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映画「プロジェクト・ヘイル・メアリー」ネタバレ考察&解説 原作未見のためご容赦を!回想が挟まる構成やキャラクターの説明不足によって、やや期待ハズレの感想!ただ監督十八番の”バディムービー”としては楽しい一作!

映画「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を観た。

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「21ジャンプストリート」「22ジャンプストリート」「レゴ(R) ムービー」「スパイダーマン スパイダーバース」シリーズと、手掛けた作品が傑作ぞろいのフィル・ロード&クリストファー・ミラーが久しぶりに監督/製作を務めたSF大作。「キャビン」「ホテル・エルロワイヤル」の監督や、「オデッセイ」「ワールド・ウォー Z」の脚本を手がけたドリュー・ゴダードが脚本を担当しており、リドリー・スコット監督の傑作「オデッセイ」の原作「火星の人」などで知られる作家アンディ・ウィアーのベストセラーSF小説を映画化した作品だ。出演は「ラ・ラ・ランド」「バービー」のライアン・ゴズリング、「落下の解剖学」「関心領域」のザンドラ・ヒュラー、「search #サーチ2」「オールド」のケン・レオン、「人狼ゲーム 夜になったら、最後」のミラーナ・バイントゥルーブなどが出演している。今回もネタバレありで感想を書きたい。 

 

監督:フィル・ロード&クリストファー・ミラー
出演:ライアン・ゴズリング、ザンドラ・ヒュラー、ケン・レオン、ミラーナ・バイントゥルーブ
日本公開:2026年

 

あらすじ

太陽のエネルギーが奪われるという原因不明の異常現象が発生。このままでは地球は冷却し、人類は滅亡してしまう。同じ現象が太陽だけでなく宇宙に散らばる無数の恒星で起こっていることが判明し、11.9光年先に唯一無事な星が発見される。人類に残された策は、宇宙船でその星に向かい、太陽と人類を救うための謎を解くことだった。このヘイル・メアリー・プロジェクトのため宇宙に送り込まれたのは、優秀な科学者でありながら学会を去り、いまはしがない中学教師をしていたグレースだった。彼は地球から遠く離れた宇宙でたったひとり、自らの科学知識を頼りにミッションに臨み、そこで同じく母星を救おうと奮闘していた異星人ロッキーと出会う。姿かたちも言葉も違う2人は、科学を共通の言語にして難題に立ち向かい、その過程で友情を育んでいく。

 

 

感想&解説

本作「プロジェクト・ヘイル・メアリー」は、2026年上半期の洋画では最大級の話題作だろう。そもそも2021年に刊行されたアメリカの作家アンディ・ウィアーのSF原作がかなりの評判を呼んだことから、本作の予告編が上映された時には「これはネタバレではないか?」と賛否両論が巻き起こったことも記憶に新しい。そして映画ファンの間では、あのフィル・ロード&クリストファー・ミラーの久しぶりの監督作であることと、主演がライアン・ゴズリングという事で否が応にも期待値が高まった作品だと思う。フィル・ロード&クリストファー・ミラーのコンビ作でいうと、2014年公開の傑作「LEGO(R) ムービー」以来となり、「スパイダーマン スパイダーバース」シリーズのプロデュースなどはあったものの、かなり久しぶりの監督作だ。

特に「ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー」におけるディズニーとの軋轢と降板劇はセンセーショナルだったが、彼らが「プロジェクト・ヘイル・メアリー(以下、PHM)」のようなSF超大作でメガホンを取るとは、正直意外だった。そもそも「くもりときどきミートボール」というアニメーション作品でデビューし、その後ブレイク前のチャニング・テイタムとジョナ・ヒルが出演した、2012年製作のコメディ映画「21ジャンプストリート」が評判を呼んだコンビ監督だが、その後も「LEGO ムービー」「22ジャンプストリート」とコメディ映画のイメージが強い監督で、勝手に「PHM」のようなガチンコSFとは相性が悪いと思っていたからだ。ところが実際に鑑賞してみると、これはフィル・ロード&クリストファー・ミラー監督十八番の、コメディタッチの”バディムービー”になっていたと感じる。

 

ただ、まず原作未見という前提にはなるが、個人的には”やや期待ハズレ”の作品だったことは正直に書いておきたい。フィルマークスでも現在「4.2」とあまりに評価が高いのと原作の評価が高かったこともあって、期待値を上げ過ぎたのかもしれない。ここからネタバレになるが、冒頭でライアン・ゴズリング演じるグレースが記憶を失った状態で目を覚まし、そこから”何故彼は一人で宇宙に放り出されているのか?”を過去の回想を挟みつつ描かれていくのだが、映画を観ていると無作為に過去回想が挟まれていると感じてしまい、宇宙で盛り上がるシーンでいちいち過去に飛ぶためブレーキがかかってしまう。これは恐らく原作通りの構成なのだと思うが、映画版では説明不足で性急な展開な上に、この構成であることで全体的に慌ただしさが際立ってしまい、物語への没入感が阻害されていると感じる。

