映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

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「アド・アストラ」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

「アド・アストラ」を観た。

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監督:ジェームズ・グレイ

出演:ブラッド・ピットトミー・リー・ジョーンズリヴ・タイラードナルド・サザーランド

日本公開:2019年


プランBエンターテインメントというブラピ自らの会社が制作しているとおり、制作・主演をこなしたブラッド・ピットは本作に並々ならぬプロモーションを投入しているようだ。日本に来日していたのも、記憶に新しい。メディアでも「ブラピ主演のSF超大作」といった宣伝で、これでもかと観客の期待を煽っているし、第76回ベネチア国際映画祭で初披露された本作は、海外の批評家から絶賛の嵐である。ところが、いざ日本で公開されてみるとyahooレビューでは2点台後半という酷評ムードで、かなり温度差があるようである。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

あらすじ

宇宙で活躍する父(ジョーンズ)にあこがれたロイは、自身も宇宙で働く仕事を選んだ。しかし、その父は“地球外生命体の探索”に旅立ってから16年後、太陽系の彼方で行方不明となってしまう。生存は絶望的だった。時は流れ、エリート宇宙飛行士になったロイに、軍上層部から「君の父親は生きている」という驚くべき事実がもたらされる。しかも父は、太陽系を滅ぼしかねない危険な実験「リマ計画」にかかわっているという。ロイは父と再会するべく、宇宙へと旅立っていく。

 

感想&解説

本作は間違っても、ブラピ主演のハリウッドSF大作として観に行ってはいけない。正直、作風としては真逆の、かなり地味なアート映画を観に行くつもりの方がいいと思う。暗くて地味で静かな非エンターテイメント映画だから、娯楽性を期待した観客の評価は辛口にならざるをえないだろう。また本格SF映画を期待しても肩透かしを喰らう。舞台は近未来だが、カッコいいガジェットや宇宙服のデザインや宇宙船が観れる訳でもないし、むしろ設定はガタガタと言って良い。「ゼログラビティ」や「ファーストマン」で感じた宇宙空間の恐怖も薄いし、宇宙の広大さも描く気がないらしく、目的地にあっという間に着いてしまうし、ラストも呆気ないくらい簡単に地球へ帰還出来てしまう。これでは退屈だという感想が多いのも、仕方ないだろう。


ストーリーも、典型的な古代ギリシア叙事詩オデュッセイア」をベースにした父探しの物語であり、「行って帰る」だけのシンプルな話である。なにか強烈なストーリー上のフックやドンデン返しがある訳でもないし、眼を見張るような映画的なメタ演出がある訳でもない。ひたすら静かなトーンで、ブラッド・ピット演じる宇宙飛行士が、宇宙で行方不明になったトミー・リー・ジョーンズ演じる父親を探すというお話を紡いでいく。むしろ、途中で挟み込まれる宇宙海賊とのチェイスや生体実験の猿とのバトルといった少し派手めのシーンが、全体から浮いて見えるくらいである。


では、この映画は何を描いているか?と言えば、極めて普遍的な「人の成長」だと言えるだろう。空虚な人生を送り、大事なものを見失っていた主人公が、宇宙の彼方で家族を捨てていまだに地球外生命体の探索をしている父親と再会し、そして彼を失うことに事により、身近な人間の大事さと愛に気付くという、極めてアナログ的で古典的なお話なのである。その意味では、もはやSF映画とも呼べないかもしれない。ヒューマンドラマの範疇に入るストーリーなのである。


この古典的ストーリーテリングを成り立たせているのは、ブラッド・ピットの演技に尽きる。終始、非常に疲れきった表情を見せながら静かな演技を貫くのだが、深く刻まれたシワと下がりがちの眉が語る苦悩、そしてふとした瞬間に流れる涙。ほとんどがブラピの一人芝居といっていいほどの本作だからこそ、「アド・アストラ」の魅力の大半は、彼の演技だと言っても良いと思う。それくらい、本作は俳優ブラッド・ピットの独壇場なのだ。


インターステラー」などを手がけた撮影監督のホイテ・バン・ホイテマが描く宇宙空間は美しく、音響効果も素晴らしいと思う。だが本作は、家でぼんやりと鑑賞するには全く向いていない作品だ。大きなスクリーンで観ないと価値が半減するタイプの作品だと思うし、家で観ると襲ってくる睡魔に勝てない気がする。スタンリー・キューブリック2001年宇宙の旅」への強烈なオマージュを感じる本作は、少し年配の映画ファンから支持されるマニア好みの映画だと言えるだろう。くれぐれもエンタメ娯楽作品を期待して観ないように。