「ジャングル・クルーズ」を観た。
「ロスト・バケーション」「トレイン・ミッション」のジャウム・コレット=セラ監督がメガホンを取り、ディズニーランドでもおなじみのアトラクション「ジャングルクルーズ」をモチーフに映画化した、アクションアドベンチャー。主演は「ワイルド・スピード」や「ジュマンジ」シリーズのドウェイン・ジョンソンと、「クワイエット・プレイス」や「ボーダーライン」のエミリー・ブラント。他の出演者として「アイリッシュマン」のジェシー・プレモンスやポール・ジアマッティらが脇を固めている。これぞ”ディズニー映画”という要素が満載の一作だった。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:ジャウム・コレット=セラ
出演:ドウェイン・ジョンソン、エミリー・ブラント、エドガー・ラミレス
日本公開:2021年
あらすじ
アマゾンのジャングルの奥深くに「“奇跡の花”を手にした者は永遠の命を手にする」という不老不死の伝説があった。行動力と研究心を兼ね備えた植物博士のリリーは、この秘密の花を求めて危険に満ちたアマゾンへ旅立つ。リリーが旅の相棒に選んだのは、現地を知り尽くしたクルーズツアーの船長フランク。ジャングルに生息する珍しい動物やスリルあふれる先住民の村、滝の裏側など名所の数々を観光客相手にガイドしているフランクだったが、実は彼にも奇跡の花を求める”ある理由”があった。「伝説に近づく者は呪われる」と言われる、アマゾン奥地の「クリスタルの涙」を目指してジャングルを進むリリーたち。そこで彼らは奇跡の花をめぐる争奪戦に巻き込まれるのだった。
パンフレット
販売無し。
感想&解説
この映画の予告もかなり前から公開されていて、もともとは2019年公開予定だったので、コロナによって公開が相当遅れた作品だ。どうやら劇場公開から一日遅れて、動画配信サービスの「Disney+」でも配信しているそうだが、この映画に関してはやはり劇場のスクリーンで観ないと魅力が半減してしまうだろう。非常に懐かしい、これぞ「夏のブロックバスター大作」という作品に仕上がっていて、タイトルから想像する「子供向け映画」の印象のななめ上を行く完成度だった。上映時間は127分とやや長めだが、それでも退屈するシーンは少なく最後まで駆け抜けるイメージだ。
映画の印象としては、正直「インディ・ジョーンズ」+「パイレーツ・オブ・カリビアン」だ。特に前半のロンドンでのアクションシーンは、音楽やアクションの作り方からも完璧に「インディ・ジョーンズ」を意識した演出になっており、音楽担当のジェームズ・ニュートン・ハワードは、本作で巨匠ジョン・ウィリアムズにオマージュを捧げているのではと思ってしまう。エミリー・ブラント演じる植物博士のリリーが、ドウェイン・ジョンソン演じるフランク船長とアマゾンの奥地に旅に出るまでの前半は、「女性版インディ・ジョーンズ」として相当に楽しめるシーンが満載だ。「パイレーツ・オブ・カリビアン」の要素は、蛇のモンスターとして登場するアギーレたちの造形で、ビル・ナイが演じていたタコ船長こと「デイヴィ・ジョーンズ」を彷彿とさせるが、これが良い意味で気持ち悪くてビジュアルとしてインパクトがある。
ストーリーとしては、第一次世界大戦中の1916年、ジャングルの奥深くに咲く「奇跡の花」を手に入れる為、植物博士リリーとその弟であるマクレガーがアマゾンへ旅立つが、現地を知り尽くした船乗りが必要という事で船長フランクを雇い冒険の旅に出る。だが、同じく「奇跡の花」を手に入れて世界を支配しようとたくらむ、ドイツ帝国のヨアヒム王子の潜水艦が彼らの後を追っており、攻防戦を繰り広げる。さらに400年前にかけられた“不死”の呪いにより、河から離れられないままモンスターとなって生き続けるアギーレ率いる探検隊も「奇跡の花」を狙っており、彼らの三つ巴の争奪戦を描く物語だ。ここからネタバレになるが、船長フランクも実はアギーレと同じく、瀕死の傷を負った際に先住民によって飲まされた「奇跡の花」により、不老不死になった400年前の人間で、血も流れず死なない身体であるという設定は、意表をついていて面白かったと思う。
