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映画「Away」ネタバレ感想&解説 監督がたった一人で作り上げた、観念的なアートアニメ!

「Away」を観た。

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ラトビアの新鋭クリエイターである、ギンツ・ジルバロディスがたったひとりで監督・製作・編集・音楽などを担当し、約3年半の歳月をかけて完成させたという長編アニメーション作品。本作がデビュー作となるらしい。世界最大のアニメーション映画祭として知られるアヌシー国際映画祭では、革新性ある長編作品を対象としたコントルシャン賞を受賞。また日本の新千歳空港国際アニメーション映画祭でも、審査員特別賞を受賞するなど各国で高い評価を獲得したようだ。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ギンツ・ジルバロディス

出演:なし

日本公開:2020年

 

感想&解説

81分の上映時間の間、セリフは一切なし。飛行機事故で島に不時着した少年が、謎の巨大な黒い影に追われながらも、さまざまな土地をオートバイで駆け抜けていくという映画だ。予告編を初めて観たときから観たいと思っていたが、いわゆる日本の高品質な描き込まれたアニメーションとは違い、主人公のキャラクター造形も可愛いとは言い難いし、表情も単純化されており決してキャッチーとは言えない。だが作品が放つアートな世界観のおかげで、観ている間この「Away」という映画の中に引き込まれる。2016年「レッドタートル ある島の物語」というジブリ配給のフランス映画があったが、雰囲気は近いかもしれない。この映画は理屈ではなく”感覚”で観る作品なのだと思う。

 

オープニング、パラシュートが木に引っかかった状態の男の子が目を覚ます。どうやら、ここがどこかも解っていないようだ。すると突然、黒い大きな人型の影が近づき、この主人公を飲み込もうとする。急いでパラシュートを脱ぎ、走り出す主人公。すると走る先には丸いアーチのようなものがあり、そこから中に入るとそこはオアシスのような場所だった。しばらくあたりを探索するうちに、バイクと必要な持ち物が入ったリュックを発見する。リュックの中には望遠鏡や地図があり、この場所が島になっておりどうやら島の端っこには街があることを発見する。さらに人懐っこい小鳥と仲良くなり、この一人と一羽は街を目指して、さらに黒い影に捕まらないようにバイクで走り出す。

 

これだけ聞くとまるでゲームのストーリーのようだが、本当にゲームに近い作りだと思う。各場面には、まるでゲームのステージのように「眠りの井戸」などのチャプター名が付いており、主人公はそのステージをクリアしていく。ネットでも同じ意見が散見されたが、セリフがほとんどないという作風や環境音とBGMのバランス、敵である影の造形なども含めて、日本のゲームクリエイターである上田文人氏が監督した「ICO」「ワンダの巨像」「人喰いの大鷲トリコ」を強烈に想起した。あとは海外のインディーズ作品「風ノ旅ビト」だろうか。部分的にはジブリ作品からの影響も見て取れるし、監督は日本のポップカルチャーからかなりインスパイアされてこの作品を作ったようだ。

 

この黒い影が何なのか?なぜ追ってくるのか?黄色い小鳥が主人公を助けてくれるのは何故か?などは、特に作品内での説明はない。終わり方も街に辿り着いた途端、唐突にエンディングになるし、全体的に説明の要素を極力排したシンプルな造りになっているので、逆にこちらの想像を掻き立てられる。個人的には、あの黒い影は飛行機事故で奇跡的に助かった主人公を追う「死の象徴」で、黄色い小鳥は逆に「生命の象徴」なのだと感じた。最初は自分でエサを取ることもままならなかった小鳥が、主人公との旅を通じ、さらに同じ白い鳥という仲間を得ることにより成長し、文字通り”羽ばたいて”いく。

 

ここからネタバレになるが、雪山で力尽き倒れ込んだ主人公に、黒い影が追い着き覆いかぶさると、主人公はまるで子宮のような細い道を通り、胎児のように身体を丸めて闇に落ちていく。まるで産まれる前の"無"に戻ろうとしているかのようだ。だがそこに黄色い小鳥が現れ、主人公をもう一度現世に引き戻そうとする。このあたりは極めて観念的な表現だが、”死から生への道”をうまくビジュアル化しているシーンだと思った。この作品の魅力は、アニメならではの自由なカメラワークとこのビジュアルイメージだと思う。メインポスターでも使われているが、水面を走るバイクの上を無数の白い鳥が飛ぶシーンなど見惚れてしまうほど美しい。この映画はハラハラしたり高揚したりするタイプのアニメではない。逆に心が落ち着き、まるで優雅な旅をしているような気分になる。観ている間、心が癒されリラックスできるのである。

 

最後にどうやら賛否両論ある日本版オリジナルエンディングについてだが、日本のバンド「the pillows」の「MY FOOT」という楽曲にのせて、映画内の印象的なシーンを繋いだ映像と、日本人スタッフのクレジット、監督からのメッセージが流れるという恐らく4分くらいのものだ。このthe pillowsの曲が割とゴリゴリのロックサウンドなので、確かに作品の静かな余韻は薄れるのだが、個人的にはダイジェストとしてもう一度映画の各シーンが観返せるという意味では良かったと思う。

 

結論、劇場で観れて良かった作品だった。とても素敵な作品なので、予告編を観て少しでも興味を持った方なら観ても損はないと思う。また、インディーゲームが好きな方にもオススメだ。監督であるギンツ・ジルバロディスは本作の成功で、もう少し大きなバジェットと体制で次回作が作れると思うので、おそらくブルーレイでも発売されるであろう本作「Away」を観ながら、数年後の次作を楽しみに待ちたい。

採点:7.0点(10点満点)