映画「エクスペンダブルズ4 ニューブラッド」を観た。
2010年の第一作目から始まり、2012年の「2」、2014年の「3ワールドミッション」と続いたシリーズの約10年ぶりの第4弾。リーダー格であるシルベスター・スタローンを筆頭に、往年のアクションスターが集結して話題を集めた人気シリーズだが、今作はジェイソン・ステイサム、ドルフ・ラングレン、ランディ・クートゥアらが続投している。今回の新規メンバーとしては、カーティス・“50セント”・ジャクソン、ミーガン・フォックス、トニー・ジャー、イコ・ウワイス、アンディ・ガルシアなど。監督は「ネイビーシールズ」「ニード・フォー・スピード」などのスコット・ ウォーが担当している。10年ぶりの新作の出来はどうだったか?今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:スコット・ ウォー
出演:シルベスター・スタローン、ジェイソン・ステイサム、ドルフ・ラングレン、ミーガン・フォックス、トニー・ジャー、アンディ・ガルシア
日本公開:2024年
あらすじ
自らを「消耗品」と名乗り、CIAから依頼される数々の難関ミッションを乗り越えてきた最強の傭兵軍団「エクスペンダブルズ」を率いるバーニー・ロスは、CIAからの新たな依頼にこたえるため、かつての相棒であるリー・クリスマスを訪ねる。バーニーと再び組むことを決意したリーがエクスペンダブルズのアジトに足を運ぶと、そこにはかつての仲間たちに加え、新たなメンバーも顔をそろえていた。新戦力を迎えたエクスペンダブルズが挑む今回のミッションは、テロリストが所有する核兵器を奪還すること。もし失敗すれば第3次世界大戦が勃発しかねないという危険なものだった。
感想&解説
今回は結論から書いてしまうが、本作は本当に酷い出来だった。こんなアホな脚本を、いい大人が寄ってたかって映画化してることが信じられない位だ。2010年公開のシリーズ1作目「エクスペンダブルズ」から全作品を劇場で鑑賞しているが、本作「4」が間違いなくブッチギリの駄作だろう。もちろんこの「エクスペンダブルズ」というシリーズ自体、脚本が素晴らしいとか「ジョン・ウィック」や「ミッション:インポッシブル」シリーズのように、アクション演出の完成度が高いという作品ではない。だがシルベスター・スタローンを中心として、アーノルド・シュワルツェネッガー、ジェット・リー、ブルース・ウィリス、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、チャック・ノリス、ハリソン・フォード、ウェズリー・スナイプス、アントニオ・ヴァンデラス、メル・ギブソンといった、アクション映画黄金時代に燦然と輝いていたスター俳優が次々と登場し、彼らが楽しそうにスクリーンで活躍するのを、映画ファンとしてはニコニコと眺めるのが楽しいシリーズだったと思う。
そして過去作では間違いなく、各出演者に対して原案者であるスタローンからの愛があった。それぞれの個性を活かした見せ場が用意してあり、印象的な場面が多々あったのだ。「1」におけるシュワルツェネッガー登場シーンのアゲッぷりや、「2」におけるジャン=クロード・ヴァン・ダムの回転蹴りやチャック・ノリスの無双ぶり、「3」のウェズリー・スナイプスの脱税ネタからハリソン・フォードのヘリ操縦シーンまで、ちょっと思い返しても微笑ましい場面ばかりだ。この往年のハリウッドアクション映画界に対してのスタローンからの感謝と愛情が、本シリーズの肝なのだと思うのだが、この「4」には過去シリーズの魅力が全て欠如していると言っていい。まずミーガン・フォックスがリーダーのエクスペンダブルズなど、一体誰が喜ぶのだろうか。彼女は「トランスフォーマー」のヒロイン役が有名だと思うが、このキャスティングは今までの趣旨とは全く違うだろう。
そして今作は、全体的にキャストが地味すぎる。もちろん「マッハ」のトニー・ジャーや「ザ・レイド」のイコ・ウワイスの登場は嬉しいが、往年のアクションスターといった印象はないし、アンディ・ガルシアに至ってはアクション映画に出演していたっけ?という感じだ。印象的なのは「アンタッチャブル」の銃撃シーンくらいだろうか。ガラン役のジェイコブ・スキピオやタトゥーだらけのラッシュ役レヴィ・トランも若手役者としては良いと思うが、エクスペンダブルズシリーズの配役としては相応しくないだろう。本作には「この俳優たちの共演が観られるのか!」という、意外性や喜びがまったく無いのである。そして本作の”消耗品軍団”は、まったく戦闘のプロだという感じがしないのも問題だ。身のこなしや銃の構え方がどうにも締まらないのである。さらに本作は敵も味方も揃いも揃ってバカばかりで、核爆弾がある船にやってきた一行は「嫌な予感がする」と言いながらも、みんな仲良く一緒に捕まった挙句、捕まった後も特に拘束はなし。一部屋の中に入れられて自由行動する始末だ。
