛び出していく。

 

 

感想&解説

アレックス・プロヤス監督、ブランドン・リー主演の1994年公開作品「クロウ/飛翔伝説」が、32年の時を経てリメイクされるという事で、色々な意味で驚かされた本作。というのもブランドン・リーはブルース・リーの長男であり、「クロウ/飛翔伝説」の撮影中に撮影用の空砲から発射された弾頭が腹部に当たって、28歳という若さでこの世を去ってしまったという、いわく付きの作品だからだ。ほとんどのシーンは撮影終了していたものの関係者のショックは大きかったらしく、特に実際に銃を撃った俳優のマイケル・マッシーはその後一年間休業し、2016年に61歳という若さで亡くなっている。ちなみにリブート作の監督であるルパート・サンダースは、前作同様の事故が絶対に再発しないように、撮影用の銃器は全てエアソフトガンを使用したらしい。

さらに亡くなったブランドン・リーの代役は、当時スタントマンだったチャド・スタエルスキが起用されていて、彼はブルース・リーが創始した武術”ジークンドー”の継承者に師事しており、その後の「マトリックス」ではキアヌ・リーブスのスタントダブルを務め、「ジョン・ウィック」で映画監督デビューしたりと一線級で活躍していることはご存じの通りだ。チャド・スタエルスキ監督のような著名な映画クリエイターがこの「クロウ/飛翔伝説」に携わっていたことは感慨深い。「クロウ」シリーズはその後、劇場公開作としては3作品の続編が作られたが、ほとんど話題にならず闇に葬られているが、「ダークシティ」「アイ,ロボット」などで有名なアレックス・プロヤス監督による1994年の前作は、大衆向けの娯楽大作というよりはカルト的な立ち位置の作品だと思う。

 

「クロウ/飛翔伝説」のストーリーは、結婚式を翌日に控えていたロック・ミュージシャンのエリックと婚約者シェリーが、悪漢たちの手によって暴行された上に惨殺されるが、その一年後にエリックは死の国の使者であるカラスの力を携え、不死身の身体を手に入れて復讐を遂げるというものだ。劇中ではひたすらに雨が降り続ける暗い画面に、「ザ・キュアー」「ストーン・テンプル・パイロッツ」「ナイン・インチ・ネイルズ」「ジーザス&メリー・チェイン」といった人気バンドの曲が鳴り響き、そこに白塗りにメイクしたブランドン・リー演じるたエリックがひたすらに自分と恋人を殺した男たちに復讐していくという、ダークな世界観が魅力の作品だったと思う。まさに90年代オルタナティブ・ロックの音像をそのまま映像化したような映画だった気がする。

 

 

そして本作リブート版の「ザ・クロウ」だが、雨が降る中、カラスの力を得た不死身の男が復讐するというベースだけは同じだが、前作とはかなり趣の異なる作品になっている。カラスを撃たれると不死の能力が無くなるという設定もオミットされていたし、エリックとシェリーに懐いていた少女サラの存在も無くなっている上に、シェリーを殺した相手が”街のマフィア”という設定も変更されている。前作ではその複数人のマフィアを順番に殺していくという、いわば”ゲーム的”な構成で映画が作られていたが、今回は悪魔と取引きして”声”で相手をコントロールするという、ダニー・ヒューストン演じる悪役ビンセントと女性部下であるマリオンにヴィランの役割を集約おり、ストーリー構造自体が大きく違うのだ。これによって物語の推進力が減退しているのは否めない。

 

また本作をシンプルな、”ダークヒーローの復讐劇”や”爽快なアクション映画”として観るとかなりテンポが悪く、なかなか本題が始まらないように感じるかもしれない。さらに死ぬ度に“生と死の境界”を行き来して、何度もクロノスと会話する場面が出てくるのも単調だ。ここからネタバレになるが、さらに悪役ビンセントが一体何者だったのか?最終的にはなにがやりたかったのか?も抽象的でモヤモヤするし、あれだけの能力を持つ権力者が”スマホに残った動画”のために、右往左往させられているのも間抜けに見える。ラストの決着も含めて、ヴィランが魅力的ではないのだ。エリックは愛するシェリーのために自分の魂を差し出すことを誓い、その結果シェリーは地獄のような境界からクロノスのいる”生と死の境界”に戻ってくることができるのだが、これも明確なハッピーエンドとは違い、あえて抽象的なエンディングにしているのも賛否ある気がする。全体的にアクションの快感は低いのだ。「悪魔のロベール」のオペラとカットバックしながら、血みどろのゴアアクションを繰り広げるシーンも、正直それほど興奮しない。ゴア演出も血の量は多いが、目新しい演出もなく既視感も強い。アクション映画としては凡庸なのだ。

 

ただ今作は作品全体における美術、そして世界観やキャラクターの作り込みは素晴らしい。特にエリックとシェリーの関係を入念に描いているのは大きな変化だろう。前作では婚約関係にあった二人がすでに殺されている場面から始まっていたのに対して、今回は二人の厚生施設での出会いから丹念に描いており、孤独な魂を持った二人が”やっと出会えた”という感じが強く演出されている。「飲むのがつらい紅茶(ティー)は?」という謎かけに「リアリティ」と答えるセリフは秀逸だったが、お互いが厳しい現実を生き抜くために不可欠な存在であることが描かれるのだ。だからこそシェリーがビンセントに操られていたとはいえ、人を殺したことがあるという事実にエリックは動揺し、彼女への信頼が揺らぐと不死の能力が失われるという、前作にはなかった設定が追加されている。「愛の反対は憎悪ではなく、疑いを持つこと」というセリフがあったが、本作は単なるアクション映画ではなく、”愛と自己犠牲の物語”になっているのだ。そもそも原作者のジェ−ムス・オバーが経験した、若くして婚約者を交通事故で亡くした哀しみを作品にしたのが「ザ・クロウ」なので、原作へのリスペクトも感じる。

 

またエリックを演じたビル・スカルスガルドは、過去「IT/イット」「ノスフェラトゥ」などの代表作を塗り替えるレベルで、役にハマっていたと思う。全身タトゥーだらけの長身でスタイル抜群の上に、メイクやピアスといった小道具とあの冷たい目が最高にクールで、彼が主演というだけで本作は観る価値があると思う。エリックは”不死身”という能力以外の特別な力はなく、何度も撃たれ刺されるのだが、その弱さや脆さも含めて完璧な主演だった。また前作ではナイン・インチ・ネイルズがジョイ・ディビジョンの「Dead Souls」をカバーしていたが、今作では「Disorder」がかかる他、The Veilsの「Total Depravity」やFoals「What Went Down」が使われたりと、ロック映画としても楽しめる。どうやら本国でも賛否両論のようだが、個人的にはアクション部分の難点もありつつも、「ザ・クロウ」のリブート作として満足感のある一作だったと思う。

 

 

6.5点(10点満点)