映画「プラダを着た悪魔2」を観た。

メリル・ストリープ&アン・ハサウェイのコンビで興行収入1億2000万ドルを越える大ヒット作となった、2006年「プラダを着た悪魔」の20年ぶりとなる続編が公開となった。監督は「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」「素晴らしきかな、人生」を手掛けたデヴィッド・フランケルで、脚本家アライン・ブロッシュ・マッケンナと共に前作に続いての続投となる。出演はミランダ役のメリル・ストリープ、アンドレア役のアン・ハサウェイ、エミリー役のエミリー・ブラント、ナイジェル役のスタンリー・トゥッチ、リリー役のトレイシー・トムズらの前作メインメンバーは総出演の他、新たにケネス・ブラナー、ルーシー・リューなどが出演している。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:デビッド・フランケル
出演:メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント、スタンリー・トゥッチ、ルーシー・リュー
日本公開:2026年
あらすじ
ニューヨークの一流ファッション誌「ランウェイ」のカリスマ編集長として、ファッション業界の頂点に君臨するミランダ。かつてそのアシスタントに採用され、厳しく完璧主義な彼女のもとで奮闘する日々を過ごしたアンドレアは、現在は報道記者として活躍していた。そんなある日、ミランダとその右腕ナイジェルが危機に直面していることを知ったアンドレアは、特集エディターとして「ランウェイ」編集部に舞い戻る。さらに、アシスタント時代の同僚エミリーとも再会するが、彼女はラグジュアリーブランドの幹部として「ランウェイ」存続の鍵を握る存在となっていた。それぞれの夢と野望がぶつかり合うなか、事態は思わぬ方向へと展開していく。
感想&解説
メリル・ストリープ&アン・ハサウェイのコンビで興行収入1億2000万ドルを越える大ヒット作となった、2006年「プラダを着た悪魔」の20年ぶりとなる続編がいよいよ公開された。特に「プリティ・プリンセス」でデビューし、アン・リー監督の「ブロークバック・マウンテン」で役の幅を広げた直後、本作で世界的にブレイク・スルーした主演アン・ハサウェイにとっては前作は重要な一作だっただろう。その後の「ダークナイト ライジング」「レ・ミゼラブル」「インターステラー」「マイ・インターン」などの大躍進を考えると、彼女にとって本作は大きな分岐点だった気がする。メガホンを取ったデヴィッド・フランケルについても、テレビドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」での手腕を買われての10年ぶり長編映画だったが、本作が大ヒットしたことによって「マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと」「素晴らしきかな、人生」など、監督としてコンスタントに作品を発表している。
1作目の「プラダを着た悪魔」は、原作著者のローレン・ワイズバーガーが、女性ファッション誌「ヴォーグ」で編集長アシスタントをしていた経験から書かれたものであり、メリル・ストリープが演じていた”ミランダ”は「ヴォーグ」のカリスマ編集長アナ・ウィンターをモデルにしているのでは?という噂は有名だ。前作におけるミランダのパワハラと暴虐武人ぶりからも、当時の「ヴォーグ」におけるファッション業界への影響度は相当大きかったことが伺えるが、1892年に創刊して以来世界18か国で発刊され、特に1988年にアナ・ウィンターが編集長に就任してからは、ミシェル・オバマ前大統領夫人を表紙に起用したり、長年のファッション界への貢献が評価されたことで”大統領自由勲章”が授与されたりと、まさに「ヴォーグ」の顔として活躍してきた編集長だったと思う。
だが、そんなアナ・ウィンターも2025年6月に約37年間勤めたアメリカ版ヴォーグの編集長を退任することになり、業界に激震が走ったことは記憶に新しい。そんな2026年5月に日米同時公開されたのが、この「プラダを着た悪魔2」だ。さすがに20年前と比べると、メディアとしての”雑誌媒体”は発行部数と共に影響力が落ちているので、前作とはかなりトーンの違う作品になるだろうと予想しての鑑賞となったが、まさにファッション雑誌を通して、”変わるもの”と”変わらないもの”を描いた作品だった本作。「プラダを着た悪魔」の続編として、練り込まれた脚本とキャラクターへの愛に満ちた素晴らしい作品だったと思う。メリル・ストリープにとっても、2021年の「ドント・ルック・アップ」以来5年ぶりの出演作だが、見事な貫禄でミランダを再演していた。
