映画「KEEPER/キーパー」を観た。

「ロングレッグス」「THE MONKEY ザ・モンキー」といった作品で、ホラー映画界の鬼才として世界的に評価が高まっている、オズグッド・パーキンス監督によるホラー映画の新作。製作/配給は「ANORA アノーラ」「センチメンタル・バリュー」「シンプル・アクシデント/偶然」などで気を吐く、インディーズ系映画会社の「NEON」。出演は「トイレット」「ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~」のタチアナ・マズラニー、「エスター ファースト・キル」「ポゼッサー」「バグダッド・スキャンダル」のロッシフ・サザーランドなど。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:オズグッド・パーキンス
出演:タチアナ・マズラニー、ロッシフ・サザーランド、バーケット・タートン、エデン・ワイス
日本公開:2026年
あらすじ
都会で暮らすアーティストのリズは、恋人のマルコムが所有する山荘に招待される。医師であるマルコムは裕福だがどこか謎めいたところがあり、彼の本当の気持ちを確かめたいリズにとって、交際1周年を記念したこの週末旅行は特別なものになるはずだった。マルコムが運転する車で到着した山荘は、鬱蒼とした森に囲まれた僻地にあった。近くにはマルコムの従弟ダレンが所有するもう1軒の山荘があり、ダレンが若い恋人ミンカを連れて訪ねてくるが、リズは粗野で無遠慮なダレンに嫌悪感を抱く。マルコムに勧められ、管理人からの贈り物だというチョコレートケーキを口にしたリズは、奇妙な悪夢と幻覚に苛まれる。翌日、マルコムが緊急の仕事で病院に呼び出され、リズは山荘にひとり取り残されてしまう。漠然とした不安にとらわれるなか、異常な出来事に次々と見舞われたリズは現実と悪夢の境目を見失い、山荘内にうごめく得体の知れない何かの気配に脅かされていく。
感想&解説
オズグッド・パーキンス監督の快進撃は、明らかに2025年公開の「ロングレッグス」から始まったと言えるだろう。A24配給の2015年「フェブラリィ 悪霊館」で長編デビューしたのち、「呪われし家に咲く一輪の花」「グレーテル&ヘンゼル」といった作品を撮りながらもまだ知名度の低かった監督が、ニコラス・ケイジ&マイカ・モンローを主演に迎えたことで、”独立系映画の全米興収NO.1/過去10年における独立系ホラーの全米最高興収”という華々しい評価となった「ロングレッグス」から、ホラー映画界の期待の星として次々に作品を発表している。「ロングレッグス」は、とにかく監督の好きな映画作品や影響を受けたサブカル/アートを全部入れ込んだような作品であり、「羊たちの沈黙」「セブン」との比較もあったが、前評判に対してやや新鮮味の薄い、こじんまりとした作品だった印象だ。
続く同じく2025年日本公開の「THE MONKEY/ザ・モンキー」は、スティーブン・キングの短編ホラー小説「猿とシンバル」の映画化だったが、ホラー味の中に”ブラック・コメディ”の要素が強く、「ファイナル・デスティネーション」シリーズのように、”逃げられない運命によって、人が死んでいくという不条理感”こそが作品の肝だった。オズグッド・パーキンス監督の父親は「サイコ」でノーマン・ベイツ役を演じた俳優のアンソニー・パーキンスであり、彼は1992年にエイズによる合併症で急死しているし、さらに母親は2001年9月11日のアメリカ同時多発テロに巻き込まれて死んでいる事から、監督が”死という不条理”をテーマにしたホラー作品を撮ったことには必然性を感じる。
