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映画「M3GAN ミーガン」ネタバレ考察&解説 母として成長する開発者”ジェマ”のキャラクター設定は面白いが、全体的にはあまりに薄味のホラー映画!

「M3GAN ミーガン」を観た。

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「ブラムハウス・プロダクションズ」のジェイソン・ブラムと、「ソウ」ワイルド・スピード」シリーズの監督であり、クリエイターであるジェームズ・ワンが製作を手掛け、「マリグナント 狂暴な悪夢」のアケラ・クーパーが脚本を担当したスリラー・ホラー。監督は過去に「ハウス・バウンド」というホラーを撮っている、ジェラルド・ジョンストン。出演は「ゲット・アウト」のアリソン・ウィリアムズ、「ブラック・ウィドウ」のバイオレット・マッグロウ、「シャン・チー テン・リングスの伝説」のロニー・チェン、「スイート・トゥース:鹿の角を持つ少年」のエイミー・ドナルドなど。日本では当初2023年1月公開だったのが6月まで公開延期になっており、待ち焦がれたホラーファンも多かったはずの今作。感想としてはどうだったか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ジェラルド・ジョンストン
出演:アリソン・ウィリアムズ、バイオレット・マッグロウ、ロニー・チェン、エイミー・ドナルド
日本公開:2023年

 

あらすじ

おもちゃ会社の研究者ジェマは、まるで人間のようなAI人形「M3GAN(ミーガン)」を開発している。ミーガンは子どもにとっては最高の友だち、そして親にとっては最大の協力者となるようプログラムされていた。交通事故で両親を亡くした姪ケイディを引き取ることになったジェマは、あらゆる出来事からケイディを守るようミーガンに指示する。しかし、ミーガンの行き過ぎた愛情は思わぬ事態を招いてしまう。

 

 

感想&解説

ジェイソン・ブラムジェームズ・ワンが製作を手掛けた新作ホラーと聞いて、かなり楽しみにしていた本作。しかもジェームズ・ワン監督が手掛けた、傑作ホラー「マリグナント 狂暴な悪夢」を担当したアケラ・クーパーが脚本を担当しているということで、スタッフ的にはかなり充実した布陣だろう。ただ監督のジェラルド・ジョンストンは、過去作を観た事がなく実力は未知数だったが、海外の評論家の間でもかなり高評価らしい。いわゆる人形が襲い掛かってくるというプロットでは、1988年から始まる「チャイルドプレイ」シリーズの「チャッキー」が圧倒的に有名だと思うが、2019年にリメイクされたラース・クレヴバーグ監督の「チャイルドプレイ」では、”ハイテク機能を搭載したAI人形”が、主人公アンディにとって親友であり続けるために、疎ましい存在をどんどんと殺していくという展開で、ほとんど本作の原型だと言えると思う。

特に本作ではこのミーガンを開発した主人公である、”ジェマ”という女性の設定が面白い。ここからネタバレになるが、スキー旅行の事故で両親を亡くした姪っ子ケイディを引き取り、育てていくことになるのが序盤の展開なのだが、このジェマはやや”変わった人物”であると描かれるのだ。部屋に招き入れたケイディが「遊びたい」と手に取ったオモチャに対して、これは”展示用”なのだと拒否したり、ケイディが水の入ったグラスをコースターに置かなかったら、それをその場で置きなおしたり、隣に住む犬の飼い主を本気で罵倒したりする。彼女は神経質なオタク気質なのである。同僚から仕事よりも、今は姪っ子との時間を大切にすべきだと指摘されても彼女は仕事を優先してしまうことから、ジェマは今までの自分の生き方やルールを変えられない人物だと描かれる。彼女は自分の姉夫婦が亡くなったと知った時は、ほとんど泣いたり取り乱したりしないのに、メンタルヘルスの職員が来た場面で、自分のおもちゃコレクションを箱から出すときの態度などは、完全に逆ギレしていてまるで子供のようだ。

 

この私生活では子供のようなジェマが、本作で殺人鬼となるミーガンというAIロボットの開発者なのだが、彼女は仕事上でも上司の言う事を聞かず、地下にこもって自分の開発を優先させていたりと、ロボット開発という才能がなければ、ほとんど社会不適合者のような存在だと描かれる。今までは男性キャラクターが演じていたような役柄を、本作では女性キャラが担っているのが面白い。そしてこの子供のような大人であるジェマが突然、ケイディという子供を育てることになり、自分が作り出したミーガンと”母親”の座を巡って争うという点が、本作が他の映画ともっとも違うポイントだろう。この映画は、子供が冒険を通して成長する話ではなく、まるで子どものような大人が母親として成長するストーリーになっているのだ。

 

 

