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映画「ザ・ハント」ネタバレ感想&解説 普通に楽しいB級ジャンルムービー!

「ザ・ハント」を観た。

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ゲット・アウト」や「透明人間」、「ハッピー・デス・デイ」、リメイク版「ハロウィン」など上質な低予算ホラー・スリラー作品を多く手掛けている、名物プロデューサーのジェイソン・ブラムが運営する「ブラムハウス・プロダクション」が製作した新作。全米では2019年9月に公開が決定していたが、銃乱射事件の影響で公開がいったん中止になったり、トランプ大統領ツイッターで作品批判をするなど、なにかと物議を醸している作品らしい。監督はクレイグ・ゾベルで、前作はマーゴット・ロビー主演の2018年「死の谷間」だった。主演はベティ・ギルピン。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:クレイグ・ゾベル

出演:ベティ・ギルピン、ヒラリー・スワンク、アイク・バリンホルツ

日本公開:2020年

 

あらすじ

広大な森の中で目を覚ました12人の男女。そこがどこなのか、どうやってそこに来たのか、誰にもわからない。目の前には巨大な木箱があり、中には1匹のブタと多数の武器が収められている。すると突然、周囲に銃声が鳴り響く。何者かに命を狙われることがわかった彼らは、目の前の武器を手に取り、逃げ惑う。やがて彼らは、ネット上の噂に過ぎないと思われていた、セレブが娯楽目的で一般市民を狩る「マナーゲート」と呼ばれる“人間狩り計画”が実在することを知る。絶望的な状況の中、狩られる側の人間であるクリステルが思わぬ反撃に出たことで、事態は予想外の方向へと動き始める。

 

パンフレット

販売無し。

 

感想&解説

いわゆる過去に山ほど作られてきた、「人間狩り」ジャンルの最新版だ。「人間狩り」とは「裸のジャングル」や「アポカリプト」といった一連の作品の事だが、本作も極めて真っ当に作られたジャンル映画として楽しめた。ただレーティングは「R15+」なのだが、そこそこのグロ描写があり、特に前半は一見ヒロインとして活躍しそうなエマ・ロバーツがいきなり頭を撃ち抜かれたり、半身を吹き飛ばされた女性が悪態を突いたりと悪趣味なブラックコメディ的な色が強く、このあたりは観客を選ぶだろう。ただ90分という上映時間らしく展開のテンポは早く、どんどんストーリーが展開するので飽きることはない。

 

ストーリーとしては、いわゆる上流階級のリベラル層が「ゲーム」の一環として、拉致された庶民たちを殺していくというだけの話だ。ここからネタバレだが、庶民たちはあっと言う間に殺されてしまい12人中2人になってしまう。その為、作品のほとんどがこの2人の活動を追う展開になるのだが、この庶民層がいわゆる差別的で暴力的なホワイトラッシュや、トランプ支持の保守派である事が面白く、この映画を差別化していると思う。逆に殺す側が「男女差別」や「摂取カロリー」に気を遣う人種という描き方をしていることにより、結論どちらの立場も等しく攻撃しているである。特に途中で出てくる雑貨屋の老夫婦が最高で、なんとあの「ストリート・オブ・ファイヤー」のエイミー・マディガンが、ガスマスクを着けてぶっ飛んだ老女を喜々として演じている。このシーンだけでも本作は観る価値がある。

 

ベティ・ギルピンが演じる女主人公も極めてクールで非情、さらに暴力的なキャラクターで魅力的だ。しかも退屈な毎日から解放されて、殺し合いが出来る喜びを感じているという「狂気」を宿してる表情がいい。なんとこの主人公に関しては人違いで拉致されたという展開が明らかになる訳だが、この作品はあまりメッセージ性を意識しなくても良いのだと思う。もちろんSNSの危険性や「上流階級VS庶民階級」、ジョージ・オーウェルの「動物農場」の引用、黒人や移民をターゲットに入れなきゃというリベラル層の会話など、テーマとして語られやすいキーワードが散りばめられた作品ではあるが、ラストでモーツァルトの楽曲に乗せて描かれるのは、結局ヒラリー・スワンクが演じる「ラスボス」との長い長いキャットファイトなのだ。ここまで社会派なメッセージをチラつかせながらも、最後が女同士の肉弾戦とはいかにも前時代的でバカバカしい展開だ。ただ、いわゆるジャンルムービーとしては、これはこれで間違っていないと思う。

 

ポスターの文言からかなり政治色の強い、尖ったメッセージがある作品かと思ったが、意外とフラットな視点で作られたB級ジャンルムービーという印象だった本作。上映時間が短いのでサクッと観られるのが良いし、エンドクレジットへ移る際の切れ味もいい。この手の映画に期待するくらいの面白さは担保されている良作だった。続編も期待したい。

採点:6.5点(10点満点)