映画を観て音楽を聴いて、感想を書くブログ

会社員バンドマンが綴る、映画と音楽のブログです。過去の名作から、新作まで綴っていこうと思います。音楽についても書くかもしれません。

「ブレードランナー2049」を観た(感想&解説アリ)

ブレードランナー2049」を観た。

f:id:teraniht:20171031222650j:image

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ライアン・ゴズリングハリソン・フォードジャレッド・レト
日本公開:2017年

 

1982年公開、リドリー・スコット監督「ブレードランナー」の35年ぶりの続編が遂に封切られた。監督は「メッセージ」「プリズナーズ」「ボーダーライン」など、素晴らしい名作の数々を残してきたカナダの鬼才ドゥニ・ヴィルヌーヴ。公開直後の週末における全米興行収益が、3,150万ドル(約36億円)と予想をはるかに下回る結果で、製作費が1億5,000万ドル(約170億円)を超える本作にとっては厳しい滑り出しだと報道されているが、映画の完成度としてはどうなのか。今回の感想はネタバレ無しで。

 

感想&解説

82年公開の「ブレードランナー」は、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」というフィリップ・K・ディックが1968年に発表した小説を原作にしているが、そこにリドリー・スコットが思いつく限りのアイデアや、ギミックを入れ込んで作られた、名作SF映画としてあまりに有名な作品だ。編集バージョンが5パターンあるのも特徴で、現在は「ファイナルカット版」と呼ばれるバージョンが主流だろうが、当初はあった説明用のナレーションを削除したり、本来は必要なシーンが編集により削られたりと、そもそも「ブレードランナー」とは、作品内の世界観や設定を完全に説明してくれるような「親切な映画」だとは言いづらい。だが、むしろそういった謎が多く、説明不足の部分が、当時の映画マニアの中で憶測や想像を生み出し、熱狂的なカルト映画として人気を博していった経緯があった。

 

またそれと同時に「サイバーパンク」という世界観の代表作として、シド・ミードの美術デザインや、ヴァンゲルスのサウンドなどが非常に高いレベルで融合した作品でもあり、その後に出現した世界中の様々なポップカルチャーに影響を与えたのは、周知の事実だろう。だが、公開直後の興行収益としては、当時大ヒットしていたスティーブン・スピルバーグ監督の「E.T.」の陰に隠れてしまい、ほぼヒットせずに打ち切りとなったのも有名な話で、その後いわゆるVHSビデオの普及と共に、何百回も鑑賞する様なコアなリピーターを生み出し、不動の人気を確立したという歴史がある。

 

さて、そこで続編の「ブレードランナー2049」だが、結論から言ってしまえば、この作品も前作と同じく、いわゆる「一般受け」する映画では全く無いと思う。35年前の「ブレードランナー」がそうであった様に、分かりやすいカタルシスやアクションシーンが用意されている娯楽映画ではなく、レイアーがいくつも重なり合い、溶け合って、独自の世界観を構築している作品なので、一回観ただけでは全てを理解するのは難しいし、語りづらい。非常にアート的だし哲学的な映画だ。だが、それこそがブレードランナーの続編として、正しい姿なのだとも言える。

 

上映時間も166分あり、作品のトーンも暗く重い。若い観客たちがデートムービーとして選ぶ作品では無いし、気楽にエンタメを求めて一年に2〜3本の映画を観るくらいの観客にもマッチしないだろう。正直「つまらなかった」とネットのレビューに書かれても仕方ないと思うし、ファミリーで観たらその後の食事は気まずい思いをするかもしれない。ここが同じSF映画でも「スターウォーズ」シリーズとは違うところだ。

 

ブレードランナー」という有名タイトルの名前だけが独り歩きし過ぎている気がするが、「ブレードランナー2049」はもともと間口が広い映画ではなく、より「コアファン」の為のタイトルなのだと思う。だからこそファン同士の賛否両論が生まれ、議論の対象になると思うが、そういう意味では、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とスタッフは今作で最高の仕事をしたと思う。

 

まず大袈裟では無く、映画を構成する全てのシーンが美しい。「007 スカイフォール」の撮影監督も務めた、ロジャー・ディーキンスの功績が大きいのだろうが、なるべくCGを使わずセットを作り込んで撮影を行ったという、今作のビジュアルは他の映画では観たことのない、とてつもないレベルに達している。このシーンの連なりを観ているだけで、正直この映画を観る価値は十分にあるだろう。またライアン・ゴズリングハリソン・フォードを含む俳優陣の熱演ぶりも言うに及ばずで、しっかりとブレードランナーの世界観の一部に成りきっている。

 

劇中で「魂を持たない」と言われるレプリカント達が、どれだけ利他的な行動を取り、恋をして、人間らしい行動を取るか。また「生殖」が可能なレプリカントはもはや、人間とどう違うのか?、この物語はSF映画の普遍的なテーマである、人間と究極の進化を遂げたロボット(今回はアンドロイド)を比較しながら、「人間の人間たる所以とは何か?」を問う物語なのである。当然だが、劇中で明確な答えは提示されない。

 

だが、前作「ブレードランナー」のラストシーン。寿命の定められたレプリカントのロイが降りしきる雨の中、デッカードを助けたあのシーンと、今作のラストを重ねて観ると、この「ブレードランナー」というシリーズに込められたテーマの一端を感じる気がする。これを単に人類に対するペシミスティックな視点だと簡単に言い切れるかは、難しいところだが。

 

繰り返しになるが、本作は説明不足なシーンも多数あり、キャラクターの設定や言動も謎が多い。だが、これこそが「ブレードランナー」の続編に相応しい。少なくとも、個人的にはブルーレイは必ず買って、何度か観直したいほどに好きな作品だった。この難しい主題の映画を作り上げた、監督のドゥニ・ヴィルヌーヴを筆頭に、この「ブレードランナー2049」からは、関わった製作スタッフの「魂」を感じる。それは、まるで本作における「K」のようだ。一時的な興行収益とは関係なく、これこそSF映画史に残る至高の一作だと思う。