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映画「HUMINT ヒューミント」ネタバレ考察&解説 リュ・スンワン監督の新作はまるで香港ノワール!古典的なストーリーと熱い銃撃戦のハイブリッドな作品!

映画「HUMINT ヒューミント」を観た。

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「ベルリンファイル」「モガディシュ脱出までの14日間」「密輸 1970」「ベテラン」など、傑作の数々を撮ってきた韓国を代表する監督リュ・スンワンが手掛けたスパイ映画。日本ではNetflix独占配信作品。ウラジオストックを舞台に韓国と北朝鮮の工作員が暗躍する硬派な作品で、「ベルリンファイル」「モガディシュ脱出までの14日間」に次いで、本作でも南北分断をテーマにしている。出演は「ザ・キング」のチョ・インソン、「ハルビン」のパク・ジョンミン、「YADANG ヤダン」「ソウルの春」「非常宣言」のパク・ヘジュン、「タチャ 神の手」のシン・セギョン、バレリーナ The World of John Wick」のロバート・マーザーなど。今回もネタバレありで感想を書きたい。 

 

監督:リュ・スンワン
出演:チョ・インソン、パク・ジョンミン、パク・ヘジュン、シン・セギョン、ロバート・マーザー
日本公開:2026年

 

あらすじ

ロシアで麻薬組織を追跡する韓国の工作員は、そこで北朝鮮の工作員と相まみえることに。やがてふたりは、強大な危険、そして複雑に絡み合う秘密に引きずり込まれていく。

 

 

感想&解説

2025年にもファン・ジョンミン主演の人気シリーズ、「ベテラン 凶悪犯罪捜査班」が日本で公開され大好評だったリュ・スンワン監督の新作「HUMINT ヒューミント」が、Netflix独占配信されていることを知り鑑賞した。リュ・スンワン監督作品といえば、「生き残るための3つの取引」「ベテラン」「密輸 1970」といった、大きな括りでいう”犯罪アクション・エンターテインメント路線”と、「ベルリンファイル」「モガディシュ脱出までの14日間」といった”朝鮮南北問題”を扱った路線に分けられると思うが、今作「HUMINT ヒューミント」は明らかに後者に属する作品になっている。特にハン・ソッキュとハ・ジョンウが共演した、2013年の「ベルリンファイル」とは世界観を同じにしたスピンオフ作品とも言えるだろう。

 

映画の序盤、ウラジオストクの北朝鮮レストラン”アリラン”での北朝鮮総領事ファンとパク・ゴンとの会話の中で、ファンの言う「自分がベルリン支部のピョ・ジョンソンを殺した」という言葉に対して、パク・ゴンは「自分の知っている事実と違う」と返すセリフが出てきたが、このピョ・ジョンソンとは「ベルリンファイル」の中でハ・ジョンウが演じていた元北朝鮮諜報員のことだ。さらにピョ・ジョンソンがどうなったかを知っている観客にとっては、この時点でファンは信用できない人物として映る。「ベルリンファイル」は北朝鮮諜報員ピョ・ジョンソンが、アラブ組織との武器取引現場を韓国情報院エージェントのジンスにかぎつけられた事で、なぜ取引の情報が韓国側に漏れたのかを探っていく物語だが、その先にはジョンソンの妻ジョンヒに対する”二重スパイ疑惑”が沸き上がる。やがてジョンソンとジンスは、北朝鮮と韓国の探り合いと共にCIAやドイツの諜報機関も巻き込んだ陰謀に巻き込まれていくという内容で、とても骨太で複雑なストーリー展開は本作とも共通点が多いスパイアクションだろう。

 

そして本作「HUMINT ヒューミント」も、北朝鮮と韓国のエージェントとその間で翻弄される女性の姿を描いたスパイアクション映画であり、それが一貫してシリアスなトーンで描かれていく。ここからネタバレになるが、主な舞台はロシアのウラジオストクであり、チョ・インソン演じる韓国国家情報院チョは、国境周辺の犯罪ネットワークと氷毒という覚せい剤を追ううちに、パク・ジョンミン演じる北朝鮮国家安全保衛局のパク・ゴンと接触する。またパク・ゴンと行動を共にするパク・ヘジュン演じる北朝鮮総領事ファンには、ロシア側と繋がっている裏の顔もあり不穏な動きを見せる。さらに韓国側の情報源として重要なポジションである、レストラン”アリラン”の女性従業員であり北朝鮮出身のチェ・ソナにはパク・ゴンと婚約していたという過去もあり、これらの複雑な関係が交錯していく。

