「マリアンヌ」を観た。
ブラッド・ピット&マリオン・コティヤールの二大スターが共演する、1940年代の第二次世界大戦時を舞台にしたヒューマン・ドラマ。監督は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「フォレスト・ガンプ」、近作では「ザ・ウォーク」のロバート・ゼメキス。本作はラブストーリーの要素が強いが、大きな意味ではヒューマン・ドラマだろう。とても力強い作品であり、あまり期待してなかっただけに嬉しくなる程の傑作であった。今回は感想でネタバレありの為、ご注意を。
監督:ロバート・ゼメキス
日本公開:2017年
あらすじ
イギリスの特殊作戦執行部から派遣されたマックス・ヴェイタンは、ドイツ人官公吏の暗殺作戦を遂行中に、フランス軍レジスタンスのマリアンヌ・ボーゼイジュアと出会う。暗殺作戦に関して策を練りながらも、絆を深めたマックスとマリアンヌは遂に暗殺作戦を決行する。そして、作戦完了後に恋に落ちた二人はイギリスに戻り結婚、幸せな夫婦生活を送る。だが妻であるマリアンヌに重大な疑惑が発覚し、さらに二人の運命は戦争によって大きく捻じ曲げられる。そして、想像だにしない結末へと向かっていくのである。
感想&解説
スクリーンを観ながら(ロバート・ゼメキスってこんなに演出が上手い監督だっけ?)と何度も思うほど、惚れ惚れする様な「映画的」な体験が出来る傑作に仕上がっている。とにかく、台詞の過剰な説明に頼らない映像の演出で、ストーリーをスマートに語りつつも、しっかりと物語の先が気になる吸引力も保っているのである。
序盤、ブラッド・ピット演じるマックスが、マリオン・コティヤール演じるマリアンヌに屋上で「ある嘘」を付くのだが、その前のシーンが伏線になっており「あ、マックスは恋に落ちたのね」と解る演出になっていたり、あるパーティのシーンで、ヘビースモーカーだったマリアンヌがタバコを吸わないなぁと思っていると、マックスがさりげなく、マリアンヌのお腹に置く手で彼女が妊娠している事を示唆したり、もう降っていないのに車のフロントガラスに残る雨粒と、動き続けるワイパーによって時間の経過を表現していたりと、映画的な演出が続く。更に、中盤のマックスが階段を降りてゆく何気無いシーンで、敢えて真上からのショットを置き、その下降していく階段の「意外な高さ」を表現する事でまるで地獄に続く階段の様に見せ、これからマックスに降りかかる災難を表現するなど、とにかく画面による情報が豊かなので観ていて飽きないし、まるで往年の名作の様に広い解釈が可能なのである。
ブラッド・ピットとマリオン・コティヤールのスター俳優としての存在感も素晴らしい。特に初めてブラッド・ピットがスクリーンに顔を見せるまでの溜めた編集と、その登場シーンの美しさに「スター映画」としても、「分かってるなぁ」とロバート・ゼメキスの演出の上手さに舌を巻く。マリオン・コティヤールの演技も全体に抑揚が効いており、とても良い。この映画に関しては、ほぼラストシーンまでこの調子で幸せな映画体験が出来る。ただ、本当にラストシーンのある字幕の一文だけ、ちょっと個人的引っかかる部分があった。ここからネタバレ注意。
本作は中盤で、いわゆる「ダブルスパイもの」という設定が明かされる。マリアンヌがドイツのダブルスパイなのかどうか?が物語上の推進になり、それに関してはしっかりとした映画上の解決が成される。ただ、ラストでマリアンヌが残された家族に手紙を書くシーンがあり、その署名に関してだけがちょっと違和感があった。最後の手紙はいわゆる遺書であり、マリアンヌがあれを書いたタイミングを考えれば、偽らざる本心を書いている訳だし、作品的にもその様な演出になっている。だとすれば、あそこは偽名の「マリアンヌ」では無く、自らの本名を書くべきでは無いかと感じたのだ。(劇中では結局、明かされない)マックスは愛した女性の本名も知らないままに、娘を育てていくのかと思うと不憫でならない。名前も含めて全てをオープンにして初めて、あの手紙の意味合いがより強まる様な気がしたのだ。
これは日本語字幕での表記だったし、日本語タイトルは「マリアンヌ」だが、英語版は「Allied」と異なる事でそこを配慮したという可能性もあり、実際の英語による台詞でも同じなのかは今となっては解らないが、他がほぼ完璧だった為に、脚本上少し残念だった。だがこんな些細な事しか気にならない程に、この「マリアンヌ」は期待以上の素晴らしい作品だったと思う。VFX炸裂の派手なシーンや驚く様な凝ったシナリオは無いが、観ている間、重厚で濃密な映画的な快感に満たされるだろう。久しぶりに美しいブラッド・ピットが観れるという意味でも、ファン必見である。映画好きであれば、文句無しに観るべき作品だ。
採点:8.5(10点満点)