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映画「MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」ネタバレ考察&解説 お見事な脚本!劇中のセリフにもある、あのアメリカ映画との共通点を解説!

「マンデイズ/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」を観た。

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「14歳の栞」で長編デビューした、竹林亮監督の劇場映画第二作目。なぜかタイムループに陥った小さな広告代理店の社員たちが、そのループからの脱出を目指して奮闘する姿を描いたヒューマンコメディ。出演は「灯せ」の円井わん、「ピンクとグレー」のマキタスポーツ、「無頼」の長村航希、「恋人たち」の池田良など。製作企画は「CHOCOLATE Inc.」、配給は「PARCO」という事で、おそらく大きな予算規模ではないインディーズ体制での公開だと思うが、アイデア次第でこれだけ面白い映画が作れるという見本のような作品だと思う。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:竹林亮
出演:円井わん、マキタスポーツ、長村航希、三河悠冴、池田良
日本公開:2022年

 

あらすじ

小さな広告代理店に勤める吉川朱海は、憧れの人がいる大手広告代理店への転職を目指しながらも、仕事に追われる多忙な日々を過ごしていた。ある月曜日の朝。彼女は後輩2人組から、自分たちが同じ1週間を何度も繰り返していることを知らされる。他の社員たちも次々とタイムループに気づいていくが、脱出の鍵を握る永久部長だけが、いつまで経っても気づいてくれない。どうにかタイムループから抜け出すべく、部長相手に悪戦苦闘する社員たちはあるプレゼンテーションを行う。

 

 

感想&解説

10月14日から東京・名古屋・大阪では先行上映されている事と、レビューで非常に評価の高い作品だったので早速鑑賞。(ちなみに全国では28日から順次公開らしい)サブタイトルに”タイムループ”というワードがあるが、最近「カラダ探し」というタイムループホラー映画を観たばかりということもあり、正直やや食傷気味だったが、結論、本作は素晴らしい作品だった。これは”タイムループ”という題材を安易に面白さの主軸にしておらず、しっかりとキャラクターと脚本が練り込まれているからだろう。仕事や働くことをテーマにした、新たな”お仕事映画”の傑作だと思う。また日本の広告代理店を舞台にしており、主人公が新商品の企画提案書の作成に奮闘しているのだが、個人的に働いている環境が近いこともあり、観ていて共感度が非常に高かったことも大きい。企画職や映像制作者、デザイナー&ライターなどの方は「あるある」と思える場面がいっぱいなのではないだろうか。では、だからといってそれ以外の業種の方が楽しめないかといえば、決してそんな事はない。会社やお店など”チーム”で仕事をしている人たちにとって、多くの大事なことが描かれた作品だと思う。

主人公は小さな広告代理店で働く、円井わん演じる「吉川朱海」。彼女は憧れのクリエイターが所属する大手広告代理店へ転職することを夢見ていて、その大手代理店からの仕事を受けている最中だ。要するに相手に自分の実力を見せようと必死なのである。だが急な追加依頼や変更で、精神的にも時間的にも余裕がなく、彼氏からの連絡も後回しにして何度も約束を破ってしまう始末。そんな彼女を含む社員たちは会社に泊まり込みなら、一週間を休みなく働き続けていた。だがそんなある月曜日の朝、後輩の社員2人組から「僕たち、同じ一週間を繰り返しています!」と告げられる。最初は相手にしていなかった朱海だが、窓ガラスに激突する”白い鳩”を合図として、このタイムループを事実として認識していく。そしてその原因が、永久部長の腕に巻かれた呪いの石を使ったブレスレットであり、それを部長自身が壊すことによりループを抜けられると信じる一同。さらに部長にそのことを信じさせるためには、朱海が直訴しても信じてもらえない為、一番下っ端からだんだんとリーダー社員に向かって、”上申していく”必要を後輩社員から説得される。そこで朱海は、まずはアイドル好きの先輩社員を懐柔し、例の「白い鳩」の合図を使ってタイムループの事実を信じさせることになるのだ。

 

ここから先輩社員に対して一人ずつ、自分たちがタイムループの中に閉じ込められている事を説き伏せていくのだが、やはり爆笑なのは本命の部長にプレゼンするシーンだろう。映画鑑賞した人のほとんどが印象に残る場面だと思うし、予告編にも使われているシーンなのだが、ここは劇場でも爆笑が起こっていた。その後のブレスレットを破壊した後のスモーローションも滑稽で面白いし、基本的にこの作品の中のコメディシーンはスベッている場面がない。これは各シーンの演出と”編集の間”が的確なのと、役者陣が素晴らしい演技だからだと思う。特に永久部長を演じたマキタスポーツは、本作のMVPだろう。さすがに「会社にマンガ雑誌持ってくる部長なんているかなぁ?」という観客側の疑問にも、キッチリと伏線として繋げてくる脚本も上手い。また「ずっとループしてリセットされてしまうのなら、仕事などする必要などないのでは?」という素朴な疑問にも、「いつループが途切れるか分からないから」という理由が付いており、これも非常に説得力がある。常に締め切りに追われている彼女たちは、もし納期に間に合わないタイミングでループが途切れてしまったら、会社として一大事だからだ。そして何度もループすることで、彼らの仕事のスキルが上がっていくという描写も素直にワクワクさせられるし、お仕事映画だからこそのチームワークの大切さや素直に謝罪する事の重要さも描かれていて、鑑賞中にとても爽やかな気持ちになる。

