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映画「サンクスギビング」ネタバレ考察&解説 ロメロ監督の代表作や過去のホラー映画へのオマージュがたっぷり!ストーリーの矛盾も多いが楽しいスラッシャー・ホラー!

映画「サンクスギビング」を観た。

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「ホステル」「グリーン・インフェルノ」「ノック・ノック」「デス・ウィッシュ」などを手掛けてきた、イーライ・ロス監督によるスラッシャーホラー。そもそもはクエンティン・タランティーノロバート・ロドリゲスによる、映画「グラインドハウス」内に収録されたフェイク予告編「感謝祭(Thanksgiving)」の長編化を望む声に応える形で、イーライ・ロス自らが映画化したようだ。ちなみに今回タランティーノは製作に携わっていない。出演は「魔法にかけられて」「トランスフォーマー ダークサイド・ムーン」などのパトリック・デンプシー、「ヒーズ・オール・ザット」のアディソン・レイ、「ゾンビーズ」シリーズのマイロ・マンハイム、「ホステル」のリック・ホフマン、「フェイス/オフ」のジーナ・ガーションなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:イーライ・ロス
出演:パトリック・デンプシー、アディソン・レイ、マイロ・マンハイム、リック・ホフマン、ジーナ・ガーション
日本公開:2023年

 

あらすじ

感謝祭発祥の地とされるマサチューセッツ州プリマス。年に1度の祝祭に人々が沸き立つ中、ダイナーで働く女性が何者かに惨殺される事件が起こる。その後も相次いで住民たちが姿を消し、感謝祭の食卓に並ぶご馳走に模した残酷な方法で殺されていく。街中が恐怖の底に突き落とされる中、地元の高校生ジェシカたちは、ジョン・カーヴァーを名乗る謎の人物のインスタグラム投稿に自分たちがタグ付けされたことに気づく。投稿を確認すると、そこには感謝祭の豪華な食卓とともに、ジェシカたちの名札が意味深に置かれていた。

 

 

感想&解説

クエンティン・タランティーノロバート・ロドリゲスによる、2007年「グラインドハウス」内で作られたフェイク予告は、「マチェーテ」「ナチ親衛隊の狼女」「Don't/ドント」「感謝祭/サンクスギビング」の4作だったが、それぞれロバート・ロドリゲスロブ・ゾンビエドガー・ライトイーライ・ロスというセンスが良すぎる人選によって制作されており、「グラインドハウス」というコンセプトと相まって楽しい企画だったと思う。マチェーテ」は続編である「マチェーテ・キルズ」も含めてロバート・ロドリゲスによって長編化されたので、今回の「サンクスギビング」はそれに続く2作目となる。上記の予告4作品の中でも、「感謝祭/サンクスギビング」は特にゴア度と悪趣味度が高く、ファンから長らく長編映画化の要望があったらしい。その声に応える形で、約16年ぶりにイーライ・ロス監督自らの手によって制作されたのが本作という訳だ。

ただし正確に言えばあの予告編の長編化ではなく、”リメイク”と言えるだろう。あのフェイク予告はエクスプロイテーション映画の再現を目指して作られていたので、あえて荒い画質で作られていたのに対して、今作は(当たり前だが)クリアな画質になっているし、あの印象的だったトランポリンでの下からの串刺しシーン、食卓での人間丸焼きシーン、行進パレードでのマスコット斬首シーンなど、印象的な場面はすべて本作でも含まれているが、表現としてはかなりマイルドになっている。さすがにあの行き過ぎたエログロ悪趣味演出のオンパレードでは「R18+」といえども、”トライスター・ピクチャーズ”というメジャー配給会社からでは長編化が難しかったのだろう。また16年経ってあの頃とは、時代性が変わったということかもしれない。ちなみにエンドクレジットでは”スペシャルサンクス”として、タランティーノとロドリゲスに感謝を述べているのは、この「グラインドハウス」からの流れがあるからだ。

 

舞台はフェイク予告編と同じく、感謝祭発祥の地とされるマサチューセッツ州プリマス。感謝祭を迎えて町は家族団らんかと思いきや、大型スーパーマーケットではブラックフライデーのセールを目前に控え、先着100名のみの目玉商品”ワッフルメーカー”を買うため店の前に人が群がっている。しかも彼らは完全に理性を無くしており、周りの人たちや警備員に暴言を吐きながらの一触即発状態で、ほとんど暴徒と化しているという場面があるが、これはジョージ・A・ロメロ監督による1979年「ゾンビ(Dawn of the Dead)」へのオマージュシーンだろう。「ゾンビ」では中盤、ゾンビに襲われた主人公たち4人がショッピングモールに避難し、中にある商品を食べたり宝石を身に付けたりするシーンがある。さらにゾンビたちは生前の記憶を元にショッピングモールに大挙して集まってきており、この辺りの描写が”消費社会批判”とされている作品だが、「サンクスギビング」におけるワッフルメーカーを取り合う暴徒も、完全に人間性を欠いており化け物のような演出になっている。ただこれがテレビでもスマホでもなく、”ワッフルメーカー”というのは完全にギャグなのだろう。

