映画「トイ・ストーリー5」を観た。

世界初のフルCGアニメーション作品だった1995年の第一作目公開以来、ピクサーの大人気シリーズであり続けている「トイ・ストーリー」シリーズの第5作。前作からは約7年ぶりの新作となり、ピクサーの長編アニメーション作品としては31作目となる。監督/脚本は「ファインディング・ニモ」「ウォーリー」などで知られ、これまでの「トイ・ストーリー」シリーズでも原案や脚本を務めてきたベテランクリエイターのアンドリュー・スタントン。本国アメリカではすでに公開されていて、歴史的な大ヒットを飛ばしている。声優はお馴染みのトム・ハンクス、ティム・アレン、ジョーン・キューザック、アニー・ポッツなどが務めており、日本語吹き替え版でもウッディ役の唐沢寿明、バズ役の所ジョージをはじめ、日下由美、竜星涼らおなじみのキャストが参加している。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:アンドリュー・スタントン
声の出演:トム・ハンクス、ティム・アレン、ジョーン・キューザック、アニー・ポッツ、グレタ・リー、コナン・オブライエン
日本公開:2026年
あらすじ
ボニーのもとで暮らすバズやジェシー、フォーキーたちは、これまでと変わらぬ日常を送っていた。しかし、最新型の電子タブレット「リリーパッド」がやってきたことで状況は一変。多機能なデバイスに夢中になるボニーの姿を前に、おもちゃたちは自分たちの存在意義に疑問を抱き始める。「おもちゃはもう必要とされていないのか」という不安が広がる中、仲間からのSOSを受けたウッディが再びボニーのもとへ戻り、バズと再会する。かつての名コンビは、おもちゃの居場所を守るため、新たな脅威に立ち向かう。
感想&解説
3部作として完璧な結末を見せた、『トイ・ストーリー3』から9年後の2017年に公開された前作『トイ・ストーリー4』は、本当に賛否両論の作品だったと思う。ウッディやバズは映画終盤まで弱くて頼り甲斐がなく、強い女性になったボー・ピープの後ろをウロウロするだけだし、挙句、新しい持ち主のボニーには遊んでもらえず、すぐに自分から捨てられようとするフォーキーを守るため”自己犠牲”を繰り返す。そして極めつけはウッディによるラストの選択だろう。ここから『トイ・ストーリー4』のネタバレになるが、”おもちゃは子供の側にいることが最高の幸せである”というシリーズのテーマを覆し、ボニーの元には戻らず、新しい環境で生きるという選択をするのである。『4』のラストカットは満月だったが、前作の結末はダークでシリアスな着地の問題作であった。
正直、そういう意味で『4』の直接的な続編は難しいと思っていたし、あの先の展開が観たい人は少ないと思っていたので、『5』の公開情報にはかなり驚かされた。『4』の延長線上の物語は、完全に蛇足だと思ったからだ。ところが先に公開されたアメリカ本国ではこの新作が大ヒットしているという事で、さっそく映画館に行ってきた。ちなみに日本でも初日で観客動員32万人、興行収入4億を超える記録を出し、『ズートピア2』を超える洋画アニメーション作品史上No.1のスタートになっているらしい。ちなみに『ファインディング・ニモ』と『ウォーリー』でアカデミー長編アニメ映画賞を2度受賞し、『トイ・ストーリー』シリーズでは第4作目までのすべての脚本に携わっているアンドリュー・スタントンが本作の監督/脚本を担当しており、シリーズを再び復興させようというピクサーの心意気が伝わってくる。ここからネタバレで『5』をレビューしたい。
冒頭、最新型のバズ・ライトイヤーが大量に無人島に漂着しており、そこからイカダで脱出する姿が描かれる。そこから舞台は一転し、8歳のボニーがお気に入りのオモチャであるジェシーやバズ、フォーキーたちを使って結婚式遊びをしている。ところがボニーには友達がいないという事で、ジェシーはボニーの友達作りのアシストをしようするが、隣の家のオモチャからは今の時代の子供たちは、パッドやスマホといったデバイスで遊んでいると聞かされ、ジェシーは不安を覚える。そして案の定ボニーの両親がボニーに”リリーパッド”を買い与えたことで、彼女は途端に既存のオモチャから遠ざかっていく。リリーパッドに反発するジェシーたちだったが友達がいなかったボニーにも、グループチャットを使ってすぐに友達を作ってあげるリリーパッドを見て、危機感を覚えたジェシーは前作ですでに家を出たウッディに連絡を入れる。友人宅に泊まり会に行く事になったボニーの荷物に潜りこんだジェシーとブルズアイだったが、女の子たちからオモチャで遊んでいることを馬鹿にされたことで自宅に連れ戻されそうになるが、車から脱出。ところが老夫婦に落とし物だと思われて、ジェシーの身体に書かれた住所から元の持ち主であるエミリーの家に運ばれてしまう。
