「スポットライト 世紀のスクープ」を観た。
第88回アカデミー賞では作品賞、監督賞、マーク・ラファロが助演男優賞、レイチェル・マクアダムスが助演女優賞、さらに脚本賞、編集賞の6部門にノミネートされ、結果として作品賞と脚本賞を受賞した実録ドラマである。日本での劇場公開は2016年の4月だったが、今回はブルーレイで再見。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:トム・マッカーシー
出演:マイケル・キートン、マーク・ラファロ、レイチェル・マクアダムス
日本公開:2016年
感想
2002年、アメリカの新聞「ボストン・グローブ」が「SPOTLIGHT」と名の付いたコーナーに、神父による性的虐待とカトリック教会がその事実を隠ぺいしていたというスキャンダルを、白日の下に晒す記事を掲載した。本作は、その背景に起こった新聞記者たちの戦いをトム・マッカーシー監督が緊迫感たっぷりに描き出した、骨太のノンフィクション作品である。
カトリック協会はローマ教皇を中心として、全世界に12億人以上の信者を持つキリスト教最大の教派である。もちろん、生まれた時から深い信仰の家庭に育った人も多いだろうし、権力者の中にも信者は多いだろう。劇中のセリフにもあるが、新聞の購読者の53%がカトリック協会という状況の中で、新聞社としてジャーナリストとして、巨大な組織に対し彼らはどう行動したのか?が本作最大の見せ場となっている。
大勢の神父による少年への性的虐待は、当時相当なショックで報道されたと思うが、それ以上に「報道する側」にもかなりの圧力や軋轢があった事が、劇中で示される。この作品はボストン・グローブ誌の「スポットライトメンバー」による、報道の正義を巡る「チームもの映画」としての側面が強く、誤解を恐れず言うならスリリングで大変に面白い作品となっている。身を粉にしてプライベートを削り、自らが信じた真実に食らいつく彼らの姿に、観客は感銘を受けるのだ。
この映画の構成として、ノンフィクション作品である為、世界中の神父による性的虐待はすでに報道済みだ。その為、この真偽を問うミステリジャンルの作品では無い。では、どの様にチーム「スポットライト」が真実を掴み、報道人としてそれを世に問うたか?がこの映画のポイントになるのだが、これが絶妙なタイミングとボリュームで、新しい情報が観客に提供される作りになっている為に、興味の持続が長く、全く飽きない流れになっているのが見事だ。この映画、特に「編集」がかなり上手くいっていると感じた。
特に最初はピンポイントな一事件だと思いきや、ボストンの中だけでも徐々に加害者である神父の数が膨れ上がっていき、遂にはカトリック協会自体の組織的な隠ぺいにストーリーが発展していく様は、観客もチームのメンバーと同じように驚愕し、怒りが沸く。それと同時に、カトリック司祭は妻帯できずに性的に未熟なまま加齢していくといった教団の仕組みや、カトリックという絶対的な権威とその取り巻きの弁護士の存在など、もはや「個」では無く「組織」として、様々な違和感を観客に提示してくる作りとなっているのだ。
映画のラストで、鳴り響く読者からの電話。ほとんどが記事を読んだ被害者からの連絡だと示されて、実際に性被害が報告された都市がスクリーンに映し出される。その数に観客は改めて驚くだろう。だが今現在、カトリック教団がその勢いを弱めているかと言えば、否だ。9.11を経た世界において、宗教と権力、信仰といった現代的で普遍的なテーマを、改めて提示してくれる作品は貴重だし、こういった難しいメッセージの作品をハリウッドの一流キャストで映画化し、全世界配給した作り手の心意気の高さも素晴らしいと思う。
本作がアカデミー作品賞を取るというアメリカの映画産業は、まだまだ健全だと思うし、それに見合うだけの作品の質も保たれている名作だ。カトリック神父の中でも、実際に犯罪を犯した者は数パーセントで、今でも多くの信者の心を救っているのは事実だろう。それを踏まえて、観た後いろいろと語りたくなる映画だと思う。映画館で観た1度目よりも、ブルーレイで観た今回の方が内容が分かりやすくて良かった。観る度に発見がある傑作「スポットライト 世紀のスクープ」、ぜひオススメしたい。
採点:9.0(10点満点)