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映画「ザ・スイッチ」ネタバレ考察&解説 地味で展開が想定内過ぎる、退屈なホラー映画!

「ザ・スイッチ」を観た。

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名作「ハッピー・デス・デイ」シリーズを手掛けた、クリストファー・ランドンが監督を務めたホラー映画。「名探偵ピカチュウ」のキャスリン・ニュートンが殺人鬼の身体と入れ替わってしまった女子高生を演じており、逆にもともと殺人鬼でありながら女子高生と入れ替わったキャラクターを、「ブルータル・ジャスティス」のヴィンス・ボーンがコミカルに演じている。ホラー映画のプロダクションとしては高いブランド力を誇り「透明人間」「ゲット・アウト」など数多のヒット作を手がける、「ブラムハウス・プロダクションズ」が製作している事でも本作は注目されている。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:クリストファー・ランドン

出演:キャスリン・ニュートン、ヴィンス・ボーン、アラン・ラック

日本公開:2021年

 

あらすじ

家でも学校でも我慢を強いられる生活を送る冴えない女子高生のミリー。ある夜、アメフトの応援後に無人のグラウンドで母の迎えを待っていた彼女に、背後から指名手配犯の連続殺人鬼ブッチャーが忍び寄る。鳴り響く雷鳴とともにブッチャーに短剣を突き立てられたミリーだったが、その時、2人の身体が入れ替わってしまう。24時間以内に入れ替わりを解かなければ、二度と元の身体に戻れない。ミリーは新たな殺戮を企てるブッチャーを相手に、自分の身体を取り戻そうとする。

 

感想&解説

簡単に一行で本作を説明するとすれば、「気弱な女子高生と連続殺人鬼の身体が入れ替わってしまうホラー映画」だろう。ここから想像できる展開に対して、どれだけ予想外のストーリーに飛躍できるか?がこの手のジャンル映画の楽しみなのだが、残念ながら本作はすべての展開が想像の範囲内から出ない作品だ。伏線の張り方もあまりにミエミエで、「5分時計を先に進めておいた方がいい」などという不自然なセリフが出た段階で、後半で何かこのセリフが生きてくるのだと思いきや、本当に何のひねりもない展開で出てきて唖然としてしまう。これがあの「ハッピー・デス・デイ」シリーズを手掛けた監督の新作かと疑いたくなる出来だ。この予告編以上のことが特に何も起こらないのだ。

まず映画冒頭は完全に「13日の金曜日」をパロディにした展開で、ヴィンス・ボーン演じる殺人鬼がマスクを被って、ある屋敷にいた若い男女4人を殺害するシーンから始まる。ここは「R15+」らしいゴアシーンもありつつ、イチャイチャしている若者が殺されるというホラー映画の定番シーンがこれでもかと繰り広げられる。カメラワークからカット割りまで”お約束演出”だらけで、これはこれからのツイスト展開に備えて「まずは定番ホラー映画をしっかり観せますよ」という事だと理解しながら鑑賞していると、殺人鬼が「ラ・ドラ」なる短剣をその屋敷から盗んだことが解る。ちなみに何故このブッチャーという殺人鬼が人々を殺しているのか?は、”伝説の殺人鬼だから”という説明以外はよく分らない。

 

更に本作のヒロインであり、学校では冴えないキャラクターのミリーは父親を亡くしていること、そのせいで母親は酒に溺れていること、ミリーには警察官の姉がいること、LGBTと黒人の友人がいることなどが説明され、バタバタと母親の迎えを待っていたミリーが殺人鬼ブッチャーと出くわし、肩に短剣を突き立てられるシーンとなる。警察官である姉が現場に駆け付けるとブッチャーは逃げ、次の日の朝に二人の人格が入れ替わっていることが解り、ようやくここから映画が面白くなってくると思いきや、「君の名は」でも観た記憶のある”身体が入れ替わった事に気づいた直後に自分の胸を揉むシーン”や、友人たちとの「私は本当はミリーなのよ」からの「信じる/信じない」のドタバタシーンが続き、既視感でうんざりしてくる。