 

 

序盤でグレースが中学教師だったにも関わらず、過去の論文と過激な言動によって学会を追放されるが、政府のエヴァ・ストラットにスカウトされ、そのままあれよあれよと未知なる生命体「アストロファージ」の調査に巻き込まれる。この時点でグレースは”優秀な人物”なのだろうという想像は付くが、彼が地球上でどの程度稀有な存在で特別なのか、彼のスキルは知識だけなのかなどは全く伝わってこない上に、セリフ上でしか太陽のエネルギーが奪われるというやり取りがされないので、地球が本当に危険という感じがしない。限られたメンバーだけが集まる”重要会議”に何の前準備もなく参加させられ、予算がないために実験環境をDIYしている彼らの姿を見ていると、このプロジェクトが世界にとってどれくらいの緊急度と重要度なのか?が、イマイチ伝わってこないのだ。よって終盤、片道切符のミッションに行く事を拒むグレースを、エヴァ・ストラットが薬を打ってまで強引に連れていく理由もわからない。事故の前は別の人がアサインされていたのだろうし、グレースが自分で言っていたが、彼は訓練を受けた宇宙飛行士ではないために、たった3人だけの宇宙飛行に彼をメンバー入りさせるのは相当なリスクだろう。また自分の意志ではなく連れてこられたという展開も、それほど意外性がある訳ではないので、この”回想構造”にした意味合いも弱く感じる。

 

ただ恐らくこのあたりの理由や考証について、原作の方では説明があるのだと想像する。上下巻にも亘る原作を156分の映画版にまとめるのは無理があるし、この映画はSFファン向けではなく完全にエンターテインメント作品として作られているからだ。ここにフィル・ロード&クリストファー・ミラー監督が起用された理由があるのだろうが、本作は完全にエイリアンと地球人のバディムービーとして演出されている。過剰にロッキーを可愛らしい存在として描き、グレースとロッキーの友情を深堀りしていく事に時間を使う。序盤でもっとグレースの孤独感を演出してから、ロッキーと対面させた方が効果的だと思うが、ロッキーはかなり早い段階から登場する上にグレースと有効な友好関係を結ぶのは、友情シーンを長く描きたかったからだろう。ここからロッキーとグレースの”イチャイチャ場面”が続くのだが、これは科学的な説明に尺を使うよりも彼らの友情を深堀りすることの方が、本作には必要な描写だったという事だろう。

 

エイリアンとの友情テーマは過去にもたくさんの作品があるし、ストーリーも非常にシンプルな展開で意外性はそれほどない。グレースが自分の代わりに地球へデータを送るべく、ビートルズメンバーの名を冠した小型宇宙船を送り出したあと、ラストでグレースは地球に帰れるにも関わらず、ロッキーの星で暮らすことを選択する。この展開だけはやや意外だったが、彼は教師として多くの異星人の前で地球にいた時と同じく教鞭を取ることになる。これはアンディ・ウィアー原作「火星の人」の映画版である、リドリー・スコット監督「オデッセイ」のラストシーンを思い出させる。地球に戻りNASA教官となったマット・デイモン演じるマーク・ワトニーが、宇宙飛行士訓練生たちの前で「何か質問ある人?」と言うと一斉に手が上がるシーンで幕を閉じるが、今作では種族を超えて若い層に知識を与える姿が描かれており、これは作家アンディ・ウィアーの理想なのだろう。

 

ポール・マッカートニーが妻リンダと過ごした幸せな日々を歌詞にした、ビートルズの「Two of Us」の使い方や、ザンドラ・ヒュラーがカラオケで歌うハリー・スタイルズ「Sign of the Times」など音楽の使い方は素晴らしかったし、「インターステラー」や「未知との遭遇」といったSF名作へのオマージュに溢れた作風は見応えがある。特に「未知との遭遇」は劇中でも5音の”交信メロディ”が使われていたが、ぞんざいな扱いを受けていた中年男のロイが、最後は宇宙人のUFOに友好的に招き入れられて地球を離れるまでのストーリーであり、本作はその遺伝子を感じる展開だ。アンディ・ウィアーが「火星の人」から描き続けている、科学と協力する人類が苦難に勝つストーリーは夢があったが、本作ではさらに科学の力があれば外見すら違う宇宙人との友情だって成立するのだという、とてつもなくポジティブな作品だった気がする。最後に本作の主演はライアン・ゴズリング以外は考えられないくらい、ハマリ役だった。軽さとシリアスさの塩梅が絶妙なのだ。監督の資質が活きたコメディシーンはちゃんと笑えるし、相棒のロッキーは愛らしい。娯楽映画としてはよく出来たバランスだったが、おそらく「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の真骨頂は原作の緻密な設定にある気がする。原作を読んだあと、もう一度映画を見直したい。

 

 

6.0点(10点満点)