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映画「罪の声」ネタバレ感想&解説 近年でも屈指のサスペンスドラマ!脚本の上手さに唸ること間違いなし!

「罪の声」を観た。

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現実の未解決事件である、「グリコ・森永事件」をベースにした塩田武士のミステリー原作の映画化。主人公である新聞記者とテーラーの二人を小栗旬星野源が初共演で演じる。監督は「麒麟の翼 劇場版・新参者」や「映画ビリギャル」の土井裕泰、脚本はドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」が有名な野木亜紀子。142分という長尺ながら、確かな脚本と演出力でグイグイと惹きつけられる作品だった。原作は未読である。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:土井裕泰    
出演:小栗旬星野源松重豊
日本公開:2020年

 

あらすじ

平成が終わろうとしている頃、新聞記者の阿久津英士は、昭和最大の未解決事件を追う特別企画班に選ばれ、30年以上前の事件の真相を求めて、残された証拠をもとに取材を重ねる日々を送っていた。その事件では犯行グループが脅迫テープに3人の子どもの声を使用しており、阿久津はそのことがどうしても気になっていた。一方、京都でテーラーを営む曽根俊也は、父の遺品の中にカセットテープを見つける。なんとなく気になりテープを再生してみると、幼いころの自分の声が聞こえてくる。そしてその声は、30年以上前に複数の企業を脅迫して日本中を震撼させた、昭和最大の未解決人で犯行グループが使用した脅迫テープの声と同じものだった。

 

感想&解説

正直まったく期待していなかった作品で、予告編を観た時もあまり食指が伸びなかったのだが、あまりの世評の高さに鑑賞した。結果、近年観た邦画の中では屈指のサスペンスドラマであった。割と長尺な142分という上映時間なのだが、まったく興味が途切れない。本作は映像によるクオリティが高いというよりは、脚本が突出して素晴らしいのだと思う。まるで推理小説を読んでいるように順番に提示された謎が解かれていき、伏線が回収されていく。そしてそれらを後押ししているのは、印象的なセリフと役者の演技というベーシックな要素だ。

 

現実の事件をモチーフにしている事と、そもそもの関係者が多く混乱しがちなストーリーなのだが、これを最低限の表現でうまく説明する手際が良い。事件を追う新聞記者として、小栗旬が演じる阿久津が35年前の事件を紐解いていくという構成を取っているので、観客も一緒になって事件を追っていく視点となる。そこに「新聞記者」として過去の事件を調べ直し罪のない事件関係者を巻き込んでいく事への葛藤や、報道する事そもそもの意義を考え直していく。そして子供のころに録音された自分の声を犯罪に使われたという、星野源が演じる曽根という人物が絡んでいき、彼らはバディとして二人で事件の真相を追っていくという構成になる。

 

彼らの行動や言動にどれくらい感情移入できるか?が、こういった作品の大きなポイントになると思うが、二人の行動やセリフにも説得力があり観ていてイライラ感がない。また新聞社での会議室でおこなわれるブリーフィングによって、観客への情報をしっかり整理してくれるし彼らの次の行動を示唆してくれているので、観ていて非常にわかりやすい。こういう構成も、やはり脚本の上手さの成せる技だろう。メインの舞台である大阪を離れて、四国に渡る瀬戸大橋を背景に二人が初めて友情を感じるシーンがあるのだが、ここで小栗旬が語る言葉は作り手からの「仕事論」のようにも感じて、特に印象深い名シーンになっていたと思う。こういうシーンが、映画のクオリティアップに大きく貢献しているのだろう。

 

60年代の学生運動まで影響しながら本作のストーリーは進むのだが、自分の声を犯罪に使われた3人のうち2人を含む被害者家族の行方が、本作のもうひとつの大きな推進力になる。事件に巻き込まれたある親子の人生が、犯人たちの無責任な行動によって大きく変わってしまった事が描かれるのだが、これがラストでは泣ける展開になる。とはいえ、いわゆる大仰な泣かせる演出ではなく、上品にショットが綴られていく。個人的には再会した親子を見つめる小栗旬の切り替えしで、何故か涙がこぼれた。

 

終盤のシーンで新聞社の中で語られる、新聞記者における事件を追う行為とは「素因数分解と同じで、素数になるまで目の前の要素を割っていく行為」だと語られる。まさにこの言葉どおりに劇中の主人公たちは実直に事件に向き合い、時に犯人たちの行動を推理し、時に関係者に頭を下げて情報を得たりしながら、徐々に事件の真相に近づいていく。この行程がスリリングだし引き込まれる。いわゆるドンデン返しが気持ちいいというタイプの作品ではないが、丁寧に積み上げられた演出によってしっかりカタルシスがあるという映画だと思う。ネタバレになるが、今回の事件の犯人の動機が実際の現金ではなく、株価操作が目的だったというのもリアリティがあったと思う。

 

曽根というキャラクターを演じた星野源も、思った以上に素晴らしかった。基本的には淡々としたキャラクターなのだが、本心から家族を想い大事にしていることが画面から伝わってくる。感情をむき出し激高するシーンも過度に大げさにならず、観ていて不快感がない。ミュージシャンとは思えない芸達者っぷりである。テーラーという職業はその人の身体にあったスーツを作り、ほつれたら修理する仕事だ。ラストシーン、阿久津が曽根にスーツ作成を依頼する場面で本作は終わる。これから作る新しいスーツにより、彼らの交流はこれからも続いていく事がスマートに描かれるのだ。

 

TBSで「空飛ぶ広報室」や「逃げるは恥だが役に立つ」など様々な名ドラマを手掛けた、土井裕泰監督と野木亜紀子脚本タッグの勝利だと思う。今年劇場で観た全作品の中でもベスト10に入るほど気に入った本作。特に当時の「グリコ・森永事件」を少しでも覚えている人には感慨深い作品になるだろう。これはスルーするには勿体ない作品なので、ぜひ鑑賞をオススメしたい。

採点:8.5点(10点満点)