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映画「ヒッチャー」ネタバレ感想&解説 故ルドガー・ハウアーの怪演が魅力のカルトスリラー!

ヒッチャー」を観た。

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2021年1月からHDリマスター版がリバイバル劇場公開されている、1986年のアメリカ映画。出演は「ブレードランナー」のロイ・バッティを演じたルトガー・ハウアーと、「アウトサイダー」のC・トーマス・ハウエル。さらにクエンティン・タランティーノ監督「ヘイトフル・エイト」でデイジー役を怪演した、若き日のジェニファー・ジェイソン・リーも出演している。監督は本作がデビュー作だったロバート・ハーモンで、その後ジョン・トラボルタ主演の「Myベスト・フレンズ」などを撮っているが、本作が彼のキャリアの中でもっとも評価された作品だと思う。ジャンルはルトガー・ハウアーが殺人ヒッチハイカーを演じた、サスペンススリラーだろう。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ロバート・ハーモン

出演:ルトガー・ハウアーC・トーマス・ハウエルジェニファー・ジェイソン・リー

日本公開:1986年(HD版:2021年)

 

あらすじ

陸送の仕事をするジム・ハルジーは、シカゴからサンディエゴへと向かう砂漠地帯で、1人のヒッチハイカーを拾う。その男ジョン・ライダーは、ハンドルを握るジムの喉元にナイフを突きつける。一瞬の隙を見てライダーを車から突き落としたものの、その後も彼は執拗にジムを付け狙う。警察やウェイトレスのナッシュも巻き込み、事態は最悪の方向へと転がっていく。

 

パンフレット

価格800円、表1表4込みで全24p構成。

A4サイズでオールカラー。ロバート・ハーモン監督への2020年度のインタビューや、映画評論家の柳下毅一郎氏や川口敦子氏、また作家の中原昌也氏や映画監督の朝倉加葉子氏によるコラムが掲載されている。

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感想&解説

J・J・エイブラムス監督やクリストファー・ノーラン監督が、影響を受けた作品として挙げている本作がリマスターされたという事で、さっそく鑑賞。まったくの初見であったが、80年代らしいまったりとしたテンポ感の作品ながら、ルトガー・ハウアー演じるジョン・ライダーというキャラクターが非常に魅力的でスクリーンに引き込まれた。ストーリーとしてはシンプルで、車の陸運をしている主人公ジムがシカゴからカリフォルニアに向かう道で、ヒッチハイカーの男を見つける。長時間の運転から睡魔に襲われ話し相手が欲しかったジムは、ついヒッチハイカーを乗せてしまうが、その男が完全なサイコパスで命を狙われる羽目になるという話だ。


ここからどうやって話を展開させるのかと観ていると、なんと序盤で喉にナイフを突きつけられたジムが、このヒッチハイカーを車の外に突き落とすことに成功する。この時点で車に乗っているジムにとって、このジョン・ライダーという男は脅威ではなくなるのだ。そのまま意気揚々とハイウェイを走り続けるジム。すると彼の車を家族連れのワゴンが追い抜いていくが、そこになんとあのジョン・ライダーが乗っていることを発見してしまう。慌てて彼らの車を追い、ワゴンを止めようとするが家族はそのまま走り去ってしまい、遥か前方で車を発見したときには全員が惨殺されている。ここから、主人公ジムを執拗に追うジョン・ライダーとの攻防戦が描かれることになるのだ。


プロットから見ればスティーブン・スピルバーグの「激突」のような、何故か不条理に追い掛け回される男を主人公にしたスリラーだが、本作はこのジョン・ライダーというキャラクターの存在が映画に深みを与えていると思う。まずこのジョン・ライダーがなぜヒッチハイクをしながら、人々を惨殺していくのか?の理由はわからない。またなぜ主人公ジムの行く先々に現れて彼を追ってくるのか?も劇中では謎だ。ただ、このジムが最初の家族たちを助けようと車を止めようとする辺りで、この主人公が完全に”善意”の象徴であると感じる。一度は殺されかけた凶悪な相手に対して、家族の命を救うためにスルーせずに果敢に挑んでいく姿は、圧倒的な”悪”であるジョン・ライダーとは正反対の存在だからだ。ジョン・ライダーが何度も「俺を殺せ」とジムに迫るシーンがあることから、彼らは人間における”光と影”を表しており、本当はジョン・ライダーも影の存在である自分をジムに止めてほしいのだという解釈も可能だろう。これは「なぜ自分を追うのか?」と質問するジムに対して、「自分で考えろ」と答えるジョンのセリフでもうかがえる。


二人の関係を表現していると思われる、もっとも特徴的なシーンは中盤のカフェで向かい合って座る場面だ。追いつかれたという恐怖のあまり机の下で震える手に銃を持つジムに対して、ジョン・ライダーは引き金をひけと迫り、銃口に指を入れる。そしてジムのまぶたにコインを置いて去っていくのだが、これはヨーロッパなどで行われる、硬貨を死者のまぶたの上に置いてあの世への通行料とする風習からの行動だろう。ジョンは銃の中には弾が入っていない事を見抜いている為、いつでもジムを殺せるはずなのにそのまま、弾を渡して去っていくのである。このシーンは同性愛的な関係を匂わせるという意見もあるそうだが、個人的にはもっと二人のスピリチュアルなつながりを感じさせる場面だと感じた。後半で、警察に確保され連行中のジョンが護送車から逃亡すると、突然ジムが予言するシーンがあるが、ここにもジョンが逃亡することを確信するロジックが、彼にはなにも無いのである。これは二人が精神的につながっているので、ジョンの行動が理解できたとしか解釈のしようがない。


正直、終始警察の行動はトンチンカンで、ツッコミどころは多い。特にヒロインであるダイナーのウエイトレスがジョンによって誘拐され、トラックで引き裂かれるシーンにおける警察の行動は、あまりに無責任だろう。だがこういうユルさも含めて、80年代のカルトムービーぽくて好感が持てるし、エンディングの思い切りの良いダラダラしない感じも好印象だ。後世に残る名作という訳ではないかもしれないが、2019年に亡くなったルトガー・ハウアーの雄姿が拝めたという意味で、今回のHDリマスターを機に「ヒッチャー」が劇場で鑑賞できたのは良かったと思う。

採点:6.5点(10点満点)