映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」を観た。

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監督:クレイグ・ギレスピー

出演:マーゴット・ロビーセバスチャン・スタンアリソン・ジャネイ

日本公開:2018年

 

第75回ゴールデン・グローブ賞と第90回アカデミー賞助演女優賞を獲得した他、主演女優賞編集賞、作品賞などそれぞれ3部門ノミネートという高い評価の伝記ドラマである。オリンピックの代表選手な選ばれながら、ライバル選手への襲撃事件などのスキャンダルを起こした実在のフィギュアスケータートーニャ・ハーディングの人生を描く。監督は「ラースと、その彼女」のクレイグ・ギレスピー。主演は「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で、ディカプリオ演じるジョーダン・ベルフォードの妻役を演じていた、マーゴット・ロビー助演女優賞を獲得したのは「JUNO/ジュノ」のアリソン・ジャネイ。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

貧しい家庭に生まれ、強烈な鬼母ラヴォナ(アリソン・ジャネイ)に育てられたトーニャ・ハーディングマーゴット・ロビー)。フィギュアスケートの才能に恵まれた彼女は、血のにじむような努力を重ねてトリプルアクセルを成功させ、アメリカ代表選手として1992年のアルベールビルオリンピックに出場する。だが結果は4位に終わり、更に元夫(セバスチャン・スタン)や母親との関係も上手く行かず、人生に苦悩する。だが再びチャンスを掴み、猛特訓の末に1994年のリレハンメルオリンピックに出場する事になったトーニャだったが、元夫の友人がライバルだったナンシー・ケリガンの膝を襲うという事件が起こしてしまう。

 

感想&解説

アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」、評価の高さは認識していたが、これほど映画として面白いとは思わなかった。この作品、とにかく編集が素晴らしい。伝記映画と聞くと重厚な人間ドラマかと思うが、本作はコメディ映画と言って良いだろう。それくらい笑えるシーンが満載だし、この編集のおかげで独特の笑いの間を生んでいる。また、いわゆる「第四の壁」を壊して、登場人物が観客に向かって話しかけてくる演出が入るのも特徴で、インタビュー形式の中に過去の出来事を挟み説明しながら進む構成であるため、インタビュー中にしばらく登場のなかった母親がその事に文句を言うギャグや、猛特訓のシーンでコーチがこっちを見て「これ実際にやったのよ」などと言うシーンは、ベタではあるが映画の演出として笑わせてくれる。

 

また、ライバル選手のナンシーを実際に襲ったトーニャの元夫の仲間たちの余りの馬鹿さ加減も、完全にコメディ演出になっている。いきなりナンシーを襲った動機もめちゃくちゃなら、それを自慢気に他人に話し、自分の事を地下組織でスキルを磨き、世界を又にかけて人質を救ったなどと、本気でインタビューに答えて突っ込まれるニートのショーンや、警察に追われているのにクレジットカードを使いまくってすぐに捕まるデリックなど、いわゆる教育を受けていないホワイトトラッシュの愚鈍さを、ある意味笑わせながら提示してくる。しかも彼らは創作のキャラクターではなく、実際にアメリカに存在し、トーニャの人生を変えてしまったのだ。人が育つ環境の重要さを改めて思い知らされる。

 

また非常に気の利いた映画的な演出が多々あるのも、この映画の特徴だ。冒頭、トーニャを連れてスケート教室に来る母親ラヴォナが、どれだけ非道な人間かがまずBGMで示される。CLIFF RICHARDの「Devil Woman」である。リンクでタバコを吸い、すぐに暴言を吐く最低の母親である彼女を見て、もちろんコーチはトーニャの入会を断る。だが、スケートをする4歳のトーニャの笑顔とそれを思わず見てしまうコーチのカットだけで、次のシーンではもう実力を付けて成長しているトーニャのシーンに移行している。これはトーニャのスケートへの溢れる愛とコーチの人柄を、短いショットで非常に端的に現している省略演出で大変上手い。

 

またラストシーンで、スケートを剥奪されボクサーに転向したトーニャが、相手にノックダウンされるシーンのスローモーション。殴られ倒れながら回転する様子と、初めてスケートの試合でトリプルアクセルを決めている人生最良の回転を交互に描くという、あまりにアイロニカルで悲しいシーンの美しさ。そしてトーニャは倒れ込んで血を吐きながらも再び立ち上がるが、カメラはその鮮烈な赤い血を映し続ける。そこから最後のタイトルが表示される編集の切れ味。これらの一連のシーンは映画的な快感に溢れており、本当にシビれる。フィギュアスケートという競技で溌剌と演技するトーニャを捉えるカットのダイナミックでスピーディなカメラワークも気持ちいいし、全体的に70~80年代の音楽が画面を推進しているのも良い。特にトーニャが夫から逃げるシーンでかかるSUPER TRAMPの「Goodby Stranger」は歌詞の意味も含めて画面にマッチしており、思わず身体が動いてしまう。

 

トーニャ・ハーディングという女性のあまりに数奇な人生とそのヒール性、そして「ナンシー・ケリガン襲撃事件」という94年に起こったセンセーショナルな実話を、主演のマーゴット・ロビーの熱演と編集のタチアナ・S・リーゲルのセンス、そして監督のクレイグ・ギレスピーによる見事な演出力で、120分をフルスロットルで魅せ切る傑作だったと思う。その上、「アメリカは悪役を欲する」というアメリカのマスコミ報道の危うさや、フィギュアスケートの様な主観で採点される競技における、イメージ込みで評価される事への選手の苦労、幼少期に受けた暴力が人格に及ぼす影響など、非常に多くの示唆に富んだ作品だった。フィギュアスケートに詳しくなくても良いし、トーニャ・ハーディング自体に興味が無くても充分に楽しめるので、これは映画ファンなら観ておくべき作品だと思う。