映画「ひつじ探偵団」を観た。

ドイツの小説家レオニー・スバンが2005年に発表した同名ベストセラー小説を原作に、「ロラックスおじさんの秘密の種」「ミニオンズ」などで実績をあげてきたカイル・バルダ監督がメガホンをとった異色のミステリー映画。大好きな飼い主を殺された羊たちがその犯人を見つけ出すべく奮闘する姿を描いている。出演は「レ・ミゼラブル」「デッドプール&ウルヴァリン」「ソング・サング・ブルー」のヒュー・ジャックマン、「ラブ・アクチュアリー」「ウォルト・ディズニーの約束」のエマ・トンプソン、「アイデア・オブ・ユー 大人の愛が叶うまで」のニコラス・ガリツィン、「Zola ゾラ」のニコラス・ブラウンらで、羊の声をジュリア・ルイス=ドレイファス、パトリック・スチュワート、ブライアン・クランストンらが担当している。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:カイル・バルダ
出演:ヒュー・ジャックマン、エマ・トンプソン、ニコラス・ガリツィン、ニコラス・ブラウン、ジュリア・ルイス=ドレイファス
日本公開:2026年
あらすじ
イギリスののどかな田舎町。羊飼いのジョージは、愛する羊たちに囲まれながらひとりで暮らしている。彼は毎晩羊たちに探偵小説を読み聞かせているが、実は羊たちは物語を理解しており、その時間を楽しみにしていた。そんなある日、ジョージが死体となって発見される。羊たちはこれが事故だと信じようとせず、最も賢いリーダーのリリーを先頭に調査に乗り出す。手がかりを追ううちに、ジョージには巨額の遺産があったことが判明。愛するジョージの無念を晴らすべく、犯人捜しに奔走する羊たちだったが。
感想&解説
海外で公開された予告編がSNSでバズったことにより、日本でも話題となっていた作品「ひつじ探偵団」が公開となった。監督は「マスク」「ジュマンジ」「トイ・ストーリー2」「モンスターズ・インク」などでアニメーターとして実績を積みながら、「ロラックスおじさんの秘密の種」「ミニオンズ」「ミニオンズ フィーバー」などでメガホンを取ったカイル・バルダで、生粋のアニメーター職人監督と言えるだろう。特にファミリー向けの作品を撮り続けてきた監督であり、本作でもそのスキルが遺憾なく発揮されていると思う。「X-MEN」シリーズや「ザ・グレイテスト・ショーマン」のヒュー・ジャックマンというスターキャスティングもあり、非常にキャッチーな作品になっていると感じる。
本作は羊たちが会話しながら物語を進めるタイプの作品だが、その動物たちの会話はあくまでも人間にはただの「メェー」という鳴き声に聴こえる。動物同士が喋る映画だとゲイリー・ウィニック監督の2006年日本公開「シャーロットのおくりもの」や、ウィル・グラック監督の2018年公開「ピーターラビット」あたりが有名だろうが、その先駆者的なヒット作となったのは、クリス・ヌーナン監督の1996年日本公開「ベイブ」とジョージ・ミラー監督による続編「ベイブ/都会へ行く」だろう。「ベイブ」は第68回アカデミー賞で作品賞/監督賞など7部門でノミネートされた結果、特殊効果のクオリティが評価され「アカデミー視覚効果賞」を受賞したが、動物を主人公に描くジャンルは映像表現の進歩が不可欠だ。本作の羊たちも完全にCGによって表現されていたが、本物に近いリアル路線でありながらも表情や動きは完全にファンタジー路線であり、その塩梅が絶妙だ。
とにもかくにも羊たちがひたすら可愛い。これだけで本作は観る価値があるだろう。頭脳明晰でおもに探偵役としてチームを引っ張っていくリリーや、記憶力が抜群でリリーと行動を共にして事件を追うモップル、一匹狼的な雰囲気で過去に傷を持つセバスチャン、そして群れから仲間はずれにされている冬の子羊など、どの羊にも特徴付けがされている上に魅力的なので、彼らを観ているだけで頬が緩んでくる。ジョージの読書を皆で聞くシーンや、窓を覗くために踏み台になって苦しそうなシーン、コンクリートの道が渡れなくて躊躇するシーン、ダメな警察官であるデリー巡査にヒントを与えるシーンなど、羊たちの行動が本当に愛おしい。このあたりは監督であるカイル・バルダの過去のキャリアが発揮されているポイントだと思うし、2026年のVFX技術が遺憾なく発揮されていると感じる。
