映画「口に関するアンケート」を観た。

デビュー作である『近畿地方のある場所について』が映画化されたばかりのホラー作家の背筋が、2024年に発表したベストセラー小説『口に関するアンケート』を映画化。この新たなモキュメンタリーホラーを手掛けた監督は、『呪怨』シリーズ『ミンナのウタ』『犬鳴村』など、ジャパニーズホラーの第一人者である清水崇。出演は『はたらく細胞』『ババンババンバンバンパイア』の板垣李光人、『#真相をお話しします』『教場 Requiem』の綱啓永、『十二人の死にたい子どもたち』の吉川愛、『かくかくしかじか』の森愁斗、『怪物の木こり』『首』の中村獅童、「バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら」の柄本時生など。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:清水崇
出演:板垣李光人、綱啓永、吉川愛、森愁斗、中村獅童、柄本時生
日本公開:2026年
あらすじ
ある大学生のグループが、心霊スポットとして知られる墓地の「呪われた木」についての噂を聞き、肝試しに訪れる。しかし翌日、グループの1人がこつ然と姿を消してしまう。それ以来、墓地を訪れた大学生たちの周囲で不可解な現象が起こりはじめ、彼らは次第に追い詰められていく。5人の大学生が語る不可解な証言に導かれ、恐ろしい真相が浮かび上がっていく。
感想&解説
『近畿地方のある場所について』が映画化されたばかりのホラー作家”背筋”原作による『口に関するアンケート』は、『呪怨』シリーズや『ミンナのウタ』などでお馴染みのホラー映画のスペシャリストである清水崇が監督した、この夏の邦画ホラーの話題作だ。『近畿地方のある場所について』は白石晃士が監督したモキュメンタリーだったので、原作者の背筋はジャパニーズホラー界にとって売れっ子作家なのだろう。原作は未読なのだがかなり短い小編らしく、長編映画をして成立するのか?と期待していたがしっかりと面白く、ベテランである清水崇監督の手腕が光った一作だと思う。ここからネタバレ全開でレビューしたい。
映画冒頭、板垣李光人演じる翔太の独白によって本作は幕を開ける。まずこの画角に強い違和感を感じさせるのだが、これがあまりにも極端なクローズショットなのだ。最初は役者の表情にフォーカスしたいのかと思ったが、それにしてもカメラが寄りすぎていて不自然が画角だったが、後半これにはしっかりと理由がある事が明かされる。翔太は達也、杏、美玲と肝試しのために山にある墓地に行き、そこにある”呪いの木”を見にあったこと、そしてそれを深く後悔していることなどを告げる。またそれに伴い、回想シーンとして当日の彼らの行動が描写されることによって、このシーンはどうやら独白の中身であることが解ってくる。
墓地に着いた4人は翔太は達也、杏、美玲の順番で”呪いの木”を見に行くことにしたこと、翔太は木に大量のセミの抜け殻が付いているのを目撃したこと、どうやら達也は木の側には行かなかったことなどが描かれ、達也の独白でも杏の叫び声を聞いて呪いの木に駆けつけてみると彼女が、「上にいかないと食べられちゃう」と意味の分からない言葉を言いながら、錯乱状態にあったことが分かってくる。なんとか3人は杏を連れ帰ったものの彼女は翌日から失踪してしまい、翔太は必死で彼女を探しまわる姿が描かれる。そして、そこで登場するのが中村獅童演じる刑事であり、翔太たちが証言している音声データをボイスレコーダーで聞いている姿が映される。
