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映画「ジェニー・ペンはご機嫌ななめ」ネタバレ考察&解説 老人ケア施設を舞台にした、独裁者と元判事の戦いを描いたサイコサスペンス!実は”似た者同士”の二人だが、オチにもう一捻り欲しかった作品!

映画「ジェニー・ペンはご機嫌ななめ」を観た。

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本作が長編二作目となり、ジャンル映画の登竜門オースティン・ファンタスティック映画祭で最優秀監督賞を受賞したことで名を上げたジェームズ・アッシュクロフト監督による、サイコスリラー。出演は『愛のメモリー』『ミッドナイトクロス』『レイジング・ケイン』などのブライアン・デ・パルマ作品のイメージが強い他、近年でも『教皇選挙』で好演していたジョン・リスゴーと、『シャイン』『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズ、『英国王のスピーチ』『鑑定士と顔のない依頼人』など、こちらも名出演作に枚挙に暇がないジェフリー・ラッシュのダブル主演だ。2024年の第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭では揃って「最優秀主演男優賞」を受賞している。人形ジェニー・ペンのデザインは、『M3GAN ミーガン』を手がけた人形クリエーターのポール・ルイスが担当している。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ジェームズ・アッシュクロフト
出演:ジョン・リスゴー、ジェフリー・ラッシュ、ジョージ・ハナレ
日本公開:2026年

 

あらすじ

正義感の強いステファン・モーテンセンは、法を守る強い信念とプライドで長年にわたり判事として働いてきた。病に倒れ車椅子生活を余儀なくされた彼は、郊外のケアハウスに入居する。そこには、「ジェニー・ペン」と名付けたドールセラピー用の指人形を手に陰湿ないじめで老人たちを支配する、デイヴ・クリーリーという邪悪な入居者がいた。彼と敵対したステファンはいじめの標的となり、デイヴによる理不尽で屈辱的な嫌がらせは次第にエスカレート。正義のために闘い続けてきたステファンは、人生最後の壮絶な闘いに身を投じていく。

 

 

感想&解説

ジェームズ・アッシュクロフト監督は、ピーター・ジャクソンなどと同じくニュージーランド出身の監督だが、21年に発表したサスペンス・ホラー『Coming Home in the Dark』に続く、2作目の本作『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ(原題:The Rule of Jenny Pen)』が大きく評価されたことで、次回作はルッソ兄弟プロデュース&ロバート・デ・ニーロ主演のスリラー『ウィスパーマン』がNetflix作品として8月配信が決まっている。公式サイトには、スティーブン・キングによる「今年観た最怖の1本。」というキャッチコピーが派手に踊っているが、今回もネタバレでレビューを書いていきたい。まず本作のもっとも特徴的な点は、主演二人のキャスティングだろう。『レイジング・ケイン』などの70年代~80年代ブライアン・デ・パルマの傑作群の他、近年でも『教皇選挙』で好演していたジョン・リスゴーと、『パイレーツ・オブ・カリビアン』『英国王のスピーチ』『鑑定士と顔のない依頼人』などで有名な、オーストラリアを代表する俳優ジェフリー・ラッシュの二人が、老人用ケアハウスを舞台に対決するサイコスリラーとあらば期待は高まるし、実際に予告編は相当に面白そうだった。

ストーリーとしては映画の冒頭、判事ステファンが法廷内で脳卒中を起こしてしまい、郊外のケアハウスに入居する。手足が上手く動かなくなった彼は車イスでの移動を余儀なくされるが、そこで元ラグビー選手のトニーと相部屋になることに不満を抱いたり、入居者の老人がこぼした酒にタバコの火が引火する姿を目撃したりする。判事という職業だった事もあり、プライドが高く気難しいステファンは、施設のスタッフにもキツイ言い方で詰め寄り、他の入居者とも仲良くしようとしない。そんなある日、”ジェニー・ペン”と呼ぶ人形を常に手にはめて、入居者たちを執拗にイジメるデイヴ・クリーリーに目をつけられてしまう。デイヴはベッドで寝るステファンに尿瓶の中身をぶちまけるが、トニーはデイヴの報復を恐れて口をつぐむ。トニーもデイヴから陰湿なイジメを受けていたのだ。

 