 

だが本作は更なるストーリーの捻りを加えており、最後まで観客を飽きさせない。ここからネタバレになるが、部長のブレスレットを壊してもループが終わらないことが発覚し、なんと「漫画家になる」という果たせなかった部長の夢を叶えることが、後半の目的となるのである。実は夢を果たせずに悔いを残こす人生を送ってきた彼の無念が、このタイムループを生んでいたという訳だ。一聴すると荒唐無稽すぎて理解できない設定だと思うが、なぜか映画を観ていると疑問もなく、この無茶な展開がすんなりと飲み込める。これは観客であるこちら側が、登場人物の全員を好きになってしまっている為に、この物語を最後まで見届けたいという気持ちが強くなっているからだろう。そしてこの後半戦になると、実はもうあまりタイムループという設定自体は重要ではなくなる。”部長の漫画を完成させる”という、一つの目標に向かって力を合わせるメンバーが、完成した漫画を編集部に持ち込ませるために再び部長を説得するという展開になるのだ。さらに最後まで描かれていない漫画のオチを、部長はどう描くのか??など、ラストまでストーリーの推進力はまったく落ちないのは見事だ。

 

 

この漫画内で描かれている”バンドマン”は、プロになるという夢を叶えられずに”狐”の力によって何度も人生をループする。これはもちろん劇中の主人公たちと同じ設定だ。いわば劇中内での”二重構造”になっており、この漫画の決着をどう付けるか?で、朱海や部長たちのループの行方もリンクしてくることが想像できる。そこで漫画の主人公であるバンドマンは音楽では成功しなかったが、ある女性と結婚して幸せな人生を送ることで、ループすることを選ばず、そのまま静かな余生を送ることを選択する。そしてこのオチを描いた部長自身も、漫画を完成させて編集部に投稿することによって、見事彼らのタイムループは終わるのである。決して連載が決まるわけでもなく、漫画で新たな人生が拓けるわけでもないが、”メンバーと共に漫画を描き終えた”ということ自体が、部長の長年の未練を断ち切ったということだろう。そしてこれは、大手広告代理店に転職を考えていた朱海が、今の会社に残り続ける判断をしたことにもリンクしてくる。自分のことだけを考え、周りの人間を犠牲にしてまで夢を叶えることは、人生の幸せじゃないと優しく教えてくれるのである。

 

映画マニアの後輩社員が、先輩社員にタイムループしていることを説明したあと、「ハッピー・デス・デイやオール・ニード・イズ・キルみたいに?」にと言われた言葉に対して、「そこは”恋はデジャ・ブ”でしょ」と呟くシーンがあるが、この映画はまさにその通りの作品になっている。この何気ないセリフから、本作がどういう作品を目指してるかがハッキリと伝わるのだ。「恋はデジャ・ブ」とは、1993年に日本公開されたハロルド・ライミス監督/ビル・マーレイ主演のロマンティック・コメディだが、序盤は自己中心的なビル・マーレイがタイムループを繰り返すことで段々と成長し、最後は他人を思いやり利他的な行動を取れるような人間になるという作品だ。そして遂にはタイムループを抜けて、最愛の相手と結ばれるというストーリーなのだが、非常に本作との共通点は多いと思う。一見「MONDAYS」は、部長の夢を叶えたことによりタイムループを脱出できたようだが、実は主人公の朱海を中心としたチーム全体が、人間として成長したことがきっかけで、ループから抜け出せる物語だからだ。このループとは、もしかすると”閉塞的な毎日”と置き換えても良いかもしれない。人が本当に幸せを感じるのは他の人の役に立った時だし、閉塞的なルーチンだった毎日を突き破るのは、自らの成長によって達成できるという事なのだろう。先輩社員たちは、年配の女性社員も含めてお互いを許し合い、結束を固める。部長はミスをした部下を守り、自らの行動によって朱海の転職を積極的に阻止する。そして、朱海は自分の人生において大事なことに気付くのである。

 

82分という短い上映時間でありながらも、この映画が描いていることの奥行きには驚かされる。タイムリープ自体の細かいルール設定を描く作品ではないことは「恋はデジャ・ブ」と同じで、ほとんど細かい矛盾や設定の甘さは気にならない。これは本作が最終的に目指しているのが、ループそのものの構造から生まれるSF的な面白さではなく、結局描きたい対象が”人間ドラマ”だからだろう。前半ではタイムリープ設定から生まれる笑いを、ある意味ベタに描いているのだが、後半はスパッとジャンルを切り替えてくる構成も見事だと思う。非常に限定的なシチュエーションだけで展開される地味な作品だが、鑑賞後の満足度は高く、素直に「面白かった」と劇場を後にできる作品だ。映像的な革新があるとか、過去の誰も発想できなかった画期的なアイデアで構成された作品ではないが、堅実に観客を楽しませたいという作り手の真摯な姿勢が感じられる、個人的には大好きな映画となった。竹林亮監督の次回作も楽しみである。

 

 

9.0点(10点満点)