映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

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「ビール・ストリートの恋人たち」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「ビール・ストリートの恋人たち」を観た。

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監督:バリー・ジェンキンス

出演:キキ・レイン、ステファン・ジェームズ、セヨナ・パリス、レジーナ・キング

日本公開:2019年


第89回アカデミー賞で作品賞を受賞した、バリー・ジェンキンス監督による待望の新作が公開となった。第91回アカデミー賞でも脚色賞・助演女優賞・作曲賞の3部門にノミネートされ、レジーナ・キング助演女優賞に輝いた事でも記憶に新しい。原作はジェイムズ・ボールドウィン著の「ビール・ストリートに口あらば」。黒人カップルに理不尽に襲い掛かる運命を、同じく黒人作家であるボールドウィンが描いた作品だ。では、バリー・ジェンキンス監督が丹精な演出で積み上げた、映画版「ビール・ストリートの恋人たち」はどうだったか。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

1970年代、ニューヨーク。幼い頃から共に育ち、強い絆で結ばれた19歳のティッシュ(キキ・レイン)と22歳の恋人ファニー(ステファン・ジェームズ)。幸せな生活を送っていたある日、ファニーが無実の罪で逮捕されてしまう。2人の愛を守るため、ティッシュとその家族はファニーを助け出そうと奔走する。だが、その前には様々な困難が待ち受けていた。

 

感想&解説

非常に美しいラブストーリーである。それは冒頭、主人公二人の登場シーンから強く印象付けられる。ティッシュとファニーが着ているジャケットやシャツ、コートには黄と青があしらわれている。それらが彼らの黒い肌と絡んでよく似あっているのと同時に、二人の相性の良さを感じさせる見事なスタイリングなのだ。そして、その印象は映画が進んでいくとさらに深まっていく。お互いを深く愛し合い、尊重しあう二人に観客は感情移入し、このまま幸せになってほしいと心から願う。「彼こそ私の人生で最も美しい人だ」、ティッシュのこのセリフがファニーとの関係を端的に物語っている。


だがこの作品は時系列をばらして、二人の現在の状況を観せることにより残酷な現実をみせる。ファニーが無実の罪により刑務所にいる事が分かってくるのだ。そしてティッシュはファニーの子供を身ごもっている。黒人差別主義者の警官によって、ファニーは理不尽な罪を着せられ逮捕されている。この眩しいほどに輝かしい「二人の愛」と「人種差別という闇」のコントラストがこの作品のテーマになっており、より一層差別の禍々しさが際立つように作られているのだ。この対比により1960~70年代のアメリカに蔓延っていた、不条理すぎる差別という暴力に観客は戦慄する。今年のアカデミー作品賞は「グリーンブック」だったが、黒人差別という同じテーマを扱いながら全く違うアプローチなのは面白いと思う。


前回「ムーンライト」でも感じたが、バリー・ジェンキンス監督の作品はまるでヨーロッパのアート映画のような気品と美しさが漂う。衣装やセットのライティング、カメラの構図など完璧に計算されていて、どのカットもまるでスチール写真のようだ。さらに特徴的なショットは、多用される顔正面からのクローズショットだ。まるで観客に語りかけてくるようなそれらのショットには目を奪われるし、そのキャラクターの特徴が見事に切り取られている。友人とスペイン語でふざけあうファニーの姿を見て、「外の世界の彼を初めて見た」と語るティッシュのモノローグと、ファニーの顔を正面から捉えるスローモーションからは、ティッシュの愛情がありありと伝わってくる。


またセリフもとても良い。黒人というだけでなかなか見つからない二人の住処だったが、ユダヤ系の不動産仲介レヴィが世話してくれ、やっと住む場所が見つかる。感謝するファニーにレヴィが伝えるセリフ、「俺は愛し合う人間が好きなんだ、黒、白、緑、紫、肌の色は関係ない。俺はただ母親の息子でしかない。人間の違いは母親が違うだけだ」は、心を揺さぶられるとても優しい言葉だ。この後、幸せそうな二人を包む柔らかな陽ざしと共に、この作品の中でも白眉の名シーンだと思う。


ファニーの無実を晴らそうと中盤以降はティッシュを中心に家族一同で奔走するが、結局彼が刑務所から出ることは叶わず、ティッシュは子供を出産する。そして、子供は成長して面会に来るシーンで映画は終わる。子供はお菓子を食べる際にお祈りをするが、その時に父親のために神に祈る。それは普段から母親と一緒に口にしている言葉なのだろう。ここでもティッシュの深い愛に感動を覚える。


だが、現実的にファニーはまだ刑務所にいるのだ。この作品は映画が始まってから終わるまで、ファニーとティッシュの環境は好転しない。ファニーはいつ刑期から解放されて、家族と一緒に暮らせるのかわからない。だが、これこそがバリー・ジェンキンス監督の伝えたいメッセージなのだろう。人種差別にハッピーエンドはなく、現代までこの問題はまだ全く終わっていないのだから。