しかも最初から最後まで本当に脚本が酷い。ここからネタバレするが、なぜか拘束された部屋ではオシッコをかけると開く排水システムの扉があったり、それを覗こうとする女性キャラがいたり、どんなに戦闘を重ねても全く化粧が崩れないミーガン・フォックスがいたりと、全体的に演出の緊張感はゼロだ。アンディ・ガルシアがいやにあっさりとテロリストと人質交渉するなと思ったら案の定、悪玉で「まぁ、そうだろうね」という感じだし、特に各キャラクターも見せ場らしい見せ場がなく、ただのジェイソン・ステイサム主演映画になっている。船の中では核爆弾の爆発まで12分しかないのに、ステイサムはミーガン・フォックスと脱出前に見つめ合ったりして、全体的にのんびりチンタラしていている上に、アンディ・ガルシアはゴムボートで逃げようとしている始末で、脚本家に「核爆弾ってなんだか知ってるか?」と問い詰めたくなる。さらにロシア圏内で核爆発させて第三次世界大戦を起こしてまで、ベテランCIAエージェントという今の立場を捨てて、アンディ・ガルシアが金儲けできる理屈も全く分からない。
さらに理解できないのが、スタローン演じるバーニーが死んだフリをする必然性だ。因縁のあったオセロットの正体を暴くため、自らの死を偽装して機密文書を表に出させたとの事だったが、この理屈も意味不明だし、あれだけ信頼していたジェイソン・ステイサム演じるクリスマスを騙してまで、この偽装をやる意味が全くわからない。「これは俺の問題だ」という最後の言い分も理解できないし、今までのシリーズで仲間を大事にして信頼する男だったバーニーというキャラクターが完全に壊れている。最後のピンチに悠然と現れて、あっさりとアンディ・ガルシアの見せ場すら奪ってしまう本作のバーニーには、観客としても怒りを覚えるし、本来騙されたクリスマスはもっと激怒して良いだろう。しかも核爆発を窓の空いたヘリで逃げ切ってしまう二人の姿に、もう一度「核爆弾ってなんだか知ってるか?」と聞きたくなるし、結局核は爆発している訳で、一体彼らは何をしにいったのだろう?と思ってしまう。まさか海中では核が無効化できると思っているのだろうか。これは本当に2024年現在に公開されている映画なのかと疑いたくなるレベルだ。
さらにもう一つ。冒頭のシーンで指相撲に負けてリングを取られたという理由だけで、相手をボコボコにするクリスマスとバーニーを観て、「これはちょっとやり過ぎだろ」と思った矢先、なんと自分の身代わりにジャンボ・シュリンプを丸焦げ死体にしたという、あまりに非道すぎるオチにも驚かされる。そもそも賭けに負けてリングを取られたのだからバーニーの自業自得だし、このオチはさすがに後味が悪すぎる。ラストシーンで笑っている二人を観ても、まったくこちらは笑えないのである。過去作でも品行方正なキャラクターではないし、B級アクション映画がコンセプトのシリーズなのだから、ポリコレに気を遣い過ぎてもどうかとは思うが、流石にこれではヒーローであるはずの彼らに全く感情移入できない。そもそも本作ではスタローンがほとんど活躍しない上に、この印象の悪さは致命的だ。
そして本作はアクション映画の映像クオリティすらも本当に酷いのだ。背景と合成している事が丸わかりで、俳優がグリーンバックの前で演技してる姿が浮かんできてしまう。これはアクション演出うんぬんの遥か手前の話で、どれだけ予算が無かったのか?と心配になる位だ。ここまで散々書いてきたことから解るように、個人的にはほとんど良いところのない映画だった気がする。さすがに「エクスペンダブルズ」というシリーズの賞味期限は、もう切れてしまったという事なのだろう。終盤で格闘でケリを付けようというアンディ・ガルシアにジェイソン・ステイサムが、「オールドスクール(古臭い)だ」というセリフを言うが、本作は古臭いというよりも”馬鹿馬鹿しい”というニュアンスが近い。本作で唯一良かったのはトニー・ジャーの格闘アクションと、一作目と同じくエンドクレジットでかかる、シン・リジィの「The Boys Are Back in Town」くらいだ。監督がインタビューで、「本作がフランチャイズにとっても最後の『エクスペンダブルズ』になる」と言っているようだが、確かにそれが正解だと思う。スタローンが脚本や原案などの制作に関わらない続編が軒並み駄作という事は、逆説的にシルベスター・スタローンというクリエイターの有能さが確認できる一本なのかもしれない。
1.5点(10点満点)