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映画「ハロウィン THE END(エンド)」ネタバレ考察&解説 ”マイケル”の大事な要素とシリーズのコンセプトを完全に無くしてしまった、残念な完結編!

「ハロウィン THE END(エンド)」を観た。

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デヴィッド・ゴードン・グリーン監督が手掛けた、リブート版2018年公開「ハロウィン」、2021年公開「ハロウィン KILLS」に続く三部作の最終章「ハロウィン THE END」が遂に公開となった。ジョン・カーペンターが生み出した、1979年日本公開のオリジナル「ハロウィン」から40年後を描いたリブートシリーズも本作で幕を閉じることになり、通算ではシリーズ第13作目にあたる。デビッド・ゴードン・グリーンは過去作と同じく監督/脚本を担当し、ジョン・カーペンターも製作総指揮で携わっている。出演はシリーズの顔でありながら、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」で、第95回アカデミー賞助演女優賞を受賞したジェイミー・リー・カーティス、同じく本シリーズで孫娘アリソン役を演じているアンディ・マティチャック、本作ではコーリーという印象的な役を演じていたローハン・キャンベル、ホーキンス保安官役のウィル・パットンなど。前作「KILLS」はやや厳しい評価だったが、完結編の本作はどうだったか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:デビッド・ゴードン・グリーン

出演:ジェイミー・リー・カーティス、アンディ・マティチャック、ローハン・キャンベル、ウィル・パットン、ジェームズ・ジュード・コートニー

日本公開:2023年

 

あらすじ

殺人鬼ブギーマンことマイケル・マイヤーズが再びハドンフィールドを恐怖に陥れた事件から4年、街は少しずつ平穏な日常を取り戻しつつあった。マイケルの凶刃から生き延びたローリー・ストロードは孫娘のアリソンと暮らしながら回顧録を執筆し、40年以上にわたりマイケルに囚われ続けた人生を解放しようとしていた。しかし、暗い過去を抱えた青年コーリーが、こつ然と姿を消していたマイケルと遭遇したことから、新たな恐怖の連鎖が始まる。ローリーは長年の因縁に決着をつけるため、マイケルとの最後の対峙を決意する。

 

 

感想&解説

リブート版2018年公開「ハロウィン」は、手堅い演出とインパクトのある画作りの数々で、非常に出来の良いスラッシャーホラーとして、見事にジョン・カーペンター監督のオリジナルを蘇らせていた良作であったと思う。40年ぶりの続編という特殊な設定を活かしながら、当時女子大生だった主役ローリーが老いながらも、マイケルとの戦いに備えているという設定も魅力的だったし、その娘カレン&孫娘アリソンというストロード家族の活躍には、非常にワクワクさせられたものだ。それはブルーレイで何度再見しても印象は変わらず、この新シリーズに対して大きな期待を持ったのを覚えている。そしてその続編である、2021年公開「ハロウィン KILLS」は前作が良すぎたこともあり、カタルシスの薄いややトーンダウンした作品になってはいたが、それでもマイケルへの恐怖によってハドンフィールドという街全体が暴徒化する展開や、勢いを増したゴアシーンの数々、そして娘カレンの死という衝撃展開もあり、三作目が期待できるくらいには面白い作品だったし、特に二回目の鑑賞が面白いタイプの映画だった。

特に二作目は、「マイケルの純粋な邪悪さ」が際立っており、彼は”哲学的な悪の化身”という描かれ方をしていたのが良かったと思う。ハドンフィールドの住民たちにとってマイケルは、自分たちの中にある恐怖や悪意の具現化なのだ。だからこそ、「KILLS」のラストで、彼は直接的な暴力では倒せない存在だと描かれていた。なにせ何十人もの住民に銃で撃たれてもナイフで刺されても、マイケルは死なない存在なのである。そんな悪魔を相手に、この三作目ではローリーはどのように決着をつけるのだろうと、かなり強い興味で鑑賞した次第だ。また1982年の「ハロウィン2(邦題『ブギーマン』)」で描かれた、”マイケルとローリーが兄妹である”という設定も、活かされるのか?など、シリーズ完結編ならではの展開を期待したのである。