ステファンはデイヴの悪行を施設スタッフに訴えるが、逆にデイヴは女性用下着を盗みステファンのベッドに隠したりすることで、スタッフたちの信頼が薄まっていくように仕向けていく。廊下に飾られた古い職員写真から、どうやらデイヴは1960年代からこの施設のスタッフとして働いており、今は入居者になっているらしい。そんなある夜デイヴは、クリスマスが終われば家族が迎えにくると信じている痴ほう症の老女を門の外へ連れ出すことで、殺してしまう。更にデイヴと対立を深めていくステファンは、吸入器の中身を空にすることで反撃をはかるが、更にデイヴの怒りを買ってしまう。他の老人たちにもやりたい放題のデイヴに対して、ジェニーペンの尻を舐めることによって屈服したように見えたステファンだったが、トニーと共に最後の反撃に出る。

 

 

本作は104分に亘る、老人施設の独裁者とリタイアした判事との戦いを描いた作品だ。ジョン・リスゴーが演じていたデイヴという役は、ジェームズ・アッシュクロフト監督のイメージでは、デヴィッド・リンチ監督『ブルーベルベット』におけるデニス・ホッパーが演じていた”フランク・ブース”だったらしい。そしてデイヴ・クリーリーが常に持ち歩く人形の”ジェニー・ペン”は目玉の無い空虚な顔であり、まさに中身のない独裁者の象徴だが、実はジェフリー・ラッシュ演じるステファンの方も、単純にデイヴを悪人だと断罪出来る人物ではないのだ。ステファンのセリフの中で、”自分が歳を重ねた時、周りには愛する人たちと花に囲まれた幸せな生活をしていると思っていた”という趣旨の発言があったが、どうやら彼には施設に様子を見に来てくれる家族や友達はいないようだ。それはステファンの施設スタッフへの高圧的な態度にも裏付けされている。

 

一方的に自分の意見を押し通し、頭ごなしに声を荒らげるステファンは如何にも前時代的な男性像の人物だ。そしてトム・クランシーの「恐怖の総和」を読む老人に対して、内容を読んでもいないクセに馬鹿にしたような態度を取り、知識でマウントを取ってしまう人物だと描かれる。さらに序盤の方で、火が引火することになる老人による「なぜ元判事がこんな酷い施設に来たんだ?」という質問に対して、「一時的な入居だ」と答えていたが、どうやら彼はお金もそれほど潤沢にはない事が示唆される。判事という名誉も地位もある仕事なのに、もう終わりが見えている彼の人生には影が差しているのだ。そんなステファンに対して、デイヴも”自分の人生は空っぽで何も無かった”と告げ、昔、自分が掃除夫として働いていたホテルでステファンがスピーチする姿を見て、嫉妬したことを告げる。だからこそ今の状況を楽しむのだというのが彼の主張で、屈折して閉じられた人生を送っている。今、施設で対峙している二人は決して幸せな人生を生きていないという意味で、”似た者同士”なのである。

 

それにしてもデイヴは部屋にバンバン侵入してきて暴力を振るいまくるが、さすがにセキュリティ的にマズイだろう。さらに施設スタッフは常に「今日は何時までに何々をしなくちゃ」とタスクの確認をしており、いつも忙しそうだ。ステファンが何を言ってもスタッフは事実を確かめようともしないで紋切り型の対応しかしなかったが、このケアセンターは人手不足と業務過多で恐らく大変なのだろうと思う。そういう意味でも実は本作で一番怖いのは、この”老人用ケア施設”自体かもしれない。とにかく人がたくさん死ぬ施設なのである。序盤から飲んでた酒にタバコの火が引火して死ぬ老人がいたが、あまりに唐突すぎてこれはステファンが見ている幻覚かと思ったほどだ。さらにクリスマスが終われば家族が帰ってくると言っていた老婆が、デイヴの口車に乗って施設の外に出されて死んでいたが、カードを間違えたために焦って取り返しにいくシーンもあったが、流石にこれは現場にあった足跡や施設のカメラからデイヴは捜査されるだろう。

 

ステファンがデイヴの吸引機を使い切る行動も立派に殺人未遂だし、ラストでステファンとトニーがデイヴを捕まえ窒息死させておきながら、彼らが捕まらないのは、この世界に警察はいないのかと思ってしまうし、そもそもオチとして安易だろう。せっかくステファンは元検事なのだから、ここは暴力ではなく知恵と法のトラップを使った解決方法だったら、”ベテラン判事”という彼の人生そのものの意味が出て良かったと思う。ラストカットでは”死を嗅ぎ分ける猫”が近寄っていたので、実はそんなステファンも死期が近いのかもしれない。作品全体としてやはり名優二人の演技は素晴らしかったし、この映画も魅力はそこに尽きるだろう。だがサイコスリラーとしてはやや脚本に粗が目立つかもしれない。ただケアセンターを舞台に老人同士の争いを描く作品とは、これからの高齢化社会のテーマとして光る映画だったと思う。

 

 

5.5点(10点満点)