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映画「グリーンルーム」ネタバレ感想&解説

グリーンルーム」を観た。

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スタートレック BEYOND」の熱演も印象深いアントン・イェルチン主演作。だが、なんと不慮の事故の為、本作が遺作となってしまった。まだ27歳の若さというのに、本当に残念である。そして、その遺作である「グリーンルーム」の出来だが、映画が終わって劇場を出る時に、若い男性二人組が「こんなバカ映画とは思わなかったなぁ」と笑い合っていたのだが、これがある意味答えだと思う。

 

監督:ジェレミー・ソルニエ

出演:アントン・イェルチンパトリック・スチュアート

日本公開:2017年

 

あらすじ

無名のパンクバンド「エイント・ライツ」は、ガソリンを盗むような生活をしながら、安いギャラの為に名もなきライブハウスに出向く。しかし、そこはネオナチ集団の巣窟だった。ほんの思い付きとパンク魂から、ネオナチをディスる曲「Nazi Punks Fuck Off」を演奏するバンドメンバー。

 

なんとか無事に演奏を終えて、バックステージに戻ってきたメンバー達だったが、運悪く他のバンドのメンバーがネオナチに殺されている現場を目撃してしまう。冷酷なネオナチのボスであるオーナーは全ての目撃者を消すことを部下たちに命じ、その為にメンバー達は全員命を狙われるはめになる。

 

命を捨ててボスに忠誠を誓う敵を相手に、状況は圧倒的に不利。しかも人数も武器の数も絶望的に負けている。恐怖におびえる「エイント・ライツ」のメンバーたちは、楽屋に閉じこもり時間を稼ぎながらライブハウスからの脱出を企てるが、ネオナチ軍団が次々に襲い掛かり、メンバー達は追い込まれていく。

 

感想&解説

グリーンルーム」とはステージ裏の楽屋の事で、音楽業界の用語である。本作はいわゆるワンシチュエーション・スリラーもので、ほとんどがライブハウスの中だけでストーリーが進行する。しかも、思ったよりハードなバイオレンス描写を前半に持って来つつ最初に主人公の身に被害が出る事で、観客は(映画が進むと、脇役達はこれよりももっと悲惨な目に合うのか)と身構える事になる。これが今後ちょっとしたアクシデントが起こる度に、観客がハラハラ出来るトリガーとなっており、素直に上手い演出だと思った。

 

更に、この映画に出演する「エイント・ライツ」のメンバーは主役であるアントン・イェルチン以外は全員が無名なので、誰が死ぬのかは全く予想出来ない。劇中、敵から寝返って屈強な男が味方に付くのだが、これがほとんど活躍しないままにいきなり死んだ時には、ガックリしたのと同時にバカバカしくて笑ってしまった。

 

この映画は、敵のネオナチも味方の「エイント・ライツ」のメンバーも正直行き当たりばったりの行動を繰り返す為に、ワンシチュエーション・スリラーの醍醐味であるロジカルな頭脳戦は全く期待出来ない。ライブハウスの楽屋に閉じ込められ、そこから敵の攻撃から身を守りながら、いかに脱出するか?というシナリオ的にも面白くなりそうな設定だが、残念ながら上記の様に、ただただ映像的なスリルに身を任せて、人間同士+猛犬(!)が殺し合う様を観るという、大変におバカな作品に仕上がっている。

 

特に名優パトリック・スチュワートがネオナチのボスを演じているが、圧倒的に有利な状況のくせに講じる作戦が駄目すぎる為に、雰囲気は出ているが魅力的に見えない。何故、少人数ずつ犬やら人間を送りこむのか?後で警察の捜査が入った時の為に、拳銃は使いたくないという理屈らしいが、籠城している人間を制圧するなら、実際に使わなくても銃で威嚇しながら、一気に多くの人数を送り込むのが定石だろう。かたや、主人公側はそれを現場にある限られたアイテムで罠を作り、知恵とアイデアを使って少ない人数で防ぎ切る様を観るのが、この手の映画に期待するポイントだと思うが、この作品はそうはならない。唯一、犬を撃退するのにライブハウスならではの方法を使うのは、フレッシュで良かったが。

 

実はネオナチとパンクバンドの戦いという予告編を観て、もう少し思想的な攻防やイデオロギーの違いによる駆け引きがあるのかと勝手に期待していたが、それは皆無で残念だった。パンクバンドという設定を活かして世間に迎合しない、自分たちの生き方を貫くなどの「パンクな」戦い方で、ネオナチと攻防してくれればもっと楽しめたと思う。

 

僕のこの映画の好きなポイントは、ライブハウスにたどり着く前の売れないバンドマンたちのロードムービー的な演出だったりする。車の中で寝泊まりしながら、くだらない事で笑い合う彼らにはバンドという夢があり、固い友情があるという描写が、短い時間ながら見事に伝わってくる。本作の監督であるジェレミー・ソルニエには、次回作で青春ロードムービーを是非撮って頂きたいと思う程、良く出来たシーンだった。

 

本作「グリーンルーム」は95分でサクッと終わるバイオレンス・スリラー映画として及第点の出来だと思うし、低予算ならではのインディーズ感が画面から迸っており、荒々しい魅力が溢れている。しかもゴア度も高い為、観ている間は緊張感も持続して全く退屈しないという美点もある。だが都内でも公開館が少なく観づらい作品だし、この映画ならではの強いメッセージがある訳では無いので、万人が好きな作品ではないかもしれない。ただ「ナパーム・デス」や「スレイヤー」といったハードコアジャンルの楽曲が、大音量で聴けるのは本作の魅力のひとつだろう。バイオレンスとハードコアミュージックというテーマにピンと来る方にはオススメだ。

採点:5.0(10点満点)

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