舞台はイギリスの田舎町、一匹ずつ名前を付けて可愛がっているひつじたちと共に暮らすジョージは、町の人たちとは距離をとって暮らしている。彼はひつじたちに探偵小説を読み聞かせているが、実はひつじたちはその物語を理解しており、その結末を推理して楽しむという生活を送っていた。ところがある日、そのジョージが死体で発見される。当初警察は事故だと判断するが、頭脳明晰で探偵ひつじのリリーはグラスが2個残されていたことや、豪雨の中で雨具も着ないで倒れていたことなどから、これが他殺であることを見抜き捜査を開始する。そんな中で弁護士リディアが現れ、ジョージがひつじ用の薬で取った特許から3000万ドルの遺産があったことや、ジョージには海外に住む娘レベッカがおり、ジョージが殺された夜にすでに町に滞在していたこと、さらにもう一人海外にいる息子が存在することなどが語られ、今回の殺人はジョージの遺産が原因であることが分かってくる。ここからネタバレとなる。
ジョージの牧場を買収しようと画策するもう一人の羊飼い、その羊飼いと組んでビジネスを始めようする街の肉屋、ジョージのことが好きで手紙を盗んでしまう宿屋の女主人ベス、そして田舎町のフェスを取材に来た記者エリオットといったキャラクターたちが入り混じる中、レベッカがつけていた光るブレスレットが、トレーラーの近くに落ちていたのを見つけたリリーは彼女が犯人と断定し、証拠をデリー巡査に見つけさせることで彼女は逮捕される。ところがジョージの亡霊を見た、彼女は犯人ではないと”冬の子羊”に力説され、ミステリーの定石として死体にヒントがあることを思い出したリリーは、ジョージの両手に残った”青と緑”の色から真犯人を見抜く。そしてデリー巡査にヒントを与えたことによって、遂に真犯人が明かされることになるが、それは記者エリオットだった。彼は実は外国にいると思われていたジョージの息子であり、ジョージの手に付いた緑は金髪の塗料が青と混ざった色であり、彼は変装していたのだ。真犯人が捕まったことで釈放されたレベッカは、ジョージの跡を継ぎ羊飼いになることを決意し、隣の牧場の羊たちも解放することで本作は幕を閉じる。
遺産目的で父親を殺した息子が、妹を身代わりにして逃げ延びようとする話で、考えてみると胸糞の真犯人だが、実の息子であればいつかは遺産相続できるはずなので殺人を犯すリスクはないし、もし緊急で金に困っていても父親に相談すれば貸してはくれるだろう。なにせ父親はあのヒュー・ジャックマンなのだ。金髪に髪を染めていたというのも、雨で濡れていたとはいえ手で掴んだくらいで落ちる染料では、変装として危なっかしくて仕方ない。普通はブリーチするだろう。新聞記者がじつは息子だったという意外性は面白かったが、ミステリとしては正直やや強引な展開だと思う。だが本作において、主題はそこではないと感じる。本格ミステリというよりは、家族で楽しめるライトなコメディ・ミステリであり、実はドラマ部分にも比重が置かれている作品でもあるからだ。特に羊たちの”冬生まれの子羊”への扱いは、人間からすると不思議でしかないが、この差別意識は人間でも同じだ。肌の色が違う、生まれた国が違うというだけで、色眼鏡で見てしまい偏見が生まれる現実社会が投影されているのだろう。
また羊たちは辛いことや恐怖を感じると”スリーカウント”で、全てを忘れていく。自分たちには対処できないことは”忘れること”により、前に進んでいくのだ。だが辛くても忘れてしまってはいけないこともあり、覚えていることによってその経験を後世に残せることもある。セバスチャンの暗い過去があったからこそリリーたちは危険を回避でき、真犯人まで辿り着けたのだ。リリーの名前が実はジョージの死んだ奥さんの名前だったとか、冬生まれの子羊にジョージという名前を付けたリリーのジョージへの気持ち、そして死んだひつじは雲になると語られていたが、夕暮れ時に浮かぶ雲がひつじの形をしているラストシーンなど心の琴線に触れるシーンが多く、ミステリー映画としてはやや弱いが、キャラクターが可愛いのでファミリーでもカップルでも楽しく観れる上に、メッセージ性があって気軽に楽しむ分には満足度も高い作品だった。
6.5点(10点満点)