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映画「ジェントルメン」ネタバレ感想&解説 ガイ・リッチーが仕掛ける、クライムサスペンス復帰作!

「ジェントルメン」を観た。

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シャーロック・ホームズ」「コードネーム U.N.C.L.E.」などを手掛け、2019年にはあの「アラジン」実写版を大ヒットに導いたガイ・リッチー監督による、久々のクライムサスペンス。出演は「インターステラー」のマシュー・マコノヒー、「パシフィック・リム」のチャーリー・ハナム、「クレイジー・リッチ」のヘンリー・ゴールディング、「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」のコリン・ファレル、「ラブ・アクチュアリー」のヒュー・グラントなどで、この豪華なキャストたちがそれぞれ一癖ありそうなキャラクターを怪演している。世界興行収入は1億1500万ドルを突破しており、海外メディアからもエンドユーザーからも絶賛されている本作。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ガイ・リッチー

出演:マシュー・マコノヒーコリン・ファレルヒュー・グラント

日本公開:2021年

 

あらすじ

イギリス・ロンドンの暗黒街に、一代で大麻王国を築き上げたマリファナ・キングのミッキーが、総額500億円にも相当するといわれる大麻ビジネスのすべてを売却して引退するという噂が駆け巡った。その噂を耳にした強欲なユダヤ人大富豪、ゴシップ紙の編集長、ゲスな私立探偵、チャイニーズ・マフィア、ロシアン・マフィア、下町のチーマーといったワルたちが一気に動き出す。莫大な利権をめぐり、紳士の顔をした彼らによる、裏の裏をかくスリリングな駆け引きが展開する。

 

パンフレット

価格880円、表1表4込みで全32p構成。

オールカラー縦小型。表紙はマット紙でクオリティは非常に高い。映画評論家大森さわこ氏、翻訳家前むつみ氏のコラムや、リトル・デイヴ氏によるトリビア集、プロダクションノートが記載されている。キャラクター紹介の写真は多いのだが、キャストや監督インタビューが掲載されていないのは残念だった。

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感想&解説

本作を観ると、やはりガイ・リッチーのデビュー作である1998年「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」や、続く2000年の「スナッチ」の雰囲気を強く想起する。時系列を入れ替える手法や早いカット割による編集、多くの登場キャラクターたちが入り乱れる脚本と荒っぽいセリフの数々、”スタイリッシュ”と評される映像美、ロックを多用する音楽センスなど、類似点はかなり多いと言えるだろう。スクリーンで起こっていることに集中しながら、頭の中で登場人物の相関図を描きながら鑑賞するタイプの作品で、キャラクターが死んだり裏切りがあったりと状況が変化するたびに、”パズルのピース”を取り換えながらはめていく感覚が楽しい映画だとも言える。

ただやはりガイ・リッチーも「スナッチ」から約20年を経て、抜群にストーリーテリング力が洗練されたと感じる。時系列が前後したりキャラクター同士の関係が頻繁に変わったりと、普通なら複雑になりそうなお話であるにも関わらず、解りやすく関係図を整理しながら鑑賞することができる。これは映画の構成上、回想と現実を行ったり来たりするという、ブライアン・シンガー監督の「ユージュアル・サスペクツ」に近い構成を取りながらも、ヒュー・グラント演じる私立探偵フレッチャーとチャーリー・ハナム演じるレイの二人が、しっかりと状況を整理しながらストーリーを進行していってくれるからだろう。映画冒頭から、私立探偵のフレッチャーが巨大な大麻組織を持つマシュー・マコノヒー演じるミッキーとその部下であるレイを脅迫するために、彼らの犯罪の証拠を集めてきてそれらのシーンをひとつひとつ説明していくという構成なので、観客はレイと同じ目線でフレッチャーの話を聞くことになる。だが後半はこの構造がガラッと変わり、それによって物語自体も大きく変化していくのがスリリングなのだ。


おおよそのストーリー展開としては、以下だ。夜、レイという男の自宅リビングに私立探偵フレッチャーが忍び込む。「殺すぞ」と意気込むレイをなだめながらゴシップ誌の編集長に雇われたというフレッチャーは、密かにレイと彼のボスである大麻王ミッキーの行動を監視し彼らの犯罪の証拠をリサーチしていたという。これらが公になれば、二人の組織はマズイことになるだろうから2,000万ポンドを払えという言うのだ。またフレッチャーはこの調査を元にした映画の脚本も書いており、映画会社に売り込むぞとユスリをかける。ここからフレッチャーが調査した内容を、まるで「映画の脚本」のようにレイに説明していくという流れになる。過去の回想シーンとフレッチャーとレイの会話シーンが交互に描写されるという構成で、この映画は進んでいくのだ。


ロンドンの暗黒街では、一代で大麻王国を築き上げたアメリカ人ミッキー・ピアソンが、引退して最愛の妻のロザリンドとともに平穏に暮らす為に、総額500億円にも相当するといわれる大麻ビジネスを売却して引退しようとしていた。彼はパーティで知り合い意気投合したユダヤ人富豪のマシュー・バーガーに、ビジネスのすべてを破格である4億ポンドで売却することを持ちかける。ミッキーは大麻農園をイギリス貴族が所有する敷地の地下に隠しており、公爵たちに金を払うことで隠してきたのだが、そのうちの1つをマシューに案内し運営方法を説明する。だが、そのころ中国系マフィアもミッキーの大麻ビジネスに目をつけ、ドライ・アイと呼ばれるマフィアの若頭が買収に乗り出していたが、ミッキーはその提案をあっさりと断る。


