映画「猛襲」を観た。

「セブン・シスターズ」「バイオレント・ナイト」「スペルマゲドン 精なる大冒険」などのトミー・ウィルコラ監督/脚本による、サメパニックスリラーで、Netflix限定配信作品。原題は「Thrash」で、”打ちのめす”や”鞭打つ”などの意味のタイトルだ。出演は「Fair Play フェアプレー」のフィービー・ディネバー、「トラップハウス」のホイットニー・ピーク、「クワイエット・プレイス DAY 1」のジャイモン・フンスー、「ソニック × シャドウ TOKYO MISSION」「マッドマックス フュリオサ」のアリーラ・ブラウン、「トランスフュージョン」のマット・ネイブルなど。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:トミー・ウィルコラ
出演:フィービー・ディネバー、ホイットニー・ピーク、ジャイモン・フンスー、アリーラ・ブラウン、マット・ネイブル
日本公開:2026年
あらすじ
巨大ハリケーンが海辺の町サウスカロライナ州アニービルを直撃するとの警報に、大勢の住人たちは大慌てで避難するが、一部の人は逃げ遅れて、家で孤立無援に陥る。みるみる水位が上がり、行動が制限される中、助けを求めるも時間だけが過ぎていく。しかし、直面しなければならない恐怖はそれだけではなかった。濁った洪水と共に獰猛なサメの群れが身近に迫ってくる。
感想&解説
古今東西、”サメ映画”というサブジャンルでは作品が量産され続けている。サミュエル・L・ジャクソンの怪演が忘れられないレニー・ハーリン監督「ディープ・ブルー」や、事実をベースに創作されたクリス・ケンティス監督の「オープン・ウォーター」、さらにブレイク・ライヴリーが単身サメと戦うジャウム・コレット=セラ監督「ロスト・バケーション」や、200万年前に絶滅したはずの巨大なサメよりジェイソン・ステイサムの方が強いことを確認するだけの作品である、ジョン・タートルトーブ監督「MEG ザ・モンスター」など、ハリウッド製作による大作だけでも枚挙に暇がない。そこにB級/C級の作品まで合わせたら、とんでもない数になるだろう。日本でも「温泉シャーク」なるインディーズ作品が話題になったが、それだけサメ・パニックは映画のテーマにしやすいのだと思う。
そんなサメ映画の中でも、言わずと知れた金字塔は1975年公開スティーヴン・スピルバーグ監督の「ジョーズ(JAWS)」だろう。監督こそ変更になったが、シリーズ4作品が作られているパニックスリラーの大傑作だ。そしてこのトミー・ウィルコラ監督「猛襲」は、「ジョーズ(JAWS)」を始めスティーヴン・スピルバーグが手掛けたモンスターパニックからの影響を隠さない珍作になっていたと思う。まず舞台はサウスカロライナ州アニービルという海沿いの街であり、そこに”ヘンリー”という超大型ハリケーンが近づいている場面から映画は始まる。ジャイモン・フンスー演じる海洋生物研究者デイル・エドワーズは学者仲間から、このハリケーンは最大級のカテゴリーに属し、ニックネームは殺人鬼である”テッド・バンディ”だと言われている。そんなデイルは姪のダコタがいるが、彼女は父親に続いて最近母親を亡くし、外出が出来ない広場恐怖症を患っていて、ハリケーンが来ているにも関わらず家にいることを選択する。
さらに街には仕事終わりで帰宅しようとする、妊婦のリサ・フィールズが車を走らせている。彼女はお腹の子どもの父親に逃げられ母親に心配されているが、道路が封鎖されたことにより街から脱出できない。また里親のビリー・オルセンと妻の元で暮らすロン、ディー、ウィルの3人兄妹はビリー夫婦に虐待されているが、彼らはハリケーンに対しても「ただの大雨だ」と言い街を脱出しようとしない。そんな中、遂にヘンリーがアニービルを直撃したことで街の道路は冠水し、彼らは脱出路を絶たれてしまうが、海洋生物研究者デイルは姪のダコタを助けるために街に向かう。そんな時、肉加工会社のトラックから流れ出た大量の血に誘われたサメの軍団がアニービルに向かってきていた、というのが序盤までの展開だ。ここからしばらくは妊婦リサの車が木に挟まって動けなくなったところをダコタが助けにいったり、里親ビリーが子供たちを置いて逃げようとしたところをサメに襲われたりと、目新しさはないものの手堅いシーンが続く。
