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映画「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」ネタバレ感想&解説 新進気鋭ビー・ガン監督の心意気は炸裂しているが、まるで138分のMVを観ているような作品!

「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」を観た。

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2015年に公開された初長編監督作「凱里ブルース」が注目を集め、2020年に日本でも公開になった中国の新世代監督ビー・ガン。彼の長編二作目が本作「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」だ。中国・フランスの合作映画らしい。今回は二番館で鑑賞したので2Dバージョンだったのだが、途中に3D演出のワンシークエンスの長回しシーンが入るというギミックがあり、話題になっていた。新進気鋭の大型新人監督ということで思わず観に行ってしまったが、感想はどうだったか。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ビー・ガン

出演:ホアン・ジュエ、タン・ウェイシルビア・チャン

日本公開:2020年

 

あらすじ

父の死をきっかけに、何年も距離を置いていた故郷の凱里へ戻ったルオ・ホンウは、そこで幼なじみである白猫の死を思い起こす。そして同時に、ルオの心をずっと捉えて離れることのなかった、ある女性のイメージが付きまとう。香港の有名女優と同じワン・チーウェンと名乗った彼女の面影を追い、ルオは現実と記憶と夢が交わるミステリアスな旅に出る。

 

 

感想&解説

今や世界の巨匠となったポン・ジュノ監督が「2020年代に注目すべき監督20人」のリストで選出した中に、「イット・フォローズ」のデビッド・ロバート・ミッチェルや「ゲット・アウト」のジョーダン・ピール、「ミッドサマー」のアリ・アスターらに並んで本作のビー・ガンが含まれており、気になっていた監督ではあった。ただ2月の公開時には作品を観る機会がなかったのだが、東京の二番館で「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」が公開になっている事を知り、今回さっそく足を運んでみた。

 

劇中約60分を過ぎた頃に、主人公が映画館に入り3Dメガネをかけるという場面がある。そこで初めて本作のタイトルが出現し、そこからは全て3Dワンシークエンスのシーンになるというのが、本作をもっとも他の作品と差別化しているポイントだろう。ここまでが上映時間の約半分くらいなので、明確にこのシーンを中心として映画の前半と後半に分かれている。よって今回は2Dバージョンの鑑賞だった為、この作品の本質と監督の意図は完全には掴んでいないかもしれない。ただ、正直なかなか本作をこれから3Dで鑑賞する機会は少ないだろうから、その前提の感想として読んで頂ければ幸いである。

 

まず、このビー・ガン監督の「今までの映画を壊してやる」という気概が、スクリーンからビンビンに伝ってくる。”新しい映画の表現”を探求するというスタンスはクリエイターとして素晴らしいと思うし、実際に後半のワンシークエンスシーンが始まると、この映画はいきなり魅力的になる。夢の中に迷い込んだような不可思議なシーンが連続し、現代劇なのだがダークファンタジーの世界観という、あまり過去になかった作風となっていて面白い。鑑賞ながら思い出したのは、「ねじまき鳥クロニクル」という村上春樹の小説だ。もちろんストーリーはまったく違うのだが、後半に進行するにつれ、ズブズブと奇妙な世界観に迷い込む感じが似ていると思ったのだ。

 

例えば、映画は後半こんな具合に進行する。主人公が3Dメガネをかけてタイトル画面が明けると、場面が変わる。いきなり同じ主人公が洞窟の中にある部屋で目覚めるのだ。しばらく辺りを彷徨い、そこで見つけた小さな扉を開けると、そこから牛骨を被った少年が出てくる。ここから脱出したければ勝負をしろという事になり、彼と卓球で戦うことになるのだが、その少年はかなり弱い。その後、彼に卓球で勝った主人公は少年とスクーターに乗って洞窟を出ることになる。しばらく走ると、そこには何故か一人乗りのロープウェイがあり、そこで少年とは別れることになるのだが別れ際に「空を飛べるラケット」をくれる。そして、ロープウェイに乗ってどんどん下がっていくと次はビリヤード場がある。

 

そこには女主人がいて、若い男たちから絡まれている彼女を助ける。その後、そこからまた脱出する必要がある展開になり、彼女と例の卓球ラケットを振ると本当に空を飛べて、次はカラオケ大会をやっている会場に降り立つのだ。これだけを読むと、こんな映画があるのか?と思われるだろうが、かなり展開は端折ってはいるが本当にこんな具合に映画は進む。しかも、もちろん実際にはカットを割って編集しているのだろうが、見た目的には「ワンカット」で、である。ここから先も理屈が説明できないような展開がラストまで続き、美しくも不思議な余韻を残して映画は終わる。

 

 

逆に前半70分は、まるでウォン・カーウァイの作品を観ているようだ。気取ったセリフ回しとカメラワークで、いわゆる「幻の女」を追うという展開なのだが、2000年「花様年華」を猛烈に思い出した。そこに男が泣きながらリンゴをまるまる一個食べる長回しや、下手なカラオケを1曲聴かされるという突飛なシーンがいきなり挟み込まれる。とにかくストーリーとしてはほとんどあってないようなもので、意味深長なカットとセリフが延々と続くのだが、ほとんど白昼夢のような展開の連続なのだ。このあたりが本作の評価が分かれるところだろう。

 

そして、個人的な評価としては「否」の方だ。これは完全に好みの問題だと思うので、本作が好きだという意見も理解できる。”ストーリー”というしがらみを離れて、感度の高い映像美と奇抜なシーンが連なる本作は、アート色が強く芸術作品のような風格すらある。だが、僕が「映画」に望むものは「良いストーリー」と「映画として優れた演出」なのだ。そこへいくと、本作「ロングデイズ・ジャーニーこの夜の涯てへ」は、138分のMVを観ていたような感覚であった。ただ、作家性という意味ではかなり確立されている監督だと思うので、ハマる人にはかなり中毒性のある映画だと思う。

採点:5.0点(10点満点)