ようやくマシューとの取引がまとまりかけたとき、何人かの屈強な若者によって農場が襲撃され、大麻が大量に盗まれるという事件が勃発する。その犯人は「トドラーズ」と名乗るボクシングジムのゴロツキ集団で、自分たちの犯罪をYoutubeにアップしていた。このジムで指導していた”コーチ”はこの襲撃事件のことを知り、報復を恐れてレイのもとに謝罪に行く。どうやって農園の場所を知った?と詰め寄るレイに、トドラーズに農場の情報を流した下っ端の中国マフィアの身柄を差し出すコーチ。そのころゴシップ誌の編集長ビッグ・デイブは、パーティでミッキーに無視されたことに腹を立て、探偵であるフレッチャーに彼の身辺を調査させていた。そんな時、ミッキーと持ちつ持たれつの関係にある貴族の娘ローラが行方不明になり、ミッキーの命令でローラを見つけたレイは、彼女と一緒にいたアスランというロシア系の青年を誤って殺害してう。だが、その様子をフレッチャーは見ていたのだ。


ここからネタバレになるが、中国系マフィアが大麻農場の情報源だったことで、ミッキーは事件の黒幕がドライ・アイのボスであるジョージ卿であると考え、彼を痛めつけビジネスに関わるなと脅迫する。だが実際に「トドラーズ」に農場の場所を教えたのは、若頭のドライ・アイだった。ジョージ卿は彼に勝手なマネをするなと釘を刺すが、下剋上を狙うドライ・アイに逆に殺されてしまう。そしてドライ・アイは実はマシューと繋がっていたことが、フレッチャーの調査から判明する。農場襲撃の本当の黒幕はマシューだったのだ。しかし、そのマシューさえも裏切って自らが大麻ビジネスを仕切ろうと考え、ドライ・アイはミッキーの妻であるロザリンドを誘拐しようとするが、逆にミッキーに殺されてしまう。


農園が襲撃されたことを理由に4億ポンドからの値下げ交渉を始めたマシューに対し、ミッキーは彼の計略をすべて暴き、逆に恐喝することに成功する。これで仕事はすべて終わったとその場を立ち去ろうとしたミッキーは、なんとロシアンマフィアに捕まってしまう。レイが誤って殺してしまったアスランというロシア系の青年は、ロシアンマフィアの息子だったのだ。その事実を探偵フレッチャーがマフィア側にも売っており、彼は逃げ延びる。そしてマフィアの手はレイにも伸びていた。だが間一髪のところで、「トドラーズ」とコーチに命を助けられるミッキーとレイ。ラストシーンは、映画会社にこの脚本を売ろうとしていたフレッチャーを、ミッキーたちが捕えるところで映画は終わる。


本作のキャッチコピーは「一流の、紳士(ワル)たち。」というものだが、登場するキャラクターである総資産500億円の大麻王、ユダヤ人の大富豪、ゴシップ紙の編集長、私立探偵、チャイニーズ・マフィア、ボクシングジムのトレーナー、ロシアン・マフィアらは全員が”悪人”であり、それぞれ裏の顔がある。彼らがこの500億円の大麻ビジネスの利権を巡って、裏切り騙し合うというのが本作の面白さの肝だが、物語はかなり目まぐるしくドラマチックに状況が変化していく。フレッチャーの劇中ナレーションで、序盤からミッキーがドライ・アイを撃ち殺す”空想のシーン”が描かれて巻き戻されるという、「映画的に演出された」場面もあるくらいだ。ここで前述のように、この映画の進行が「フレッチャーの語り」という部分が活きてくる。


そもそもフレッチャーは、劇中でも「映画」のことをよく話題に出している。例えば「35mmフィルム」「1:2.35のワイド画面」「中国版ジェームズ・ボンド」「コッポラの『カンバセーション…盗聴…』」などなどだ。さらに「俺と一緒に映画の旅に出ようじゃないか」というセリフもあるように、観客が鑑賞しているこの「ジェントルメン」という映画は、実はフレッチャーが脚色し、映画会社が作った”映画”だったという見方もできる。ラストシーンで、フレッチャーが映画の脚本を売っている映画会社は、本作を制作配給した「MIRAMAX」だという点もそれを裏付けるポイントだ。そういう意味で、本作の真の主人公はマシュー・マコノヒー演じるミッキーではなく、ヒュー・グラント演じるフレッチャーだと言えるかもしれない。この設定のおかげで中国マフィアのボス”ジョージ卿”がゲロを泉のように噴射するシーンや、妻ロザリンドが撃った”金の銃”のあまりに小さすぎる銃創など、荒唐無稽なマンガ的なシーンにも説得感が出る。


また劇中でかかる「CAN」や「ロキシー・ミュージック」「The Jam」「ポール・ジョーンズ」などの60~70年代の音楽や、「マーヴィン・ゲイ」や「バリー・ホワイト」などのセリフから、フレッチャーはこの時代のロックやソウルミュージックが好きなのかなと勝手な妄想が膨らんでしまう。これはすでにガイ・リッチー監督の演出力に、踊らされているという事だろう。もちろんラストシーンで捕まったフレッチャーが殺されるシーンは無い為、「どこまでが映画内映画なのか?」という設定は不明確だが、既に制作が決まっている”続編”でこの後のストーリーは語られるのかもしれない。MIRAMAX社にいるハーヴェイ・ワインスタイン風のプロデューサーがいる部屋の壁に、「コードネーム U.N.C.L.E.」のポスターが貼ってあったりとメタな遊び心に溢れた、久しぶりにガイ・リッチーらしい快作だったと思う。「007」ばりに本作のアバンタイトルもカッコ良く、朝早い回だったので正直ガラガラだったが、久しぶりに劇場で観る価値のある作品だった。ブルーレイが発売された際には、是非もう一度詳細まで観なおしたいと思う。

7.5点(10点満点)