このミーガンというロボットは、人を依存させる存在だ。対象者にとって、もっとも耳馴染みのよい言葉を語り、悲しみに寄り添いながら親身に尽くしてくれる。ケイディが亡くなった母親の想い出が消えていきそうだと言えば、ケイディが語った母とのエピソードをこっそり録音して聞かせたりする。彼女はユーザーにとって、一番の親友であり母親なのだ。そしてそのロボットに依存することの危険性を本作では示唆してくる。本来の保護者である、ジェマの言う事を聞かなくなり、学校で他の子供たちと関わることを拒否するようになる。そもそもケイディが学校に行っていなかったという設定自体は、かなり無理があるし、ケイディをミーガンから隔離させた途端にヒステリックになって、ケイディがジェマを平手で殴ってしまうシーンには行き過ぎた違和感を感じたが、子供に万能すぎるロボットを与えることや、いくら子育てが楽になるからといって保護者が便利なガジェットに頼り、子供たちに向き合わないことへの警鐘を感じる作りになっているのである。

 

ミーガンの当初の目的は、シンプルにケイディを幸せにして身を守ることなのだろう。だからこそ隣の家の犬を殺し、野外学校では暴力的な男子の耳を引きちぎる。だが彼女は「死」という概念を知る事により、自分の存在を抹殺しようとする相手を片っ端から殺していく展開になのだが、このあたりから映画は急速にトーンダウンしていく。過去に山ほど観てきたAIロボットが自己生存のために人間を殺していく、単なるドタバタ劇になってしまい、劇中でも「ターミネーター」そっくりの上半身だけで襲ってくるシーンが出てきたが、既視感だらけの展開になる。さらにラストでケイディがミーガンに反撃すると、「このガキが」的なことを言いいながらケイディすら殺しにかかる展開などは、もはやミーガンがAIロボットであることの必然性が薄れてしまっている。SF作家アイザック・アシモフの「ロボット工学三原則」など、本作には関係ないのだろう。追い込まれた主人公たちがブルースという旧式ロボットで戦う展開も、いきなりケイディが一度観ただけのブルースを、見事に操作できていることへの驚きが先に立ち、ほとんどカタルシスを感じない。しかも、あれだけ自分で様々な判断をしながら学習していたミーガンは、急にジェマの周りで人々が死ぬことで警察が動き出し、最終的には自分の存在自体が危なくなることは予測できなかったのだろうか。あのまま人を殺していけば、遅かれ早かれ、ミーガンの犯罪は明らかになるだろうからだ。

 

かと思えば、いきなり車のセキュリティは外せて運転できるし、施設の防災機能を瞬時にオフできたりと、”AIがなんでも出来てしまう問題”は本作でも頻発する。AIロボットがテーマの根幹にあるにも関わらず、ミーガンは知性で事態の先を読み行動できるキャラクターではなく、コンピュータならなんでも操れるただの殺人鬼キャラと成り下がってしまうのだ。あのTiktokでバズったというダンス自体も物語的な必然はまったくなく、なぜあそこで踊り出したのか?も不明だし、ラストのスマートスピーカーが自動的に起動するシーンも、画的に地味すぎる上になんの驚きもない演出になっている。あれだけミーガンに依存していたケイディが、最後で心変わりした心の動きも分かりにくいし、なにより本作では重要なジェマが母親役として成長したことを、もっとハッキリ描くべきだろう。家に来てしまったミーガンとの戦闘で、ケイディを巻き込まないように嘘を言うシーンはあるが、その後に助けられるのはむしろジェマの方なので、安全な立場にいた自分の命を絶対絶命のケイディの為に投げ出すくらいのシーンがあっても良いと思う。子供の気持ちよりも自分の玩具コレクションを優先していたジェマが、最後には母親として成長したシーンがもっとあることで、ダメだった前半とのコントラストがハッキリし、本作のテーマが浮き彫りになるからだ。

 

それにしても、ホラー映画としては全体的に薄味すぎるのも難点だ。まったく恐怖を感じるシーンはないし、演出がどれも淡泊でドキドキしない。これはホラー映画としては致命的だろう。ジャンプスケアも中途半端で、まるで”怖くなり過ぎないよう”に作り手が配慮しているようだ。これらは監督であるジェラルド・ジョンストンの実力不足か、制作陣のマーケティングのせいなのかは分からないが、お陰でほとんど記憶に残らない作品になってしまっていると思う。オモチャ会社で上司からパワハラをされていた職員が、ミーガンのファイルをコピーしていたシーンがあったが、本作では活かされなかったため恐らく続編の構想があるのだろう。とはいえ、あれだけ危険なロボットを開発して連続殺人まで起きてしまったら、もうジェマには明るい未来はないと思うので、次回作は主人公も含めてまったく違う設定になるのかもしれない。AIロボットであるミーガンの表現は技術の向上を感じるし、テーマも現代的な設定だったのだが、一本のホラー映画としてはかなり物足りない出来だったという印象の本作。前半におけるジェマのキャラクター設定が面白かっただけに、後半の失速ぶりが残念であった。

 

 

4.5点(10点満点)