映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ボヘミアン・ラプソディ」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

ボヘミアン・ラプソディ」を観た。

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監督:ブライアン・シンガー

出演:ラミ・マレック、ジョー・マッゼロ、ルーシー・ボイントン

日本公開:2018年


1991年にエイズでこの世を去ったフレディ・マーキュリーと、彼が所属していた世界的人気ロックバンド「クイーン」の挫折と成功を描いた伝記ドラマ。クイーンのギタリストであるブライアン・メイと、ドラマーのロジャー・テイラーが音楽総指揮を手がけた事でも話題となった。とにかく「キラー・クイーン」「ボヘミアン・ラプソディ」「ラブ・オブ・マイ・ライフ」といった名曲の数々がスクリーンでかかる度にテンションが上がる。監督は「ユージュアル・サスペクツ」や「X-MEN」シリーズのブライアン・シンガー。この作品を語る上で、ほとんどこのブライアン・シンガーの名前が告知されていないし、パンフレットにも本人コメントすら記載されていないのが不思議だが、フレディ・マーキュリーという人物を深く描く為には、やはり彼が適任だったのであろう。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

1970年、ロンドンで生活する青年フレディー・マーキュリーは、昼間は空港で働き、夜はライブハウスに入り浸る生活を送っていた。そんなある日、学生バンドだったブライアン・メイロジャー・テイラーのバンドのボーカルが脱退。そこでフレディは自らを売り込みに行くことにする。彼の歌声に天性の才能を感じた2人は、ベースのジョン・ディーコンも入れて「クイーン」というバンドを結成し本格的に活動を始める。そんな中、フレディはメアリーという女性と恋に落ちる。そして、遂にレコードデビューも決まりヒット曲も生まれ、バンドとして順風満帆に見えたが、彼らの行先には過酷な試練が待ち構えていた。

 

感想&解説

クイーンを初めて聴いたのは、高校生の時だった。フレディ・マーキュリーが亡くなったというニュースが世界中を駆け巡っている最中で、彼らの音楽がメディアでも頻繁にかかっていた。そんな時にクイーンのベストアルバム「グレイテスト・ヒッツ Vol.1」を友人から借りたのだ。1曲目の「ボヘミアン・ラプソディ」を聴いた時、なんて美しい曲なんだろうと思った。歌詞の内容は全く解らないが、それでも冒頭のピアノから始まるフレディの歌声とフレーズ、そして突然オペラ調になる展開と、今まで聴いてきた音楽とは一線を画す楽曲に鼓動が高まった。そこから始まる珠玉の名曲の数々。「地獄へ道づれ」のベースライン、「キラー・クイーン」のコーラスワーク、「ドント・ストップ・ミー・ナウ」のメロディ、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」のギターソロ。カセットテープに落として、何度も聴き漁ったものだ。


それから大学生になり、フレディ死後に生前の録音音源を使ってレコーディングされたというラストアルバム「メイド・イン・ヘヴン」がリリースされ、自分の中でのクイーン熱は収まっていった。だが、もちろんアルバム単位では「クイーンⅡ」や「オペラ座の夜」「世界に捧ぐ」「ホット・スペース」(個人的には好き)など今だに愛聴しているし、様々な映画やCMを観ていると彼らの楽曲が実に多く使われている為、その度にクイーンの偉大さを痛感してきた。最近だと「アトミック・ブロンド」や「ベイビー・ドライバー」、「ハードコア」「スーサイド・スクワッド」予告などが記憶に新しいだろう。


さて、本作「ボヘミアン・ラプソディ」である。冒頭の「20世紀フォックス」のファンファーレから、VOXアンプで鳴らされた様なブライアン・メイ風のギターサウンドに興奮させられる。そして、ウェンブリー・スタジアムでの「ライヴ・エイド」のステージ裏の様子から映画は始まり、フレディの背中越しに大舞台ならではのスタッフやアーティスト達の独特な空気感が描写される。顔は映らないがデヴィッド・ボウイがチラッと居たりと「ライヴ・エイド」当日の熱気が伝わってくる演出に、この時点で気持ちはすでに鷲掴みされている。最高のオープニングだろう。