 

 

もちろん人を喰う場面こそないが、ジーナ・ガーション演じる女性の頭の皮膚が引っ張られて剥がれてしまったり、ガラスによって首を切ってしまい倒れている人を横目に商品に群がる場面などは、人間が理性を崩壊させてゾンビ化しているという表現に見え、ブラックジョーク満載で風刺が効いており、不朽の名作「ゾンビ」と同じメッセージを感じたのである。この序盤のシーンこそ本作における最大の白眉だったと思うし、11月第4木曜という感謝祭の翌日に行われる”ブラックフライデー”が、まさに消費社会を代表するような日だという事実を絡めて、監督イーライ・ロスが本作で表現したかった点だと感じる。1621年の食糧難だった頃に、先住民たちと収穫を祝った日が感謝祭の始まりなので”食べ残し”がご法度であり、アメリカでは家族で過ごす休日らしいが、その対比こそが本作の見所でもあるのだ。ただこの後の展開はこの”メッセージ性”はなりを潜めて、割とベタなスラッシャーホラーとなっていく。いわゆる”多彩な殺され方”を楽しむコンセプトの映画になっていくのである。

 

もちろん閉店したレストランの後片づけをしていた中年女性が襲われ、冷蔵庫に濡れた顔面が張り付いて剥がれなくなるという最初の殺人からアイデア満載で、剥がれた顔の皮膚によってケータイの顔認証が効かなくなるという展開も含めて、この殺人シーンの連続も十分に面白い。殺人鬼が町の人たちを一人一人殺していくという展開自体は、「ハロウィン」などを代表に過去にも山ほど観てきた展開ではあるが、この辺りの演出はスラッシャーホラーとして外せないし、本作は趣向が凝らされており飽きさせない。J・リー・トンプソン監督のカルトホラー「誕生日はもう来ない」や、ショーン・S・カニンガム監督の「13日の金曜日」からも、影響を受けている気がする。さらにイーライ・ロスは食人族映画である「グリーン・インフェルノ」でもやっていたが、人間調理シーンがお気に入りなのだろう。本作でも下準備からキッチリと見せてくるが、なぜかそれほどこれらのシーンに嫌悪感が湧かないのは、もちろん観客側にもある程度の耐性は必要だが、グロ表現の匙加減が上手いのだと思う。

 

そして本作をもう一つ魅力的にしている要素は、ジョン・カーヴァ―のお面を付けた殺人鬼の正体は誰か?というミステリー要素だ。このあたりは明確に、ウェス・クレイヴン監督による1997年の傑作「スクリーム」や、同じ脚本家ケヴィン・ウィリアムソンによる「ラストサマー」を彷彿とさせる。ここからネタバレになるが、地元高校生が襲われていく展開や過去の事件における復讐が動機という流れ、事故で失踪する元恋人や現恋人との確執というミスリードの作り方など、まるでケヴィン・ウィリアムソンによる脚本なのかと思わされる。真犯人が分かってしまうと、「じゃあ、あの終盤シーンは時間的に無理があるだろ」とか「なぜあそこのシーンで殺されなかったの?」というシーンが頻発して、ミステリーとしての整合性が損なわれている辺りまでソックリだ。だがそういう緩さも含めて90年代後半の一連の作品らしさに満ちており、このジャンルの映画として決して嫌いにはなれないのである。

 

最後に意味深に現れるエンドクレジット後の映像についてだが、まさかもう一回ひっくり返してくれるのか?と期待しただけに、急にメイキング映像になるという展開はいただけなかった。「カット」という言葉で映像は終わるのだが、エンドクレジットの最後とはいえ興が削がれる上に、映像として意味深だったので”期待ハズレ感”が半端ない。あれは完全に蛇足だっただろう。とはいえ全体的には、2023年の最後にこんなに楽しいホラー映画が観られて大満足だ。どうやら本作の大ヒットを受けてすでに続編も決定しているらしいが、イーライ・ロス監督が「スラッシャーホラー+犯人当てミステリー」という懐かしいジャンルをリブートしてくれた本作の功績は大きい。こういうジャンル映画もぜひ無くならずに続いてほしいものである。

 

 

7.0点(10点満点)