特に心を閉ざしていたダコタが勇気を出して行動することでキャラクターの成長を描こうとしていたり、里親のビリー・オルセンがあまりに酷い里親のため兄弟が団結していたり、出産間近の妊婦という”タイムリミット”のあるキャラクターが登場したりと、中盤までのキャラクター演出は決して悪くないと思う。だが(ここからネタバレになるが)、これらのどれもが後半の展開に活きてこず、キャラクター設定がほとんど活きないのである。そればかりか中途半端にコメディ演出を入れてきて、せっかくのサメに追われるというスリル感を削いでしまっている。半端なコメディ演出のせいで、観ていてまったくドキドキしないのだ。水に浮かぶベッドの上で妊婦リサが産気づいてしまった時、どこから取り出したのか分からないスマホから流れだすアンビエントな曲や、里親ビリーが片手を食われているにも関わらず、突然水中から現れて子供たちに悪態をつくシーンなどの数々が、まるで”ギャグシーン”として演出されているので、”サメ映画”として真面目に観ていると醒めてしまう。
その後はラストまでツッコミどころが満載すぎて、本当に真面目に観ていられない。特に前半であれだけ引っ張ったリサのお産周りは、完全に真面目に描く気がないのだろう。セリフの伏線回収とばかりにリサは”水中出産”するのだが、あれだけ不潔な海水の中で生まれた上に、顔中に海水を浴びている赤ちゃんの方がサメよりも気になってしまうし、生んだ直後から元気いっぱいにサメを撃退するリサの姿には笑うしかない。ロンたち3兄弟が最後に見つけるダイナマイトも、明らかに「ジョーズ(JAWS)」ラストの”空気ボンベ”オマージュなのだろうが、本作ではたくさんいる中の1匹を殺せただけなので、馬鹿笑いしているうちに他のサメに襲われないかとヒヤヒヤするし、とにかくロンのセーターがサメから逃げる最中に2回も引っかかるというチープなスリル場面には、さっさとセーターを脱げと言いたくなる。ほとんど水没していたビリーの車のエンジンがかかるラストシーンも、あまりに馬鹿馬鹿しい。
唯一のスター俳優であるジャイモン・フンスーが助けにくる終盤もそれほど盛り上がらず、ダコタとリサの絶体絶命のピンチでは、なぜかホホジロザメである”ネリー”が小さいサメを横からガブッと喰らってくれるという、もう何度観たか分からない、通称”ジュラシックパーク・オマージュ”で難を逃れ、ネリー自体はなぜか人間を襲わずに立ち去ってくれるという謎展開で幕を閉じる。とにかく作り手の都合だけでストーリーは展開し、後半になるにつれてトンデモ行動を繰り返すキャラクターたちに心が離れていく。豪雨で半水没した町を舞台にしたアクション映画という意味ではモーガン・フリーマンが悪役を演じ、クリスチャン・スレーターが主演していた1998年「フラッド」を思い出したりもしたが、設定は面白くなりそうにも関わらず、どうにも気持ちが上がらないのだ。
「バイオレント・ナイト」「スペルマゲドン 精なる大冒険」など、コメディタッチな作品が得意なトミー・ウィルコラ監督の新作は、ハリケーンによって閉ざされた街がサメに襲われるというシリアスなテーマのパニックスリラーにも関わらず、妙なコメディ演出のおかげで中途半端な着地になっていたと思う。83分というタイトな上映時間は良いのだが、極限状態の出産や親を亡くしたことによる精神病、里親に虐げられた兄妹といったキャラ設定は雑に扱われ、作り手の都合だけで進むストーリーテリングによって凡庸な映画になっていた本作。最初は劇場公開予定だったのを配信限定にしたらしいが、これは製作したソニー・ピクチャーズの英断だったかもしれない。
3.5点(10点満点)