それから時間が遡って、「クイーン」結成前のフレディ・マーキュリーの人生が描かれる。父親との確執や自分の出生に対してのコンプレックス、あの独特な前歯への周りの反応など、「まだ歌い出す前の彼」はただの一人の男に過ぎなかった事が分かる。だがバンドが結成され、ひとたびステージに上がってしまえば、どれだけ彼のパフォーマンスがたくさんの人々を魅了してきたかがクイーンの名曲と共に語られるのである。フレディを演じるのは、ラミ・マレック。過去作はポール・トーマス・アンダーソン監督の「ザ・マスター」や、スパイク・リー監督の「オールド・ボーイ」らしいが、ほとんど彼の記憶はなかった。だが、本作でのラミ・マレックはすごい。完全にフレディ・マーキュリーと同化しているといっても過言ではなく、ブライアン・メイなどの他メンバーも含めて、本作中、彼らがクイーンのメンバーである事の違和感を一度も感じなかった。これが出来ている時点でこの作品は大成功だろう。


聴き馴染んだ「ボヘミアン・ラプソディ」や「ウィ・ウィル・ロック・ユー」の制作裏側が観れるのは単純に嬉しいし、彼らのライブパフォーマンスも本当にクイーンの演奏を観ている気持ちになり、ずっと身体が揺れるのを抑えられない。もちろんその真骨頂はラスト20分に及ぶ「ライヴ・エイド」のパフォーマンスだろう。「ボヘミアン・ラプソディ」から始まり、「レディオ・ガガ」「ハンマー・トゥ・フォール」「伝説のチャンピオン」と続く圧巻のパフォーマンスは、彼らの歩んできた過程を共にしてきた観客には、涙無くしては観られない。様々な障害やエゴや確執はあったが、これほど素晴らしい曲を世の中に生み出してきたというクイーンという4人の存在と、楽曲の強さに否応なく心が揺さぶられるのだ。ロックバンドの演奏を観ながら、劇場中のおじさん達が号泣しているという光景はこの作品ならではだろう。


監督のブライアン・シンガーは自らゲイである事をカミングアウトしており、恐らくフレディ・マーキュリーの人生に、自らを投影する部分がかなりあったのではないかと思う。同じ「表現者」としてシンパシーを感じ、その孤独感や悩みに共感する部分があったのではないだろうか。確かにブライアン・シンガーは過去作でも、「X-MEN」のような特別な能力がある為に迫害されるマイノリティを描いてきたが、本作はフレディ・マーキュリーを描くというテーマがハッキリしている故に、更に繊細な表現でその苦悩や待ち受ける運命を描けていたと思う。特にフレディの婚約者で、彼のセクシャリティについて苦悩するメアリーを、あの傑作「シング・ストリート」で、主人公コナーの憧れの女性ラフィーナを演じていた、ルーシー・ボイントンが演じているのも個人的には嬉しかった。


結論、想像を超えた傑作であった本作。メインターゲットはもちろんクイーンのファンだと思うが、ヒューマンドラマとしても見所は多いし、とにかく改めてクイーンの楽曲のキャッチャーさ、偉大さがよく分かる音楽ドキュメンタリーとして文句なしの出来だと思う。大音量のスクリーンで観る事に価値があるタイプの作品なので、IMAXでの鑑賞も良いだろう。エンド・クレジットの最後にかかる曲は、フレディが生前に制作した最後のアルバム「イニュエンドウ」に収録されていた、「ショウ・マスト・ゴー・オン」だ。「命ある限りショーは続けなければいけない」という、フレディ・マーキュリーの人生を語る映画のエンディングとして、これ以上相応しい選曲は無いだろう。最後まで本当に素晴らしい作品だった。