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映画「悪夢の系譜」ネタバレ考察&解説 祝!4Kデジタル修復版!意味不明のストーリーだが、映像的には見どころが多いオーストラリア産のカルトホラーサスペンス!

映画「悪夢の系譜」を観た。

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ニュージーランド生まれの映画監督トニー・ウィリアムズが長編2作目として公開した、サスペンスホラー。トニー・ウィリアムズはこの映画を発表して以来、劇映画の監督からは離れているが、本作はシッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀賞を受賞するなど高い評価を受けている。ただ日本では「悪夢の系譜 日記に閉ざされた連続殺人の謎」のタイトルでビデオリリースされたのみで、長らく鑑賞が困難な知る人ぞ知るカルト作だったが、2026年にようやく4Kデジタル修復版で劇場公開が実現した。ドイツの電子音楽グループ「タンジェリン・ドリーム」の元メンバーで、「アングスト 不安」のサウンドトラックを手がけたクラウス・シュルツェが音楽を担当している。今回もネタバレありで感想を書きたい。 

 

監督:トニー・ウィリアムズ
出演:ジャッキー・ケリン、ジョン・ジャラット、ジョルダ・ニコルソン、アレックス・スコット
日本公開:2026年

 

あらすじ

疎遠だった母が亡くなったことをきっかけに、一族が代々所有してきた田舎の屋敷「モンクレア」を相続することになったリンダ。現在は高齢者向けの養老院として使われているその建物にリンダが到着すると、入居者のひとりが浴槽で溺死しているのが発見される。リンダは母が遺した日記を読み始め、母がこの家に潜む「何か」の存在を疑っていたことを知る。屋敷にまつわる数々の謎、屋敷にうごめく説明のつかない気配を感じずにはいられないリンダ。この不穏な空気を誰とも共有できず、孤独を感じていた彼女は、モンクレアに隠された一族の秘密と、屋敷で続いてきた不可解な死の真相に否応なく向き合うことになる

 

 

感想&解説

クエンティン・タランティーノによる「『シャイニング』に匹敵するような映画はほとんど存在しない、唯一の例外があるとすればこの『悪夢の系譜』だろう。」というコメントが、宣伝コピーとして大々的に使われているが、いわゆるカルト映画として日本では長らく鑑賞できない環境だった本作が、いよいよ”4Kデジタル修復版”として公開になった。監督はトニー・ウィリアムズというニュージーランド生まれの監督であり、元々は撮影監督から長編映画の監督となり、デビュー作の日本未公開作「Solo」を発表した後、拠点をオーストラリアに移しCMを多く撮影しながら、長編2作目を製作したのが本作「悪夢の系譜」となる。よって本作はオーストラリア映画という扱いらしい。

 

元々は「悪夢の系譜 日記に閉ざされた連続殺人の謎」というタイトルで1982年に本国公開されたが、日本では劇場公開スルー&ビデオリリース作品だったようで、最近の旧作デジタルリマスター公開の波に乗って日本でも劇場鑑賞できるのは嬉しい限りだ。作品としては、よく言えば静謐な悪く言えば地味な作品だが、所々に目を惹く演出があり、特に終盤は作品世界にしっかりと引き込まれる。ジャンルとしては、いわゆる”幽霊屋敷もの”に近いのだろうが、タランティーノの言う「シャイニング」をはじめ、ニコラス・ローグ監督「赤い影」や、ドリーズームといった手法からもアルフレッド・ヒッチコック監督「めまい」の影響も感じる正統派のサスペンスホラーだろう。ただしグロ表現は皆無なので、そういう描写が苦手な方も問題なく観られると思う。

 

映画冒頭、傷ついた女性がダイナーに停めた車に乗り込むシーンから始まるのだが、これはクライマックスシーンであり、なぜこのような状況に陥ったのか?が劇中で語られるという構成になっている。彼女は主人公リンダだが、疎遠だった母メアリーが亡くなったことをきっかけに、一族が代々所有してきた”モンクレアの屋敷”を相続することになる。広大な敷地にある屋敷は、母メアリーの意向により、現在は高齢者向けの養老院として運用されており、そこはコニーという女性が責任者として現場を回しているのと、バートンという医師が居住者たちの面倒を見ている。リンダは新しいメンバーの受け入れに前向きではなかったが、コニーから今度ライアンと言う新しい入所者が来る事を聞かされ、経営状態を考えると受け入れざるを得ず、土砂降りの夜、足の不自由なライアン夫人とやや粗暴な甥を施設に招き入れる。そしてリンダが施設の管理を始めて間もなく、入所者のランスが浴槽で老人コリンズの溺死体を発見し、あまりに恐ろしい現場を見てしまったランスはショックで床に臥せってしまう。

