「ブラックパンサー」を観た。
マーベル・シネマティック・ユニバースとしては、第18作品目となる。ブラックパンサーは、2016年公開作品「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」に初登場し、王族という設定やその身のこなしの格好良さに、単独主演映画を熱望されていたキャラクターだ。監督は、2015年公開の超名作「クリード チャンプを継ぐ男」のライアン・クーグラー。もうこれだけで、本作への期待は高まる。今回もネタバレありなので、ご注意を。
監督:ライアン・クーグラー
出演:チャドウィック・ボーズマン、マイケル・B・ジョーダン、マーティン・フリーマン
日本公開:2018年
あらすじ
絶大なパワーを秘めた鉱石「ヴィブラニウム」を産出するアフリカの国ワカンダは、その恩恵にあずかり目覚しい発展を遂げてきたが、ヴィブラニウムが悪用されることを防ぐため、代々の国王の下で、世界各国にスパイを放ち、秘密を守り通してきた。父のティ・チャカの死去に伴い、新たな王として即位したティ・チャラは、ワカンダの秘密を狙う元秘密工作員の男エリック・キルモンガーが、武器商人のユリシーズ・クロウと組んで暗躍していることを知り、国を守るために動き始める。
感想&解説
本年度2月に公開されたアメリカでは、映画史上歴代5位のオープニング週末興行収入を記録するなど、まさに社会現象を巻き起こす話題作となっている。また監督のライアン・クーグラーはもちろんのこと、主演俳優陣、音楽もグラミー賞最多5冠に輝いた黒人ヒップホップ歌手「ケンドリック・ラマー」が担当しており、ほぼアフリカ系アメリカ人を中心にこの作品は作られている。オバマ元大統領夫人も本作に称賛の声を送っているらしいが、「ブラックパンサー」を語る上で、こういった背景は外せないだろう。
だからこそ本作は、日本人の僕らには少し語りにくい作品となっている。もちろん表面上はマーベル・シネマティック・ユニバースのアクション超大作なわけで、ボーっと観てると上映時間はあっという間に過ぎる。だがこの作品、主人公がアフリカに存在する、架空の国ワカンダの国王という設定から推察できる様に非常に政治色が強く、アクション映画という枠を超えて、強いメッセージを主張してくるタイプの作品なのである。個人的には昨年公開された「ゲット・アウト」を思い出したが、あの作品にも感じる「黒人として生きる事」という、我々日本人には感じようのない感覚をベースにした作品の為、なんとなく自分には作品の本質が理解出来ないと感じてしまうのだ。
本作の舞台は、表面上は農業中心の発展途上国ワカンダ。だが、この国には最強の金属ヴィブラニウムが採掘でき、そのおかげでとんでもない技術と文明が発達していた。主人公である国王ティ・チャラは保守的で、国民を守る為、今のスタンスを崩さず平和的に暮らすことを選択している。ところが、同じく王家の血を引くキルモンガーは、ヴィブラニウムの力があれば、他国を制圧する事は可能だし、他国に抑圧され蹂躙される前に、こちらが攻撃の狼煙を上げるべきだと主張する。基本的には、この2人の皇位継承を巡る争いの物語だ。
この黒人2人の争いの背景には「現実の世界」にある、過去に奴隷貿易によりアメリカに連れてこられた、アフリカ系アメリカ人というアイデンティティや、先進国に天然資源を搾取され続けてきたアフリカという事実が、否が応でも浮き彫りになる。映画のラストで傷ついた悪役キルモンガーが、彼を助けようとするティ・チャラに対し「自分の祖先は船の上で鎖につながるなら、自ら海に身を投げる方を選んだ」と言い、命を絶つシーンがある。マイケル・B・ジョーダン演じるキルモンガーが放つこのセリフは、黒人観客にとっては非常に深い意味合いがあるだろう。勧善懲悪では無い、この作品の魅力はこういった所にあると思う。
エンドクレジットの途中で入るシーン。遂にワカンダが門戸を開き、他国とも積極的に貿易していく事を、正式に国王となったティ・チャラが国連にて宣言する。その中で「賢者は橋を架け、愚者は壁を造る」と彼は口にする。この愚者とは誰を指しているのかは、もはや明白だろう。その宣言を聞いた白人が「(ワカンダのような)農業だけの国が、我々に何を与えてくれると言うんだ?」と冷笑気味に質問する。それに対し、ティ・チャラ国王が文字通り「ニヤッ」として、エンドクレジットに切り替わる。白状すると、本作でのどんなアクションシーンよりも、僕がもっともカタルシスを感じた場面だ。彼らはワカンダが持つ、そしてその国民が持つパワーを知って驚愕するだろう。それをスマートに示唆して映画は終わるのだ。
だだ、正直不満点も多い。この「ブラックパンサー」のアクションシーンはほぼ凡庸だ。流石に、この乱立するアメコミ映画の中で、既視感のないアクションシーンを作る事の難しさは理解出来るが、とはいえ画面中に何が起こってももはや感動や興奮はない。「何か、もしくは誰かを追っかける」「誰かを倒す」といった目的の為に、視覚効果バリバリの画面の中をキャラクターが動き回るのだが、いくら画面が派手でも、ストーリー上のキャラへの感情移入が無いとアクションシーンは平坦なものになる。
この作品がアメリカで大ヒットしているのは、クールな、そしてダークヒーローではなく「陽の当たるヒーロー」として、自分たちを投影できる黒人キャラクターが現れたという声の現れではないだろうか。DCコミックスの「ワンダーウーマン」が昨年大ヒットした事も併せると、世界中の観客が今どういうヒーローを求めているかの片鱗が見える気がする。
「アベンジャーズ / インフィニティウォー」も登場するのが決定している「ブラックパンサー」は、MCUの中でも間違いなく重要キャラになるだろう。個人的にはアクションシーン以外が魅力的だった本作。ちなみに他のMCU作品同様、エンドクレジットは必ず最後まで観る事をオススメする。
採点:6.5(10点満点)