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映画「レディ・プレイヤー1」ネタバレ感想&解説

レディ・プレイヤー1」を観た。

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アーネスト・クラインSF小説「ゲームウォーズ」を映画化した本作。先日公開された「ペンタゴン・ペーパーズ」に続き、2018年はスティーブン・スピルバーグの監督作品が二作も公開となる。「ペンタゴン~」は、ベトナム戦争におけるメディアと政府の戦いという史実をベースに、CGなどを排した極めてクラシックな作りの傑作だったが、今作はその真逆と言える。これは、1993年公開の「ジュラシック・パーク」と「シンドラーのリスト」、1997年公開の「ロスト・ワールド」と「アミスタッド」、2005年公開の「宇宙戦争」と「ミュンヘン」の様に、重厚なノンフィクションドラマと、エンターテイメント大作を同年公開するというスピルバーグがしばしば行う手法だが、すっかり巨匠となったスティーブン・スピルバーグが、この「レディ・プレイヤー1」で何を表現したのか?今回もネタバレありで。

 

監督:スティーブン・スピルバーグ

出演:タイ・シェリダン、オリビア・クック、森崎ウィンマーク・ライランス

日本公開:2018年

 

あらすじ

2045年、多くの人々が荒廃した街での暮らしを余儀なくされていた。そんな中、全ての希望が実現するVRワールド「OASIS(オアシス)」に世界中が夢中になっていた。ある日「オアシス」の創始者、ジェームズ・ハリデーが亡くなり、彼は遺言でこう告げる。「全世界に告ぐ。オアシスに眠る謎を解き、三つの鍵を手に入れた者に全財産56兆円と、この世界のすべてを授けよう。」その遺言を受けて、世界中で莫大な遺産を巡る戦いが始まり、現実では冴えない日常を送っていた若者ウェイドも参戦する。ウェイドは「オアシス」の中で出会った仲間と、謎の美少女アルテミスと協力し戦いに挑むが、そこへ遺産を奪おうと企む巨大企業、IOI社も加わってくる。ウェイドは仲間達とIOI社の陰謀を阻止し、「オアシス」に眠る3つの鍵を入手する事が出来るのか?

 

感想&解説

これだけターゲットがハッキリしている映画も珍しい。「a-ha/Take On Me」「Wham!/Wake Me Up Before You Go-Go」「Van Halen/Jump」といった80年代楽曲の数々、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンから、「AKIRA」の金田バイク、「ストリート・ファイターⅡ」の波動拳、「チャイルド・プレイ」のチャッキーに、アイアン・ジャイアントガンダム、更にはメカ・ゴジラなど、とにかく40代以上のオタクが喜ぶポップカルチャーを山ほど詰め込んである作品で、特にゲーム、アニメ、映画、音楽への造詣が深い人ほど嬉しい作品になっている。

 

よって「VR空間」が舞台と聞いて、先進的なSF世界観を期待すると肩透かしを喰らう。あくまでも様々なアイコン的なキャラクターが、「アバター」であるという設定なら同じ画面に収まっていても違和感が無いからという理由が、この映画における「VR空間」という設定の肝だ。世界中の人たちがゲーム中で様々なキャラクターのアバターを設定しているといった内容の為、一回観ただけでは絶対に気付かない様な頻度で、本当に様々なキャラがスクリーンに一瞬だけ登場したりする。これを宝探しの様に、目を皿のようにして見つけるのが非常に楽しい。

 

ストーリーはあくまで添え物と言って良く、課題をクリアして3つの鍵を集めるといったもので、基本的には謎解きをして、ステージを順番にクリアしていくといったポピュラーな内容だ。そのステージが、レースゲーム風、ホラーゲーム風、FPS風とゲーム的になっており、先ほどの「キャラクター宝探し」と共に、映画全体がとてもゲーム的なモチーフに彩られているのが特徴だ。

 

個人的には二つ目のホラーステージで、スタンリー・キューブリック監督の1980年作品「シャイニング」の舞台「オーバールック・ホテル」が登場した時は、心底ニヤついた。あの血のエレベーター、双子の女の子、雪の迷路、斧、写真、タイプライター、そして「237号室」。懐かしさとあまりの完成度に感心し、大いに愉しんでしまった。また、映画全編に流れるアラン・シルベストリの奏でるBGMが作曲者だけあって、ものすごく「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をモチーフにしており、学生の頃サントラを聴きまくっていた事を思い出した。また「ブレックファスト・クラブ」や「フェリスはある朝突然に」の話題が急に出たりと、映画ファンのツボをグイグイ押してくるのも面白く、多分、僕が理解出来ないだけで、アニメファンや特撮ファンにも、それぞれのツボを刺激してくる作品なのだろう。

 

正直、現実世界からほぼ全ての国民が、この「オアシス」というVR空間に現実逃避しており、食事やトイレ以外のほとんどの時間をここで過ごしているという設定は、ディストピア映画の典型だ。しかも映画の最後、主人公とその彼女であるヒロインは、この「オアシス」の管理者となって二人で悠々自適な生活を過ごしましたというオチや、「週に二日は現実世界で過ごしましょう」というルールが作られたという説明は、リア充な二人にとっては良いのだろう。だが現実世界で起こっている、貧困や失業に起因する「荒廃した世界」という問題の根本解決には一切なっていない為、この過酷な環境に生きる一般人にとっては苦痛以外の何物でもない。このVR空間に侵略された世界を最後まで肯定している姿勢は、ちょっと作品として違和感を感じなくもなかった。

 

とはいえ、この作品は正真正銘「アトラクションムービー」だと思う。ストーリーの完成度よりも、画面に映るめくるめくアクションシーンのまるで画面の中に放り込まれた様な体感は、素晴らしい映画体験となるだろう。特に最初のレースシーンはその没入感が強く、あのデロリアンが爆走している姿は、個人的に非常にテンションが上がった。またスピルバーグ監督の本質である悪趣味グロ描写も意外と多く、「レイダース」を思い出させる様な顔面溶解シーンも楽しい。この作品に限っては、IMAX3Dとの相性が抜群に良いと思う。

 

ゴールデンウィークに観るには良い作品だと思うが、やはり元ネタをある程度理解できた方が楽しめるだろう。若い人たちも、この作品をきっかけに、過去のポップカルチャーに触れるきっかけになるのは良い機会だし、それこそがこれだけの版権をクリアして名匠スピルバーグが手掛けた意味だろう。恐らくこの作品を観た後で、また過去の作品を見返したり、昔の作品を掘り起こす人は増えると思う。特にジャパニーズコンテンツへの愛が溢れており、日本の観客には嬉しいシーンが満載だ。スピルバーグ監督が送る、ポップカルチャー好き必見の娯楽大作として、オススメだ。

採点:7.0(10点満点)