終盤のシーンで自己献身により石になったフランクを、リリーが「奇跡の花」によって復活させるシーンがあるが、リリーはフランクの唇に”花びら”を触れさせる。あれは「白雪姫」における”王子様のキス”だろう。あの行為によってフランクは生き返り、頭から血が流れていることに気付くシーンがあるが、あの場面により「血を流す=生きることを取り戻した」ことを意味している。だからこそ終盤まで「呪いを解いて、もう消えたい」と散々言っていたフランクが、もう一度自分の人生を取り戻し、リリーと一緒にロンドンで楽しそうに車を運転するラストシーンに繋がるのである。男女を入れ替えて”王子様のキス”によってリザレクション(復活)させるという、ここは非常にディズニー作品らしい場面だったと言える。
この従来における男女の役割を入れ替えたシーンに代表されるように、本作はこれでもかと「ポリコレ」の観点が盛り込まれている。冒頭でのリリーが作成した原稿を弟マクレガーがただ読むだけのシーンは、当時は能力がある女性でも男たちの前で何かを意見できる環境になかったという表現だろうし、リリーが終始ズボンを履いていることに「なぜスカートを履かない?」と聞かれるシーンや、マクレガーがLGBTQでありそれを姉だけが理解してくれたと語るシーン、ジャングルで捕獲された猿や鳥を逃がす動物愛護のシーン、アマゾン先住民の非暴力性の描き方など、やり過ぎな位である。これらのシーンを通して、前時代的な考え方の違和感を描いているのだろうが、これらの設定やセリフの大部分があまりに唐突すぎるのと、上手くこの設定が回収されないので、ただシーンとして入れただけに見えてしまうのは勿体ない。正直もう少し上手くストーリーと絡められると良かったと思う。
また主演のドウェイン・ジョンソンとエミリー・ブラントにも触れたいが、二人とも本当にハマリ役だった。特にどんなにジャングルで長時間過ごしてもひどい目にあっても、決してリップが落ちないエミリー・ブラント演じるリリーは、どうしても「オール・ユー・ニード・イズ・キル」や「ボーダーライン」、「クワイエット・プレイス」のイメージが強くほとんどノーメイクの顔しか浮かばなかったが、本作ではまさに往年の大女優の風格で大変美しい。またドウェイン・ジョンソンは、安定の演技で所々笑わせてくれるし、あの肉体美はアクションスターとして説得力がある。また悪役であるヨアヒムを演じたジェシー・プレモンスは、まるでフィリップ・シーモア・ホフマンが乗り移ったような存在感だった。
全体的には娯楽大作として、アクションありロマンスありコメディありで満足度は高いと思う。最初は粗野で粗暴な男と都会から来た女が、冒険を通じて恋に落ちるという展開は、1984年のロン・ハワード監督「ロマンシング・ストーン 秘宝の谷」を思い出したが、終盤での水中での「息継ぎキスシーン」などは意外とコメディさとロマンチックさが同居したシーンで、特に印象に残った。監督のジャウム・コレット=セラは、2009年「エスター」からほとんどの作品を観ている監督だが、こういうディズニー印の大作が撮れるのは意外で、今後の活躍にも期待大だ。おそらく本作がヒットすれば、続編も想定しているのではないだろうか。とにかくファミリー向けのハリウッド大作としては、満足度の高い一本だと思う。暑い夏に感染対策のしっかりできた涼しい映画館で、こういうエンターテイメント映画が観れるのは幸せな体験だった。
7.5点(10点満点)