映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「15時17分、パリ行き」を観た(完全ネタバレ&解説アリ)

15時17分、パリ行き」を観た。

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監督:クリント・イーストウッド
出演:アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、スペンサー・ストーン
日本公開:2018年

 

「グラントリノ」や「アメリカン・スナイパー」の名匠クリント・イーストウッド監督が、2015年8月に高速鉄道で起きた無差別テロ事件の実話を映画化。列車に乗り合わせていた3人のアメリカ人青年がテロリストに立ち向かう姿を描く。実際の事件当事者を主演俳優に起用し、当時列車に居合わせた乗客も出演させた異色作である。今回もネタバレありで。

 

あらすじ

2015年8月21日、554人の客が乗るアムステルダム発パリ行きの高速鉄道タリスに、武装したイスラム過激派の男が乗り込み無差別テロを企てる。乗客たちが恐怖に凍り付く中、旅行中で偶然乗り合わせていたアメリカ空軍兵スペンサー・ストーンとオレゴン州兵アレク・スカラトス、二人の友人の大学生アンソニー・サドラーは犯人に立ち向かい、負傷しながらも取り押さえる事に成功する。

 

感想&解説

クリント・イーストウッド87歳の最新作は、彼のフィルモグラフィ史上で最も短い94分の作品である。「アメリカン・スナイパー」「ハドソン川の奇跡」に続き、今作も史実に基づいたノンフィクション作品となっている。しかも、実際に事件を体験した一般人を主演に置き、 本物の列車を用意して撮影したという、かなりリアリティを重視した作品だ。特に完全なる演技の素人が、全世界配給のこれだけ著名な監督作品に出演するなど、前代未聞なのではないだろうか。

 

ハッキリ言って、かなり変わった映画だと思う。少なくとも前知識はほとんど無しで観に行ったのだが、想像とは全く違う作品であった。事前のイメージでは、たまたま列車に乗り合わせた男たちが、テロの犯人を捕まえるまでを描く、アクションサスペンスだと思っていた。だが、実際にテロを防ぐ列車内が舞台のシーンは、恐らく上映時間内の10分くらいのものではないだろうか。

 

では、この映画のほとんどの時間は何を描くかと言えば、出演である3人の男たちがどの様な少年時代を歩み成長してきたのか?と、彼らがこの15時17分パリ行きの電車に乗るまでの、ヨーロッパ旅行の工程を延々と観る事になる。これを退屈だと感じてしまうと、この映画の評価はガクッと下がるだろう。正直、ロードムービーと言った方がしっくりくる。だが、もちろんイーストウッドが意図も無く、こんなシーンを長々と入れるはずはないのである。

 

映画の構成上、かなり時系列が前後する作りになっているのだが、映画開始早々にもう彼らがどの様な少年時代だったかを語り出す。決して優等生ではなく、むしろいつも校長室に呼び出されて怒られている彼ら。シングルマザーだが愛ある母親に育てられており、母子共に、画一的な教育で自由を尊重しない学校とは折り合いが合わない。だが友達は大切で、困った時には助け合っているし、真の友情を育んでいる。彼らは成長し、転校や家庭の事情で離ればなれになるが、空軍のパラレスキューになるという夢を持ちながら努力したり、その夢に破れたりしながら、それぞれがなんとか自分たちの人生を歩んでいる。自分の正しいと信じたことをやり抜く強さや信仰心はあるが、特別に優秀でも恵まれた環境でもなく、彼らは「普通の人たち」だと徹底して描かれているのである。

 

それが顕著なのは、彼らがヨーロッパを旅する様子を描くパートだ。イタリアの観光名所やアムステルダムのクラブで楽しそうに遊び呆けて、遂には二日酔いの彼らを見てると、まるでプライベートな旅行映像を観ている気分になるほどだ。アメリカに普通に暮らす、ただの一般人の彼ら。しかも画面に映っているのはハリウッドスターでは無く、本当の現実でテロを防いだ「彼ら」なのだ。だからこそ、映画のラストで描かれる彼らの「英雄的」な行動に、重みと信憑性が出るのである。

 

この映画で、クリント・イーストウッドはテロに立ち向かうには、特別な能力や資質は必要ないのだと言っている。彼らのうち、二人は軍隊に所属しているが、死線を潜ってきたような戦闘エリートでは全くない。もちろん、彼らはアーノルド・シュワルツェネッガーでもシルベルター・スタローンでもない。普通の人が然るべき瞬間に、勇気を出して行動する事の尊さを描いた作品だと思う。だからこそ、列車内のテロリストとのヒロイックな攻防は最小限にして、彼らの「一般性」を重要視する作りになっているのだ。斬新な作りとしかいいようが無い、イーストウッドの才気走った作品だと言えるだろう。もちろん、この作風はあまりに予告編からの事前イメージと違う為、ガッカリする人も一定以上いる事は想像できるが。

 

最後にエンドロールで流れるジャズコンボのピアノ曲が、とても美しい。音楽は、クリスチャン・ジェイコブというジャズピアニストが担当しているらしいが、格調高く美しい曲が確実にラストシーンの感動を引き立たせていた。前作「ハドソン川の奇跡」も担当していたらしく、イーストウッドと演奏していたエンディングテーマ「Flying Home(Theme from 'Sully')」も名曲であった為、彼は実力あるミュージシャンなのだろう。今のところ未発売だが、是非ともサントラが欲しい。

 

映画ファンにとって、イーストウッドの監督作はとりあえず観に行くしか選択肢がない。とにかく作り続けてくれる限りは、追いかけて行きたいと思う。次回作は何年に観れるのだろうか。そして、あと何本観れるのだろうか。本当に勇気をもらえる監督である。

 

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