そこで出会ったのは、古びたデバイスの”スマーティ・パンツ”やカメラの”スナッピー”たちだったが、そこにはオモチャを大切にしてくれるブレイズという少女が住んでいた。ジェシーはなんとかスマーティ・パンツたちの力を借りながらボニーの家に帰ろうと奮闘する。一方でボニーはお泊り会で友だちから忘れられ傷ついてしまうが、ジェシーたちの作戦によるオンラインメッセージによって、母親と一緒にブレイズの家にジェシーたちを取りに行くことになる。ところがグループチャットの子たちが、またしてもボニーを馬鹿にしたことで、ボニーは旧式のオモチャであるジェシーを引き取ることを拒否。ジェシーはエミリーに続いて、ボニーにも捨てられたと深く傷つくことになり、エミリーとの思い出の丘に行く。だが、そこでエミリーからのメッセージを見つけたジェシーは、そこに合流したウッディ&バズ、そして大量のバズ軍団と共に、親友になれそうなボニーとブレイズを引き合わせるため行動を開始する。
今作は予告編から「アナログVSデジタル」という物語かと思ったが、実はそこは本筋のテーマではなく安心した。なぜならそこを深堀りしても、答えのないテーマだからだ。古いオモチャが素晴らしく、新しいオモチャが悪いという話ではただの回顧主義な話になってしまうし、これだけ価値観の多様化した今では、万人が納得するストーリーにはなり得ない。そもそも世界初のCGアニメーションである『トイ・ストーリー』1作目を発表し、デジタルの力でここまで作品を作り続けてきたピクサーが、新しいものを否定する話を作るはずがないのだ。『1』ではカウボーイ人形のウッディの元に新型スペースレンジャーのバズが来て、二人が対立しながら持ち主アンディの気持ちを取り戻す話で、今回はそれをそのままジェシーとリリーパッドに置き換えた開幕になっていたが、この対立の話は長続きしない。それよりも”子供にとってオモチャとは?”というシリーズの根源的なテーマに戻り、遊ばれなくなったオモチャは自分の人生を歩んでも良いのでは?という問題作『4』の着地を経ての『5』は、見事にシリーズを総括した最新作だったと感じる。作品は”古いオモチャなんてダサい”という同調圧力や、ひらすらデバイスのモニターを見続ける姿を通して、今の子供たちのデバイス依存とコミュニケーション方法の変化を描く。
だがタブレットを持っているブレイズでも友達ができないシーンや、ボニーがコニュニティーで馬鹿にされてしまうシーン、また逆にネットワークを通じてこそ彼女たちが知り合えたことを通じて、結局はそのツールを使う人間次第なのだという明確なメッセージを伝えてくる。そもそもデジタルでネットワーク対応しているからこそ、自分では機動力のないリリーパッドがトラックで運ばれている場面では居場所が判明するし、バズはアップデートして飛べるようになる訳で、それぞれの持てる能力を活かして窮地を脱するシーンがあるのは素晴らしい。そして今回の冒険を通してブレイズという親友に出会え、最後に勇気を出すことが出来たボニーの人間の成長を描くからこそ、感動的な作品になっていると思う。またジェシーの持ち主だったエミリーが、成長してジェシーを手放した後も一緒に遊んだ思い出は残っており、娘に自分の名前を名付けたことをジェシーが知るシーンは、まさにシリーズを通して描こうとしていた、”子供にとってオモチャの存在とは?”という命題に対しての見事なアンサーになっている。
”子供の成長に合わせて必要な時に側にいてあげる存在”であり、それは人形でもパッドでも同じなのだ。そしてそれは、”親”という存在にも同じことが言えるかもしれない。スマーティ・パンツがそうだったように、今は最新ガジェットのリリーパッドもいつかは忘れられる存在になるが、きっと記憶には残る。その子供時代の記憶こそがオモチャの価値であり、存在理由なのだ。そして本作はもう一点、”好きなものは好きで良いのだ”という素敵なメッセージを伝えている。周りの子供がいくら「オモチャで遊ぶなんてダサい」と言ってきても気にしないで、価値観の合う仲間と一緒に好きなことをすれば良いのだ。ラストでボニーとブレイズが新旧のオモチャで楽しそうに遊んでいる姿には、涙腺が緩んで仕方がなかった。
シリーズのファンには「バズの父親はザーグ」「車のバックバンパーに捕まるバズとウッディ」「”飛んでるんじゃない。かっこつけて落ちてるだけさ”」のオマージュなど、シリーズキャラクターがこれでもかと登場するし、過去作からの引用シーンの数々も楽しい。本作ではウッディがほとんど活躍しないが、『4』で彼のストーリーはもう終わっているという事だろう。やや残念だったのは、単純に観ていてテンションが上がるアクションシーンが無かったことと、全体的にやや感傷的なトーンだった事、それからシーンごとの既視感が強かった事だろうか。ある意味でシリーズ開始から30年を経て”大人向け”、そして”ファン向け”の作品になってしまっているのは否めない。『5』は完全に大団円に着地し、オモチャが主人公の映画として必要なテーマは描かれたと感じるが、これだけ世界中でヒットしているのできっとディズニーは『6』も制作するのだろう。ただこれ以上は、本当に蛇足になる気がしてしまう。
8.5点(10点満点)