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映画「シン・エヴァンゲリオン劇場版」ネタバレ考察&解説 庵野監督へ感謝!エヴァ完結編にして感動の傑作!

「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を観た。

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2007年に公開された第1作「エヴァンゲリオン新劇場版:序」から始まった、大ヒットアニメ4部作の遂に完結編である。総監督は「トップをねらえ!」「シン・ゴジラ」の庵野秀明。そもそもは1995年から開始したテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の劇場用リメイクだったが、前作にあたる三作目「Q」でストーリーや設定において劇場版オリジナルの急展開を見せ、続編が熱望されていたシリーズだ。コロナでの度重なる上映延期を経て、遂に約9年ぶりの完結編となる本作。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:庵野秀明

出演:緒方恵美林原めぐみ宮村優子

日本公開:2021年

 

パンフレット

価格1,500円、表1表4込みで全84p構成。

オールカラーで、紙質などクオリティは非常に高い。映画内のカットが多数収録されているのと、主要キャラクターの声優陣インタビュー、庵野秀明監督からのメッセージ、前田真宏監督と鶴巻和哉監督のインタビューがそれぞれ記載されている。

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感想&解説

上映時間155分というシリーズ最長のボリュームで描く完結編は、ポスターアートの「さらば、全てのエヴァンゲリオン。」という文字通り、庵野秀明監督の「エヴァンゲリオン」という作品からの卒業であり、さらにファンにもそれを猛烈に提示してくる作品であったと思う。「序」から約14年、テレビ版放送からだと約26年経ったこのシリーズは、庵野監督自身もそして今まで熱烈に愛してくれたファンに対しても、「大人として成長し、次へ進もう」という強いメッセージをストレートに突きつけてくる。もともと、主人公の”碇シンジ”は庵野監督の投影だというのが通説だが、それを考えるとこの作品のエンディングには感慨深いものがあると思う。

だからこそ、本当にコアなエヴァファンやアニメファンの方には、やや受け入れがたい感情が生まれるのかもしれない。だが個人的にこの映画のラストシーンには、オープンで晴れやかな感情が残った。それはこの「エヴァンゲリオン」というストーリー単体だけではなく、それを取り巻く世界のすべてに対し、このシリーズなりの”落とし前”を付けていたからだと思う。実際、後半ではかなり”メタフィクション”な演出も入れており、今までの「エヴァシリーズ全体」を相対化してみせたりもする。突然アニメが線画だけになったりと、あえて観客に没入感ではなく、今観ているのは「映画ですよ、アニメですよ」と距離を持たせた表現が放り込まれたりするのである。


とはいえ、もちろんアニメ作品としてもしっかり完成度が高いのが、本作の優れたポイントだ。特に序盤の村での”農業シーン”が素晴らしい。そもそもエヴァシリーズでは、一般市井の人々の描写が極端に少なく、”エヴァに乗れる特別な人たち”の物語になりがちだったが、本作ではそこをかなり丹念に描いている。さらにそこに"黒プラグスーツ"の綾波が、村の人々と触れ合いながら野菜を作ったり赤ちゃんと触れ合いながら、”生きること”の本質を知っていく。セリフで「汗水垂らして働くこと」の重要さに触れるくだりがあるが、これは庵野監督からいわゆる”アニメオタク”への強烈なメッセージのような気がして、思わず苦笑がこぼれた。本作は「世間を知り、大人になること」の重要さをストレートに問うてくるのである。こんな「エヴァンゲリオン」が観れる日が来るとは夢にも思わなかったというのが、素直な感想だ。