 

 

その後入所者達の遠足が行われ、コニーとバートンが出かけてしまい、療養中のランスとリンダだけがモンクレアの屋敷に残ると、その夜に不思議な現象が起こり始め、リンダは悪夢を見る。ここからネタバレになるが、勝手に浴室や洗面所の水が全開になり、誰もいないはずなのに人の気配が漂い始める。そんな中、リンダは母メアリーが残した日記に目を通し、メアリーもこのこの場所に対して強い不安を抱き、誰かの気配を感じていたことを知る。さらに叔母リタの死因についても気になり、バートンに聞き込みをするが「彼女は死んだ。過去を振り返るな」と有力な情報は聞き出せない。その後、再び母のガウンを着用した何者かを目撃したリンダは、母の日記に更なる手掛かりを探して読み進める。すると過去にも不可解な入居者の溺死が繰り返されており、しかも幼い頃のリンダはその現場を目撃していた事を知る。さらに亡くなった入所者の死因をカルテで照合し主治医を見ると、全ての事例でバートン医師が関与していた事が判明し、リンダは錯乱状態になり恋人バーニーに助けを求める。

 

真相を知るために、屋敷に向かう二人。単独でモンクレアに入っていくバーニーを見送るリンダは、噴水のところで首を切られたコニーの死体を発見する。そして屋敷の中では、車いすの上で殺されたバーニーの死体があり絶叫するリンダ。そして逃げ惑うリンダの前に、ライアン夫人に扮した叔母リタが現れる。なんと彼女は死んでおらず、コニーとバートンによって屋敷を追放されたのだと告げ、甥だと名乗っていた男と共に襲ってくる。浴室でリタの目を刺し、そのまま車で逃げるリンダは冒頭のダイナーに駆け込むが、そこには甥が運転する暴走トラックが突っ込んでくる。そしてリンダはダイナーにあった銃で男の頭を撃ち抜き、爆発するダイナーを背に少年と共に朝焼けの中を車で走るショットで本作は幕を閉じる。

 

正直、叔母リタが生きていて、なぜ甥と名乗る男はリンダを襲ってくるのか?コニーとバートンがリタたちに殺されたのだろうが、バートンは入居者たちを殺すことに何の意味があったのか?そしてリタを追放した意味はなんなのか?そもそも母親の日記というのは、本当に実在したのか?だとすると何故コニーたちはそれを残していたのか?など、特に終盤はまったく理解できないことだらけだ。だが本作は、そういう理屈で鑑賞する作品ではないのだろう。幼いころのトラウマから忘れていた記憶の断片が蘇るリンダが持つ赤いボール、雷雨や浴室など絶えず落ちてくる水滴の描写、噴水から噴き出す赤い血、暗い廊下を駆け抜けていくカメラワーク、突如挿入される脱出シーンにおけるスローモーション、メインビジュアルにも採用されている角砂糖を積み上げる静かなショットからのトラック突撃、そしてあまりに印象的なラストの爆発シーン(もちろんVFXではない)など、今みても全く古びていない映画的な演出の数々は非常に美しい。

 

前半のやや冗長なリンダとバーニーのイチャイチャの数々も、養老院の中で過ごす高齢者たちとの”若さと老い”の対比になっていて、それはそのまま本作における”生と死”を感じさせるし、屋敷で起こる怪奇現象自体が、ランス老人の仕業かと思わせるようなギリギリの演出になっているのも巧い。また音楽も「恐怖の報酬」「炎の少女チャーリー」「ニア・ダーク/月夜の出来事」を手掛けた、ドイツのプログレッシブバンド「タンジェリン・ドリーム」の元メンバーであるクラウス・シュルツェが担当しており、彼の音楽が見事に悪夢の夜を彩っていたと思う。現代のホラー映画と比べてしまうとあまりに地味で何も起こらない、いわゆる”雰囲気ホラー”なのは否めないし、さすがに「シャイニング」の完成度と比べるのはどうかと思うが、こういう80年代カルト映画が映画館で観られること自体、映画ファンとしては嬉しい体験であった。

 

 

6.0点(10点満点)