映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「シン・ゴジラ」を観た

シン・ゴジラ」を観た。

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監督:庵野秀明樋口真嗣

公開:2016年

 

公開初日のレイトショーでゴジラの新作を観るというのは、なんとなくテンションが上がる。とはいえ、僕はゴジラに関しては完全な素人だ。1998年と2014年に公開されたハリウッド製作の2作は観ているが、日本で製作されたゴジラは1989年公開の「ゴジラvsビオランテ」をうっすら観た記憶がある位という不勉強ぶり。なんと日本での製作は12年ぶりらしい。

 

監督は、あのエヴァンゲリオンシリーズの庵野秀明と、日本ではVFXの大家と言っても良い樋口真嗣のダブルクレジット。ゴジラ素人としては、色んな意味で面白い作品になるだろうと期待して鑑賞した。

 

感想

実は本編を観る前に、疑問に思っていた点が二点あった。一点は「予告から随分と気前よくゴジラを見せるなぁ、大丈夫かな?」という点。普通の怪獣モノだと顔や全体像はなるべく映画前半では見せないようにして、「この怪獣はどんなルックスをしてるんだろう?」という観客の興味を持続させるのがセオリーなのに対し、今回のゴジラはポスターから予告編まで、ゴジラのビジュアルが出まくりの大盤振る舞いである。

 

例えば2014年ハリウッド版は、序盤では脚などしか見せないが、遂にゴジラの顔が咆哮と共に初めて映し出された瞬間、音楽と共に最高に盛り上がるという演出を行っていた。今回は果たしてゴジラの全景を事前に見せた上で、120分観客を飽きさせないでいられるのか?という疑問だ。

 

もう一点の疑問は「2016年にゴジラが公開される意味」である。僕は映画には「時代性」が大事だと考えている。その作品が「何年に作られた」という事は、映画のテーマやエンディング、世界観に大きく影響すると思う。アメリカ映画でも、70年代に作られた作品はベトナム戦争の影響を色濃く受けて、哀しく報われない運命の主人公たちが多い。いわゆる「アメリカンニューシネマ」と言われる作品群だ。

 

今回のゴジラも、前作から12年ぶりの2016年の今、映画を観に来た人に向けた時代性を持った作品になっているか?という疑問である。長い歴史を持つ日本でも屈指のキャラクターであり、今尚熱心なファンに支えれているゴジラ映画を今改めて創るという事は、どうしてもそこが求められるだろう。今の時代、過去作の焼き直しや単純にCGの怪獣が暴れるだけの映画を、観客は求めてはいないからだ。

 

さて長々と書いてきたが、今作「シン・ゴジラ」の僕の感想はというと、一言「大傑作」である。前述の二つの疑問に完璧に答えてくれている上に、これから僕たちが考えるべき事を示唆してくれているとさえ感じる作品となっていた。

 

まず、本作は単純な怪獣映画では全く無かった。だから、ゴジラ自体のキャラクター性やルックスで観客の興味を持続させる必要は無い。今回のゴジラはライバル怪獣と戦う姿がカッコ良い「キャラクター」では無く、明らかに人類が避けらない「天災」のメタファーだ。だから最初から、作り手はゴジラをカッコ良く演出する気などサラサラ無い。どちらかと言うと、今回のゴジラの登場シーンは生理的な嫌悪感すら抱かせる位にグロテスクだ。

 

そして、この映画はゴジラそのものを描くのでは無く、「ゴジラ登場」という未曾有の事態に、日本はそして世界はどう判断して、どう動くのかという、あくまで人間達を主軸に描く。だから、特に映画の前半は政治家や官僚たちがセクショナリズムの中で、会議をしながら責任をなすりつけ合い、揉めている場面がほとんどだ。だが、ゴジラはそんな事はお構い無しに東京を破壊していく。その対比が滅法面白い。

 

そしてネタバレはしないが、今この日本に大きな「天災」が起こった時に、総理大臣は、自衛隊は、東京は、憲法は、そしてアメリカはどう判断するのか?そして国民の生活はどうなってしまうのか?まさに、この「シン・ゴジラ」は大震災を幾度も経験した、そして理屈の通じない近隣の国がミサイルをバンバン発射している、2016年の日本だからこそ観るべき映画となっている。

 

そして、この映画の一番大事なポイントは、主人公が屈強な軍人でも天才科学者でも無く「政治家」である事だ。そう、この映画の中で日本を救うのは、上司に逆らってでも国民の事を思い、正しい決断する政治家なのだ。そして自ら率先して考え、現場で行動する事が出来る政治家が、真に正しい判断が出来るという事が描かれている。そこに優秀なチームが結成され、各人の能力が発揮出来れば日本人は優秀でどんな状況でも、きっと乗り越えられるという作品からのメッセージがある。更にそれには厳しい状況の中でも、軋轢に負けず正しい選択が出来るリーダーを僕たちは選んでおく必要があるのだとこの映画は言っている。

 

政治家の不正が次々に発覚している日本で、改めて「本当に国の未来を考え、正しい決断が出来る政治家」を映画の中だけでも見る事が出来る意味は大きい。

 

「日本はスクラップ&ビルドで立ち直ってきた国だ。また必ず立ち直れる。」劇中の印象的なセリフである。

 

最後に庵野秀明監督という事で、エヴァンゲリオンとの関連性にも触れておきたい。正直、かなり「シンクロ率」は高いと言える。特に、ほぼパロディと言える位に似ている音楽、異常に早いセリフ回し、編集テンポの随所にエヴァへの目配せがあり、「ヤシオリ作戦」のくだりでは思わず笑ってしまった。ちょっとやり過ぎかなと思わなくも無いが、エヴァファンには嬉しい演出だろうし、プロデューサーとしては正しい判断かも知れない。なによりある意味これ位やってくれた方が、いよいよエヴァも再始動してくれるのかと、個人的には期待も高まった。劇場版4作目のエヴァも長い目で待ちたいものだ。

 

という訳で、「シン・ゴジラ」は想像を超えて素晴らしい作品だった。大画面で鑑賞しながら、映画的な快感にこんなにゾクゾクしたのは久しぶりだ。とにかく情報量も多いし、しっかりしたメッセージもある。ゴジラと言えば「核」というテーマは切り離せないが、劇中でもこのテーマには言及して踏み込んでいたし、骨太の国産映画としてしっかりと今観るべき作品になっていた。

 

ゴジラの熱狂的なファンの方は違う感想を持つかもしれないが、スクリーンで観る価値は十分にあると思う。