「THE MONKEY/ザ・モンキー」に登場する父親たちは家庭を顧みない男たちだったと描かれ、「ロングレッグス」も呪いによって父親たちが家族を殺す物語だった。さらに2016年の「呪われし家に咲く一輪の花」も、夫によって妻が殺される話だったことを考えると、オズグッド・パーキンス監督の作家性の一端が見えてくる。そして本作「KEEPER/キーパー」は、それらを凝縮して煮詰めたような作品になっていた気がする。それは悪しき男性性と暴力による搾取がテーマの作品だったからだ。オズグッド・パーキンス監督は過去のホラー映画の典型的な舞台や設定を踏襲しつつ、そこにビジュアルとしての斬新さや作家としてメッセージを込める事で差別化を図るクリエイターなのだろう。ここからネタバレになる。
主人公リズは1年付き合った恋人のマルコムに対して、漠然とした不安を抱えている。彼を愛してはいるが、マルコムが本当に自分に何も隠していないのか?彼の愛を信じて良いのか?が分からない。そんな二人が訪れるのが、森の奥にある山荘だ。サム・ライミ監督の「死霊のはらわた」に代表される”山小屋ホラー”というサブジャンルがあるように、ホラー映画としては”定番”の舞台だろう。その山荘は全面ガラス張りで外から筒抜けの上に扉に鍵がなく、プライバシーのない空間となっている。そんな中でマルコムはリズに対して、怪しげなチョコレートケーキを差し出す。”チョコは嫌い”だというリズに対して、物腰は柔らかいがリズには拒否権がないように振る舞うマルコムは、後半の伏線になっている。そしてこのチョコレートケーキを食べたことにより、リズは様々な恐ろしい現象を目の当たりにするようになる。マルコムが仕事だと言い出かけてしまった後、袋を被った女性や大小で大きさの違うミンカが現れ、リズは動揺する。
外出から帰ってきたマルコムが、リズの姿を見て必要以上に驚くシーンは、すでに彼女が死んでいると思ったからだ。その後のマルコムの告白シーンで真相が明かされるが、実はマルコムとダレンは怪物との取引によって200年以上生きていること、この200年の間に多くの女性たちを生贄にしてきたこと、少年時代のマルコムとダレンは妊娠していた”魔女のような何か”を豚小屋で殺したが、子供は出産していて山荘にいること、更に山荘にいる他の怪物たちはマルコムらに殺された女性たちの成れの果てであること、なぜか殺した母親とリズの顔がそっくりであることなどの情報が観客に提示される。だが逆に言えばこれ以上の情報は何もなく、特に最後のリズの顔が魔女と同じだったことには何の説明もない。
ただリズだけがチョコレートケーキの毒に耐性があったこと、マルコムとダレンがリズに対してしきりに「他の女たちと違う」と言っていたこと、リズには何か水や自然に関する能力があることが示唆されていたこと、幻覚の中でリズが”母親”だと呼ばれていたことなどから、彼女は魔女の生まれ変わりのような存在なのかもしれない。だからこそ終盤の展開では、”頭を撃たれた魔女”の首(銃痕が残っていた)が入っていたハチミツの瓶と同じ容器に、逆さづりしたマルコムの首を入れるリズの姿が描かれる。リズは被害者の女性たちの怨念を受けて覚醒したという事なのだろう。電話で会話していた女友達が助けにくるパターンかと思ったが、この結末はフォーク・ホラー(民俗ホラー)としても面白い着地だったと思う。
個人的には「ロングレッグス」「THE MONKEY ザ・モンキー」を含む、オズグッド・パーキンス作品の中ではもっとも面白かった本作。それはなにより怪物の造形が魅力的だったからに尽きる。クリーチャーをハッキリと見せない方向もあったと思うが、そこは果敢に見せることに挑戦し、ろくろっ首や口からヨダレがダラダラと出ている白塗り、さらに顔面に複数の顔が貼りついた怪物など、気持ち悪いのだがコミカルさも感じさせる絶妙なデザインで楽しませてくれたと思う。設定やストーリーは凡庸だが、常に緊張感を感じさせる演出とビジュアルに特化していた本作は、オズグッド・パーキンス監督のホラー映画への愛情と、過去作から続く作家性がダダ漏れしている一作だった。ちなみにマルコムを演じたロッシフ・サザーランドは、あのドナルド・サザーランドの息子なのも記載しておきたい。手放しでオススメできる作品ではないが、洋画ホラーファンであればオズグッド・パーキンスの今後のフィルモグラフィと比較する意味でも、観ておいて損はない作品だろう。
6.5点(10点満点)