まず冒頭の歯磨きシーンから前作のオマージュだが、本作は完全に前作とセットで語られる作品なので前作の鑑賞はマストだろう。よく目を凝らすと、前作でアンディが”違いが分からない”と言っていた2本のベルトが露店で売られていたりと、ファンサービスも抜かりはない。本作の展開としては、前作から20年後、アンディもジャーナリストとして働き、権威ある賞も受賞したが業界の波に押されリストラに遭ってしまう。そんな中で雑誌「ランウェイ」が炎上したことからオーナーの判断によって、アンディは再び編集部に呼び戻され、かつての上司であったミランダと共に雑誌の業績アップのために右往左往することになる。広告主を怒らせると雑誌は存続できないと、謝罪に行った先には「ディオール」に再就職したエミリーがいたりと意外な展開が待ち受けるが、斜陽なファッション雑誌業界の内幕をしっかり描いており、ファンタジー味の強かった前作と比べるとかなり現実感のある展開となっているのが面白い。ファッション雑誌の編集は、昔のような”夢の世界”ではないのだ。ここからネタバレになる。
例えば前作でのアンディは何故か毎日ハイブランドの服を着て出勤していたが、彼女の給料でどうやって購入していたのか?が謎だった。だが本作では、ナイジェルに”悪くない”と褒められたアンディが「マルジェラだけど、中古で11ドルで手に入れたの」と言うシーンがあり、彼女がランウェイの編集部で働いた経験によってファッションセンスが磨かれ、目利きが出来るようになったことを示すセリフにより、前作からの謎が氷解される作りになっている。この続編のストーリーの中心となっているのは、雑誌「ランウェイ」の運命だ。雑誌編集がうまく回り始めた矢先に出版社のオーナーが急死したことにより、息子が新社長に就任するが、息子はファッションや雑誌に興味がなく、なんと編集部を解体しようとする。それを救うためにミランダとアンディが奔走することになるのが中盤以降の展開になるが、アートとファッションの価値が現実世界では下がってしまっているという会話を、ミラノのレオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」の前で話す展開などは映画的なシーンだろう。AIにとって変わられる未来が来つつあるからもしれないが、それでも変わらない価値があるのだと信じるミランダは、間違いなく本作の主人公だ。
前作のパワハラが酷かったミランダも、自分でコートをハンガーにかけるようになったし、助手に指摘されながらも”不適切な言葉”を言わない努力をするようになった。彼女も時代に合わせてアップデートしているのである。だが一方でアートや仕事への情熱は変わらず、ミランダに”私は仕事が好きだ”と言わせる終盤の展開は、前作からのファンには胸熱だろう。そしてミランダの弱いところを少しだけ描くバランスも良い。「ランウェイを取られた私に何が残るの?」という問いかけに、ケネス・ブラナー演じるパートナーが「双子と犬と僕がいる」と答えるシーン直後の表情が最高で、今作のミランダは完全無欠ではないところに魅力があるのだと思う。今まで影の存在だったナイジェルに、雑誌の代表者として大舞台でスピーチさせる展開など、どのキャラクターにも愛がある展開も泣けるし、本作では悪役寄りのエミリーに対して、ラストでしっかりフォローする展開も古参ファンを置いていかない。結果的にアンディを裏切る選択をしたエミリーが、カフェで彼女と待ち合わせる時に、トレードマークの赤毛から髪色をガラッと変えているのは、彼女の”人間的な変化”を映像的に見せる演出だろう。そして彼女を取り巻くものではなく、”貴女自身がアイコンなのだ”と告げるアンディのセリフは名言だし、”炭水化物もシェアすれば0カロリーなのだ”というガールズトークによって友情が描かれるこの場面は、爽やかな後味を残す。
ラストシーンでアンディがカジュアルに着ているのは、前作における名シーンで語られた”セルリアンブルー”の服だ。彼女はランウェイ編集部に残りながら、自分の本来の持ち味を活かして発信していく事を表現しているのだと思う。これから彼女が、ジャーナリストとして大成することを感じさせるのだ。そしてミランダとアンディの部屋が横並びになっていることを外からのショットで映して、彼女たちの関係がポジションを越えた上司部下ではなく、横並びの関係になったことを示唆しているように、この映画は終わる。さらに劇中でアンディが書いていて出版社に持ち込もうとした”ミランダの暴露本”のエピソードは、原作者のローレン・ワイズバーガーと「ヴォーグ」の編集長アナ・ウィンターとの関係を書いたとウワサされた、前作「プラダを着た悪魔」のメタ構造のようだが、結局アンディはそれを止めることによって、原作者が改めてウワサを否定しているようにも取れて面白い。前作のファンタジー路線だった展開をリアル路線に変更し、キャラクターたちの成長も20年分描いた本作は、ほとんど完璧な「プラダを着た悪魔」の続編だったと思う。ファストファッションや電子書籍が主流となり、ファッションや雑誌といった芸術品は廃れがちだが、それでもしっかりと”残すべきものはあるのだ”というメッセージに溢れた本作は、ほとんど映画業界の話のようにも感じられる。作り手からのメッセージが伝わる見事な作品だったと思う。
8.5点(10点満点)