 

 

またウラジオストクにはロシアマフィアが跋扈していて、彼らは北朝鮮からの違法出国者を拘束しては強制送還に見せかけ、女性を性的な仕事に送り込むという非道なビジネスに手を染めている。そして女性たちには覚せい剤を使うことで世間から隔離されており、さらにロシアマフィアと北朝鮮総領事館のファン・チソンが繋がっていることで、人身売買の犯罪組織として暗躍しているのだ。韓国の情報員と北朝鮮の工作員、そして北朝鮮の出自でありながら韓国側に協力している女性の三角関係を軸にしながら、終盤30分ではロシアマフィア&ファン・チソン率いる犯罪組織と韓国&北朝鮮エージェントコンビとの熱い銃撃アクションがしっかり描かれるのが、本作の特徴だ。

 

タイトルの「ヒューミント(HUMINT)」とは、「Human(ヒューマン)」と「Intelligence(インテリジェンス)」を掛け合わせた言葉らしく、”人間が行う諜報活動”という意味らしいが、たしかに本作のスパイたちはいつも感情に流されながら身体的にもボロボロになっていて、実に人間らしい。映画の冒頭から、韓国国家情報院チョは違法に拉致され風俗で働かされているキム・スリンを救出するため、上司の制止も振り切って彼女を現場から救出するし、北朝鮮国家安全保衛局のパク・ゴンも元婚約者のチェ・ソナと再会できたことで、彼女の命を救おうと自分の危険も顧みないで行動する。プロのスパイでありながら、彼らは任務遂行よりも愛する者のために行動するキャラクターなのだ。チョとパクがお互いの顔に銃を突きつけるシーンがあったが、この映画は明らかに香港時代の初期ジョン・ウー作品へのオマージュを感じる。

 

ラストの銃撃戦の後、パク・ゴンは致命傷を負う事でソナに抱かれながら命を落とす。だがその直前にパクがチョに何かを耳打ちする場面があるのだが、この後で部下の女性から「あの時、なにを言われたのか?」と質問されるシーンがある。その答えとして「自分が生きる道はないのか?このまま死にたくない」という言葉だったとチョは告げるが、これは明らかに嘘だろう。あれだけ自分の命を顧みずにチェ・ソナを守っていたパク・ゴンはもうすでに死を覚悟していたはずで、彼女を守り切った時点で彼は自分の役目を全うしたと思っている。だからこそ北と南で本来は敵同士だったが、この銃撃戦で命を預け合い男として信頼に足るチョに対して、最後は愛するチェ・ソナを委ねたのだろう。彼はチョも、自分と同じくチェ・ソナを愛していることを見抜いていたのだと思う。

 

事件が終わった後のシーンで、事件の顛末を報告した上層部から「私情を挟んだのではないか?」と追及される場面があるが、明らかにチョはチェ・ソナに対して”特別な感情”を持ちながら行動している。高級手袋のプレゼントもそうだし、ファン・チソンとロシアンマフィアの車が分かれて発車した場面でも、彼はチェ・ソナが乗ったロシアンマフィアの車を追跡することを選ぶ。だからこそラストシーンの余韻は切なく、”自分のことを誰も知らない場所”で新しい生活を始めたチェ・ソナを、遠くから見つめることしかできないチョが独りベッドに横たわるシーンで本作は幕を閉じる。チェ・ソナにもう一度声をかけて関係を始めたい気持ちと、死んだパク・ゴンへの友情と罪悪感が交錯していることを暗示させる名シーンだった。終盤の銃撃シーンは現代風にアップデートされた見事なアクションシーンだったし、映画のルックスも素晴らしい。だが中身はジョニー・トーやジョン・ウーが描いてきた香港ノワールを彷彿とさせる、あまりに古典的な展開なのでここは評価が分かれるポイントかもしれない。

 

 

7.0点(10点満点)