映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ヴィジット」を観た

「ヴィジット」を観た。

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監督:M・ナイト・シャマラン

日本公開:2015年

 

これはシャマラン監督の完全復活作と言って良いだろう。「シックスセンス」で華々しいデビューを飾り「サイン」で興業的にも大成功を収めたシャマラン監督だが、ここ数年は「らしくない作品」ばかりを撮っており、かなりの駄作を連発していた。

 

そもそもこの監督はヒッチコックからの影響を公言している様に、ある限られたシチュエーションでの非日常的なサスペンスを描く事が得意な監督なので、資質として大作SFなどには向いていないと思う。そこで、観客からも批評家からも興業的にも厳しい評価に晒されたシャマランが、起死回生で放ったのがこの「ヴィジット」である。

 

ジャンルとしては、小規模なサスペンスホラーだと思うが、コメディ的な要素も多分に含まれていて、終始とにかく笑える映画だ。やはりホラーとコメディは相性が良い。

 

あらすじ

15年前に両親の居る家を出たまま、駆け落ちして二人の子供を産んだキャスリン。今はその駆け落ちした相手も家を出て行ってしまい、父親の居ない母子三人で生活をしていた。ある日、インターネットで連絡先を知ったキャスリンの両親から、孫たちに会いたいとの連絡が入る。

 

休暇という事もあり、母親から離れて祖父母の待つペンシルバニア州メインビルへ行く事になった姉のベッカと弟のタイラー。初めて会う優しそうな祖父と料理上手な祖母に迎えられ、田舎町での穏やかな1週間を過ごす事になった二人。

 

祖父母からは「夜9時半以降は部屋から絶対に出ないこと」という約束を守るように言い渡されるが、空腹の余りクッキーを取りに部屋を出た姉は祖母の異様な光景を目にしてしまう。その晩から毎日、夜9時半を過ぎると家の中には異様な気配が漂い、不気味な物音が響き渡る。それから、昼夜を問わず祖父母の行動は常軌を逸し、徐々に姉弟は身の危険を感じる様になる。そして、いよいよ滞在最後の晩が訪れ、祖父母の本当の正体が暴かれる。

 

感想 

作品の流れとしては、映画監督志望の姉とサポート役の弟のどちらかが常にカメラを回しており、祖父母宅に滞在している数日間に起こった事を撮影している、というドキュメンタリー風味になっている。

 

ごく簡単にこの映画を説明すると、作中で老人に多いと説明される「日没症候群」という夜になると奇行を取る認知症を抱えた祖母と、失禁症を持ち突然暴力的になる祖父の二人が、とにかくこの姉弟をメチャクチャに不安にさせ、怖がらせる。そして、次の日には「年寄りってのは色々あるんだよ」という説明ではぐらかされるが、実はこの二人には秘密があったというお話だ。

 

この老夫婦の奇行が、本気で嫌な感じだし、それ故に笑えるという絶妙なバランスで成り立っている。例えば、夜中にドアの外で何かを引っ掻く様な音が聞こえるので、静かにドアを開けてみると、婆さんが全裸で一心不乱に壁を引っ掻いている姿を見てしまうという具合だ。

 

怖い。でも、なんか笑える。姉弟のリアクションも含めて、「見てはいけないものを見た」という気持ちを観客に抱かせるが、映像としては衝撃的で面白い。なんかこの感覚に覚えがあるなと思ったら、昔ダウンタウンの松っちゃんがコントで演じていた「キャシィ塚本」というキャラを初めて観た感覚に近い事に気付いた。あの「キャシィ塚本」の「キャシィ」は、映画「ミザリー」で完全にイっちゃってる中年女性を演じていたキャシー・ベイツの名前から取ったのは有名な話だが、行き過ぎた狂気は笑いになるという基本的なコンセプトは、あのコントに近いかもしれない。

 

追いかけっこの後の半ケツ、クッキーをバリバリ食った後の奇声、辛い事があった後にタイラー君が呟く女性アーティスト名、しつこいレンジ掃除、衝撃のオムツシーン、作品を観てない方には何のことやらサッパリだと思うが、この映画はしばらく頭から離れないシーンがいっぱいだ。

 

だが、この映画が優れている点は怖さや笑いだけでは無く、しっかり人間ドラマも描いている所だ。

 

父親を無くしてから、自分を直視出来ずに鏡が見れない姉、フットボールの試合で失敗した事で父親に愛想を尽かされたと思っているトラウマを持ち、更に極度の潔癖症の弟のそれぞれが、この映画のエンドクレジットではそれらを乗り越えて逞しく成長しているのが、見事にワンシーンで表現されている。Tダイアモンドのラップは、姉弟に感情移入していればいるだけ、観客にとって嬉しいシーンとなるだろう。

 

また前述の様にこの映画は姉が撮影した映像を、自ら編集したという事になっている。では、ラストシーンで昔の父親が出てくる映像を使っているという事は?など、泣ける演出もしっかりやっているのだ。

 

母親が姉弟を送り出す時の駅での長い抱擁や、列車が出発する時の母親の表情の変化など、役者の演技や演出も上手い。何より姉弟と老夫婦を演じた無名役者たちが、今回とても良い仕事をしている。この映画は、名前の知られている俳優を使うより、無名の役者の方が絶対に良い。シャマラン監督のナイスジャッジである。

 

デビュー作からほぼ全ての作品を劇場で観て来たファンの一員としては、久しぶりにM・ナイト・シャマラン監督の原点回帰的な快作が観れて、本当に嬉しい。残酷なシーンは無いが、演出的に極端にホラーが駄目な方は厳しいかもしれない。だが娯楽映画として本当に良く出来ているし、上映時間も短めなのでたまには変わった映画が観たいという方にはオススメだ。しばらく忘れられない映画体験になると思う。

 

今作の成功を受けて、シャマラン監督の次回作「Split(原題)」もサスペンススリラーとの事だ。2017年1月公開らしい。これも絶対に観に行こうと思っている。