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映画「パーム・スプリングス」ネタバレ考察&解説 タイムループジャンルの新風!大人のカップルにオススメ!

「パーム・スプリングス」を観た。    

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本作が長編監督デビューとなるマックス・バーバコウが描く、SFラブロマンス。第78回ゴールデングローブ賞の「最優秀作品賞(コメディ/ミュージカル)」と「最優秀主演男優賞」にノミネートされている。出演は「ブリグズビー・ベア」のアンディ・サムバーグや「セッション」のJ・K・シモンズ、「ブラック・ミラー」などに出演しており日本ではまだまだ知名度が低いが、本作で堂々とヒロインを演じたクリスティン・ミリオティなど。タイトルの「パーム・スプリング」とは、本作の舞台となるカリフォルニアのリゾート地の地名らしい。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:マックス・バーバコウ

出演:アンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティ、J・K・シモンズ

日本公開:2021年

 

あらすじ

パーム・スプリングスで行われた結婚式に出席したナイルズと花嫁の介添人のサラ。ナイルズのサラへの猛烈なアタックから2人は次第にロマンティックなムードになるが、謎の老人に突然弓矢で襲撃され、ナイルズが肩を射抜かれてしまう。近くの洞窟へと逃げ込むナイルズとサラは、洞窟の中で赤い光に包まれ、目覚めると結婚式当日の朝に戻っていた。状況を飲み込むことができないサラがナイルズを問いただすと、彼はすでに何十万回も「今日」を繰り返していると告げる。

 

 

感想&解説

「タイムループ」にハマってしまい、同じ日を何度も繰り返すキャラクターを描いたSFラブロマンスといえば、1993年ビル・マーレイ主演の傑作「恋はデジャ・ブ」を筆頭にかなり手垢のついた設定だが、特にこの映画を特別なものにしている要素は、カリフォルニアという舞台設定からも醸し出される「楽天性」だと思う。本作では、ある男女が身内の結婚式という特殊な一日を何回もタイムループするのだが、そこには「ハッピー・デス・デイ」のような殺人鬼も、「オール・ユー・ニード・イズ・キル」のような凶悪なエイリアンも、「ミッション:8ミニッツ」のようなテロリストも存在しない。主人公二人のループする日は”なんでもない日常”であり、そこが本作のテーマにとって大事な要素になっている。

おおよそのストーリーとしては、主人公のナイルズがホテルで目を覚ますところから映画は始まる。そばには恋人のミスティがいるが、どうもミスティの勝手な性格のせいで二人は上手くいっていないようだ。二人はミスティの友人タラの結婚式に招かれているようだが、ナイルズはアロハシャツに短パンという格好でバカンスを”リラックスしすぎて”いる。結婚式が終わり夜のパーティで、新婦タラの姉であるサラと出会うナイルズだが、ミスティの浮気現場を見てしまい意気投合した二人は、そのまま砂漠の屋外でセックスしそうになる。だがそんなシチュエーションに突然、ナイルズは謎の男から弓矢で襲撃され、洞窟の奥に逃げ込む。そして、それをパニックに陥りながら追いかけるサラ。ナイルズは「追ってくるな」と告げるが、そのまま二人は洞窟の奥にある赤い光の空間に吸い込まれていく。

 

再び、ホテルで目を覚ます”慣れた様子”のナイルズ。それは11月9日の結婚式の朝だ。だが一方でサラは大混乱している。そしてプールでのん気に酒を飲んでいるナイルズを見かけたサラは、事情を説明しろと迫る。結果、ナイルズはこの11月9日を数えきれないほど繰り返ししておりタイムループの輪に囚われていること、さらに赤い光の空間に吸い込まれたサラも、同じくタイムループに囚われてしまったことを告げられる。そして、あの”謎の襲撃者”も同じく結婚式の参加者であり、ナイルズと飲み明かしたあげくにタイムループに囚われてしまったロイという男であり、ナイルズを恨んでいることが解る。それからタイムループを抜け出すために、遠くに逃げたり自殺したりと試行錯誤するサラだったが、ナイルズは諦めムードで「無駄だ」と諭すばかり。それは彼が実際に相当な種類の方法を試した結果だった。

 

そのうちサラは、この繰り返される「11月9日」をナイルズと楽しむことに考えをシフトさせていく。また今までは孤独にタイムループしていたナイルズも、サラの存在がだんだんと大きくなっていき、ある夜に二人はついにセックスをする。そして翌日、また11月9日の朝に戻るが、なんといつも目が覚めるサラの部屋には妹タラの新郎がいたことが解る。二人は不倫関係にあったのだ。激しく自己嫌悪するサラ。さらにふとしたナイルズとの口論から、あの夜のセックスは”ナイルズにとっては”初めてではなく、過去のループで何度も行われていたことを知る。そして、サラはこのタイムループから抜け出すことを決意し、翌朝から忽然とナイルズの前から姿を消してしまう。

