「スター・トレック BEYOND」を観た。
クリス・パイン主演のリブート3作目で、シリーズ全体としては13作目にあたる作品。監督は前作までのJ.J.エイブラムスから、ジャスティン・リンに交代となり、スター・トレック放送開始50周年という節目に公開となった。リブート1作目は2009年、2作目は2013年公開だったので、約三年ぶりの新作である。前作の「イントゥ・ダークネス」が、エンタメ大作としてかなりの出来だったので、今作のハードルはかなり高かったと言える。
監督:ジャスティン・リン
日本公開:2016
感想&解説
結論、今作は過去二作目をしっかり観て、各キャラクターに愛着を感じていればいるほど、楽しめる作品となっていたと思う。逆に完全に一見さんお断りの映画だろう。あえて、「イントゥ・ダークネス」とは差別化を試みたのだろうが、ベネディクト・カンバーバッチ演じる悪役「カーン」のカリスマが作品の大きな魅力になっていた前作とは対照的に、今作はエンタープライズ号の各乗組員に見せ場が配されている。
「スター・トレック」は、世界中の様々な人種がエンタープライズ号というひとつの宇宙船に乗り、皆で宇宙を旅するというコンセプトだ。これが、テレビシリーズが始まった1960年代のアメリカでは画期的な事で、日本人も黒人も自分たちを投影して感情移入出来た為に、世界中にファンを増やしたシリーズだろう。特に今作は、世界が手を取りあって協力していく事が強い力になるというグローバリズムと、力とは他者との争いの中で勝ち残った者が発揮すべきだという偏ったナショナリズムとの戦いが、映画のメインテーマである。これはドナルド・トランプ対ヒラリー・クリントンというより、トランプ対全世界となっている「2016年という今」を作品に反映している様で、とても興味深い。更に今回、スールーのパートナーが男性だった事が判明し、キャラ設定にも現代的な要素を入れて、作り手が「今の時代のスター・トレック」にアップデートしていくという意思が見えたのが良かった。
今作には、スター・トレックシリーズ恒例の宇宙船内での敵との駆け引きや、クルー同士のやり取りの要素は少ない。その代わりにバイクでのアクションシーンや、無重力状態での格闘シーンなど、今までに無いフレッシュな要素は個人的にはとても楽しめた。特に劇中でビースティ・ボーイズの「sabotage」が大音量でかかる戦闘シーンがあり、キャラクター達も思わず足でリズムを取りながら戦うという場面が、この映画における僕のベストシーンだった。良き音楽は時代を超えて、人を高揚させるのである。
監督である「ワイルド・スピード」シリーズのジャスティン・リンは今回見事な手腕を披露したと思う。ラスト30分の盛り上がりも素晴らしく、手に汗握った。文字通り、作品のメッセージもコンセプトも「BEYOND」のタイトルに相応しい、新しいスター・トレックになっていたと思う。正直、映画全体としてはこじんまりとしていて傑作とは言い難いが、シリーズものSF映画として映像のクオリティも含めてなかなかの佳作に仕上がっていたと思う。シリーズ4作目も決定のようなので、シリーズ未見の方は、これを機会に是非リブート版1作目から観てみてはいかがだろうか。
採点:6.0(10点満点)