そして、いよいよこの「ハロウィン THE END」なのだが、この作品のせいでシリーズ全体を貫くコンセプトが完全にブレてしまった、罪深い一作になってしまっていたと思う。そのコンセプトとは、”一体マイケルという存在とは何なのか?”という観客への問いかけだ。映画全体を通して本作では、子守をしていた少年を事故で殺してしまった、青年コーリー・カニンガムという新キャラクターが大きくフィーチャーされる。特に中盤までほとんどマイケルは登場せず、このコーリーとローリーの孫娘アリソンの恋愛劇が描写されるのだがこのあたりは、今までのシリーズとは違うことをしようという作り手の姿勢が感じられて、悪くない。ただホラー映画としてはまったく怖くないし、マイケルも登場しないのでこの時点で、コアなシリーズのファンにとっては「これじゃない感」が強いだろう。ここからネタバレになるが、このコーリーがハドンフィールドの住人からサイコパスだと罵られ、マイケルと出会うことによって殺人鬼として覚醒していくという流れになるのだが、この時点でもまだ面白くなるだろうと高を括っていたのである。

 

 


それは、このスクリーンに映っているマイケルは、あくまでコリーの”悪意の象徴”だと思っていたからだ。マイケルとコリーはなぜか協力しながら殺人を犯していくのだが、実はここに描写されているマイケルは、きっとコリーの脳内に映っている架空の存在なのだろうと思っていたのだ。今作は前作から4年が経過しているという設定の上に、「Kills」のラストであれだけの傷を負いながら、病院も行かずに地下通路で生き延びられるはずはないだろうし、一般人への悪意の伝播という意味で、これなら前作からのテーマも継承されている。コリーが地下通路にいるマイケルに襲い掛かり、いとも簡単にマスクを奪うシーンがあるのだが、この場面もコリーの悪意が強まったため、遂にマスクを継承したのだと勝手に思い込んでいた。なにせコリーは元々、高校生にも負けるほどの弱い存在だったのだ。そんな彼にあのマイケルが負けるはずがなく、だからこそコリーの都合の良い幻想だと思っていたわけである。


ところがなんとラストで、このマイケルは実在したのだと描かれる。本当に4年間もの間、地下通路に身を隠し、首と手首を切ってミンチにすれば殺せる、”ただの人間”なのだとローリーもセリフで言ってしまうのだ。これには心底驚かされた。それでは前作の描写は何だったのだろうか?マイケルとは、このハドンフィールドの住民の心に住む悪魔だったのではないのか。だからこそ、単純な暴力では殺せない存在だと描いたのではないのか。急にマイケルという、40年以上も映画界に君臨するカリスマ的な殺人鬼の存在が、あまりに小さな対象になってしまった。結局、この「ハロウィン THE END」によって、彼の存在自体が不明瞭で矮小化されたものになってしまったのである。ラストのローリーとのドタバタアクションもまったくスリルがない上に、力でローリーに磔にされてしまう始末だし、登場シーンの少なさも含めて、本作でのマイケルの存在は小さ過ぎる。こんな弱小化したマイケルは観たくなかったというのが偽らざる本音だ。


またこのコリーという男も地味なウィレム・デフォーのようなルックスで、本当に魅力がない。アリソンと恋に落ちる過程もおざなりで、街の人たちから疎んじられるコリーに親近感を抱いたという事なのだろうが、コリーが「人を殺した」と伝えても、まったくアリソンは動じない場面も謎で、本気でこの二人が殺人鬼に変貌し、カップルで次なるマイケルになっていくというストーリーだと思ってしまったくらいだ。そしてローリーに追い詰められると自殺し、アリソンとローリーの仲を決定的に壊すための存在だったのかと思ったのも束の間、実際はアリソンはすぐマイケルと戦っているローリーを助けに戻る始末で、このキャラクターは一体何だったんだと思ってしまう。冒頭からやたらと登場するDJの存在も、ただ舌を切られて殺されるだけの存在だったし(ただし、この殺害シーン自体は面白かったが)、登場キャラクターたちのインパクトの弱さも看過できない酷さだ。


尻すぼみで出来が悪くなっていった本シリーズは、遂にこの「THE END」によって、完全にハロウィンシリーズ全体に終止符を打ってしまったと思う。2018年「ハロウィン」のストイックなローリーの姿も本作では微塵もなくジェイミー・リー・カーティスの身体もかなり体重増で弛緩しており、とてもマイケルと戦える状態ではなかったが、それ以上にマイケルが弱体化していたという、あまりに残念なオチの完結編であった本作。一旦、ローリーとマイケルの闘いはこれで打ち止めだと思うが、とにかくマイケルの存在感の薄さと弱体化には、熱心なファンであればあるほど怒り心頭だろう。デビッド・ゴードン・グリーン監督の次回作は、「エクソシスト」のリブートらしいが、本作の出来を見ていきなり不安が大きくなってしまった。ホラー映画としても微妙な上に、「ハロウィン」ファンへのサービスにもなっていないという、非常に残念な一作だったと思う。

 

 

3.0点(10点満点)