ここが本作の大きなミスリードのひとつだ。ここで刑事がボイスレコーダーを聞いていることと、冒頭から翔太たちが独白として証言している姿を見せられている観客は、”勝手に”警察の取り調べ時の音声だと思ってしまうが、実は違うというのが本作の大きなツイストになっている。これは映像演出として巧かったと思う。そしてこの事件を追う刑事の目線は我々と同じ目線であり、彼はこの不可思議な事件がどこに向かうのか?を観客と並走していくキャラクターになる。そして次に登場するのは、堀田と川瀬という二人の男性だ。彼らも同じく極端なクローズアップで独白している場面を通して、状況が描写されるのだが、明らかに上下関係のあるこの二人も、どうやら”呪いの木”を見に来た人物であることが分かる。そして彼らは素手で地面を掘りながら、「地獄は下にありますか?」とつぶやく恐ろしい形相の女を観てしまうことになる。
ここもミスリードになっていて、二人の会話からこの状況は翔太たちが呪いの木を訪れ、さらに杏が失踪した後であると錯覚させられる。さらにこの異常な女が杏なのではないかと思ってしまうが、実は川瀬がバイトの後輩である翔太に呪いの木のことを話したことで、冒頭の肝試しが行われたことが分かってくる。時系列が入れ替えられていることで、刑事と同じく真相になかなか辿り着けない構成になっているのである。そして翔太は本当のことを話すと言い、実はもともと自分が付き合っていた杏を奪った竜也を憎んでいた翔太は、彼を呪い殺す為に呪いの木に行ったのだと告げる。だが竜也は翔太を話するために呪いの木に行かず、それによって次に来た杏が呪われてしまったと告白する。そしてこの辺りから、独白している翔太たちの様子がおかしくなってくる事に気付く。顔色が悪く汗だくだし、なぜか顔には風が当たっているのだ。
刑事は呪いの木がある墓地に車を走らせ、その途中で翔太たちが寄ったコンビニに行き、防犯カメラを見ると驚愕の事実が発覚する。実は彼らは3人で行動しており、杏という女性など最初からいなかったのだ。そしてここから映画は急転直下の展開を見せていく。実は翔太、達也、美玲、堀田、川瀬の5名の独白は、呪いの木で自殺する前に録音した音声であり、すでに彼らはこの世にはいない。そしてその自殺を不審に思った刑事が、スキャンダルなネタとして雑誌社に情報をリークして小遣い稼ぎをしようとしていた訳だ。最後に木の前で刑事が編集長に「死ねよ」と毒づいたせいで、彼は命を落とすことになるのだろう。ではこの杏は一体何者だったのかを考えるならば、恐らく最初にこの木で首を括って自殺した女性なのだろう。翔太たちが杏として認識していた女性と、堀田や川瀬が見た首の長い女性は、結果的に同一の自殺した女性であり、木に近づいたために呪われた末路なのだと思う。”杏”は木に口を重ねて作られる漢字だが、彼女は木に巣喰ってしまった悪霊なのだろう。
編集長が刑事に電話で、「道端の石ころはみんな平気で蹴っ飛ばすのに、特に日本人はお地蔵さまに形を変えた途端に、みんな有難がる」というセリフがある。さらに美玲が図書館で呪いの木を調べるシーンでは、「最初は立派でご利益があると言われた木だったのに、最初の自殺者が出たことで呪われた木になった」という説明があるが、これはどちらも最初は同じものだったのに、人の受け取り方や伝え方によって、180度カタチが変わってしまう事象を指している。木で首を括った5名は親友の恋人を取り、取られた男はそれを恨み、女は二人が親友である事を知りながら寝返り、人を横柄に奴隷のように扱い、その男の不幸を卑屈に望むような人物だ。一見まともそうに見えても、彼らには”裏の顔”があり、人の価値観は見方によって形を変えてしまうのである。そして最後にタイトルにもなっている「口に関するアンケート」が始まる。「杏は結局、誰だと思いますか?」「スマホで自殺前の声を録音していたのはなんのため?」「口は災いのもと?」など、この映画の結論部分に関してのアンケート内容だが、作品の世界観に観客を引き込むための演出だろう。ここは蛇足感があった気がする。ただホラー映画としては、一定以上に怖くて面白い作品になっていたのは間違いない。清水崇の新たな代表作の一本になる映画だと思う。
7.0点(10点満点)