 

ここからネタバレになるが、ナイルズは何回目覚めても姿を見せないサラを探しまわるが、どうしても見つからず消沈する。そして、自分にとってサラがどれだけ大事な存在であることを改めて知り、やりきれない気持ちのままロイの自宅を訪れる。そこでは、タイムループすることを受け入れて、この”繰り返される一日”を愛する家族と共に永遠に過ごすことを決めたロイの姿があった。そして、もうナイルズへの復讐は止めたことを聞かされる。一方視点が変わり、あの日から猛然と「量子力学」や「相対性理論」の勉強を始めたサラの姿が描かれる。勉強する時間は無限にあるのである。そして彼女はついに、このタイムループから脱出する方法を見つけ出し、再びナイルズの前に現れる。

 

歓喜するナイルズにサラは、このタイムループから脱出するには洞窟に入ってループが始まる前に、C4爆弾により自分たちを爆破させるしかないと告げる。だが、その先はどうなっているかわからない事、そのまま死んでしまうかもしれない事を聞き、ナイルズはこのままループの輪の中にいようとサラを説得する。だが、サラはそんなナイルズに別れを告げて部屋を出ていく。悩むナイルズだったが、やはり洞窟までサラを追いかけていき改めて二人はキスをして気持ちを確かめ合う。そして、洞窟の奥で爆弾を起爆させる。場面が変わり、二人はいつものプールにいる。だが、このプールの本当の持ち主が現れることで、翌日「11月10日」が始まったことが解る。そして、まだ「11月9日」のループの中にいるロイは、パーティであるナイルズがいつものナイルズではないことから彼がタイムループを抜け出せたことを知り、祝杯を挙げるところで映画は終わる。

 

この90分という短い上映時間の中で、しっかりと深いメッセ―ジが潜んでいる作品だと思う。平凡な毎日を繰り返すだけという、ある意味で「無意味」な時間の中で、本当に価値のあるものとはなんなのか?という問いかけだ。もちろん、答えは千差万別だと思う。ナイルズが思う「一日の繰り返しでも、愛する人と永遠に一緒にいたい」という考えも、十分に理解できるからだ。だが、それでは「この先の関係」に行く着くことは永遠にない。子供を作り家庭を持ち、一緒に歳をとっていくことは出来ないのだ。このタイムループを突破できたのは、サラによる毎日の絶え間ない勉強という努力だったことは、この作品においての大きな特徴だった気がする。結局、現状を変えるのは自分にしか出来ないのだ。

 

 

何度か登場するナイルズが足を抱えてプールに飛び込む水中シーンは、ダスティン・ホフマン主演、マイク・ニコルズ監督の68年「卒業」へのオマージュであり、”胎内回帰”の意味合いだろう。母親の羊水のように守られた環境の中で、生命の危険もお金のストレスもなく生きているナイルズの心情を表現したシーンだと思う。一方でサラは、結婚する妹の旦那と関係を持ち、自分の人生に葛藤を抱いている。その中でタイムループに巻き込まれ、ナイルズと出会い、自分の人生を先に進めるために行動を起こす。そして遂には、愛するパートナーであるナイルズ自身も変えていくのだ。SF的な要素は強いが、物語の根幹は非常にロマンティックな「ラブロマンス」だと思う。

 

もちろん、タイムループものに付き物の不可解は部分はある。特にナイルズかサラのどちらかが事故で死ぬなどして一方が残された状態で、また同じタイミングの朝を迎えるシーンはやや混乱した。劇中では11月9日の朝という明確なスタートラインが作れるのだが、実際は二人のタイムラインは別々に動いているはずで、このあたりの理屈は良く解らない。記憶を残したままループしていくという設定でありつつも、11月10日のラストシーンでは身体的には歳をとらずそのままループ脱出できたというのも、なかなかのご都合主義だと思うが、この辺りにツッコむようなタイプの映画ではないという事なのだろう。途中で登場する「恐竜」のシーンも、時空が歪んでいるということの表現かもしれないが、あまりにそこだけが場面として浮き上がっており、やや混乱させられた。

 

自分にとって誰か大切な人と出会うことで、ループしている無意味な日常がブレイクスルーするという作品だけに、このコロナ禍で鑑賞する意味合いは大きいと思う。アメリカの「Hulu」視聴数ではオープニング記録を樹立したとか、サンダンス映画祭でも史上最高額での落札など何かと景気の良い作品だが、基本的には非常に良くできた佳作といった映画だろう。やや下ネタは多いが、カリフォルニアの太陽の下、画面全体の明るい色味と相まってリゾート気分にも浸れるという意味でも、大人のデート鑑賞にオススメだ。ハッピーエンドだし、観終わったあとに会話が弾むタイプの映画だと思う

 

 

採点:7.0点(10点満点)