ここからネタバレになるが、この村で再会するトウジとケンスケ、そして委員長だったヒカリも立派な大人として登場する。彼らは家族を持って仕事により養い、仕事に責任を持って生きている。彼らや綾波と、自分勝手な被害者意識により殻に閉じこもるシンジを対比させる事で、序盤におけるシンジの行動に強烈な嫌悪感を抱かせるのである。だからこそ彼が綾波の行動によって、少しずつ立ち直っていく様に、親に似た安堵が生まれる構造になっているのも上手い。これが後半のゲンドウとシンジの展開に活きてくるのである。最後まで観れば、本作は明確に”親子関係”の話だからだ。終盤、ゲンドウと話をしたいと対峙するシンジ。今まで避けてきた父親も、実は自分と同じ悩みを持ち、ただひたすらに妻であるユイとの再会だけの為に動いていた。ミサトは亡き父親との軋轢を感じながらも、実はカジとの子供を産んでいる。だが母親失格だと自分で思い込み、会えない息子に思いを馳せている。


本作の中心人物たちはいつも親子関係で悩み、心を乱している。だからこそ本作は、逆に大きなストーリーの幹だけを見ればシンプルな構造だとも言えるだろう。もちろん、ゴルゴダオブジェクト/アディショナル・インパクト/エヴァンゲリオンイマジナリー/マイナス宇宙/終盤におけるカヲルのメタ的な扱いと、特に後半は「これぞエヴァの世界観」という専門用語と表現の応酬で、用語や概念の細かい部分は一回の鑑賞では理解しきれなかった部分も多い。だが本作の大きな物語としては、過去の伏線や謎も回収しながらいままでの物語の幕引きはしっかりと出来ており、ファンにも納得感の強いストーリーになっていたと思う。


シンジを自己犠牲で守り信じぬき、遂に覚悟を決めた時に帽子を取って昔の髪型に戻るミサト、マヤがつぶやく「これだから若い男は」というセリフの前半と後半の違い、トウジの子供の写真を観て思わず涙するサクラ、毎日が今日と同じでいいと言うヒカリのセリフ、やっと成長し父親との決着をつけるためにエヴァに乗ることを決めるシンジ、アスカの「気持ち悪い」という名言を生んだ”あの場所”で、シンジがアスカに素直な感情を吐露するシーンなど、アクションシーン以外でも本作は全編ストレートなカタルシスだらけだ。またアニメーションとしての技法もかなり凝っており、後半の実写とアニメがハイブリットされた映像には"新しい表現"を観ているという感覚を強烈に覚えるし、そもそも作画とCGのレベルがとてつもなく高い為、映像作品としての満足感は半端ない。本当に凄まじい映画だと思う。


エヴァの呪縛”で大人になれない身体というのは、明らかにエヴァの評価で一喜一憂していた「Q」までのファン、さらに言えば庵野監督そのもののメタファーだ。だが本作のラストシーンではシンジはネクタイまで締めて成長し、マリと手を繋ぎ駅の階段を駆け上がっていく。この階段とはもちろん”これからの人生”のことであり、だからこそ駅の外はアニメではなく「実写の街」なのである。シンジが成長し街に飛び出したように、「Q」を作った直後はファンからの批判が相次いで病んだ監督自身も、さらにエヴァを観て育ってきた熱狂的なファンも、やっとこれでお互いに”エヴァの呪縛”から解き放たれて大人になれるのだという、非常にオープンなエンディングなのである。だからこそ、このラストシーンには強い解放感を感じるのだろう。


とにかく「劇場版エヴァンゲリオン」の完結編として、これ以上の作品は想像しづらいというのが今の正直な感想だ。恐らくかなりのプレッシャーの中、ここまでの作品を作り上げた庵野監督とスタッフ一同には感謝の念しかない。このコロナ禍、日本全体が未曾有の困難に陥っている中で、強い希望を感じさせてくれる作品であった。それは主人公シンジの様に、この困難の後にはきっと自分も成長できるだろうと思えたからだと思う。あと数回は劇場で観直すと思うが、本作はおそらく本年度を代表する一本になるだろう。今年公開される庵野監督の新作、「シン・ウルトラマン」にも今は期待しかない。

採点:8.5点(10点満点)