 

挙句の果てに、これらの登場キャラクターたちが信じられない行動を取り始めて、心がどんどんとスクリーンから離れていくのだ。例えば、よりによって母親が勤める服飾店の更衣室に逃げ込んだ(中身はミリーの)ブッチャーが、お互いに顔は見えないが会話するシーン。見も知らないお客相手に夫の名前から死んだことまでベラベラと母親が話するシーンは、男性の声になったからこそ母もミリーも素直に話が出来たという意図のシーンだと思うが、あまりにシチュエーションが不自然すぎる。さらにミリーの好きな男子とブッチャーの身体であるミリーが車の中でキスしそうになるシーンも、コメディシーンのつもりなのかもしれないが全く笑えないし、身体は女子高生なのに中身は殺人鬼にキスしようとする逆のパターンなら納得するが、さすがにこれは説得感がない。作品の中でこれらのシーンに、”感動”や”笑い”といった何か特別な意味を持たせようとする余り、どの場面もあまりに不自然になってしまっているのだ。

 

さらに学校の中でガンガン人が死んだり、顔バレしている殺人鬼が不自然なマスクをして街をうろうろしているのにまったく警察が介入してこないとか、ブッチャーに人格が入れ替わったとたんに化粧やファッションが変わり周りからモテるようになるミリーとか(ブッチャーは化粧が上手いという事か?)、ブッチャーは入れ替わりの時間切れのときに「手遅れだ」と嬉しそうだが、散々ミリーの身体に「弱い」など文句を言っていたのに彼は自分の身体に戻りたくないのか?とか、キャラクターと演出がブレていて観ていて「?」が頭に浮かびまくる。その時々で思いついたシーンやセリフを入れているとしか思えないのである。

 

さらに極めつけはラストシーンだろう。ここからネタバレになるが、お互いの身体に再び戻って殺人鬼になったところを、警察官に射撃されて倒れるブッチャーの様子を見せておきながら、場面が変わったらなぜかピンピンして自宅までミリーを殺しに来るブッチャーを観たときは、さすがに映画館の椅子からずり落ちそうになった。銃で撃たれても平気とはもはや人間ではないのかもしれないが、なぜか「金的蹴り」は思いっきり効いていたりと、このあたりに至ってはもうこの映画について考えるのを諦めたくなる。正直どうでもよくなるのだ。

 

そもそも「短剣で刺されると身体が入れ替わる」という大前提のファンタジックな設定は置いておくとしても、脚本の出来がまずいと思う。特にこちらの想定を超える面白いシーンがある訳でもなく、想定外のツイスト展開があるわけでもない。意外と地味で淡々しており、全体的に非常に退屈なのである。これはホラー映画としては致命的だろう。また家族の絆を感じさせる感動的なシーンになると、判で押したようにダサいピアノ曲が流れる演出が何回も出てくるが、これにも辟易とさせられた。本作で良かった点という意味では、ヴィンス・ボーンのコミカルな女子高生演技と、ラストの家族三人の協力で殺人鬼に勝つという展開くらいかもしれない。

 

自分が中学生くらいであればきっと楽しめたのだろうが、残念ながら本作は「R15+」ということで、そこも中途半端な本作。ホラー映画としてもコメディ映画としても、煮え切らない作品であった。クリストファー・ランドン監督の「ハッピー・デス・デイ」はタイムループとスラッシャーホラーが融合した傑作だったが、今回の「ザ・スイッチ」は同じ監督の作品とは思えないほど冴えない映画だったという印象だ。この”人間の中身が入れ替わる”という設定自体も、「転校生」や「フェイス/オフ」など珍しくない題材だし、ホラーと融合させたがゆえの面白さも正直生まれていなかったと思う。個人的に相性が合わなかった部分はあると思うが、近年の「ブラムハウス・プロダクションズ」作品のなかでも、特に残念な出来の一作であった。

採点:2.5点(10点満点)