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映画「オキシジェン」ネタバレ考察&解説 メラニー・ロランの独壇場!ワンシチュエーション・スリラーの佳作!

「オキシジェン」を観た。

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ヒルズ・ハブ・アイズ」「ピラニア 3D」のアレクサンドル・アジャが監督したSFスリラー。アレクサンドル・アジャといえばホラーやサスペンスのイメージが強いが、今回はSF密室劇に挑戦している。主演は「イングロリアス・バスターズ」や「グランド・イリュージョン」のフランス人女優メラニー・ロラン。他には「潜水服は蝶の夢を見る」のマチュー・アマルリックが”ミロ”というオペレーションAIの声で出演している。配信はNetflix限定。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:アレクサンドル・アジャ

出演:メラニー・ロランマチュー・アマルリック、マリック・ジティ

日本公開:2021年

 

あらすじ

完全に記憶を失った状態で、極低温ポッドの中で突然目覚めたリズ。ポッドの中の酸素は少なくなっており、ここから生き延びるには酸素が枯渇してしまう前に自分が何者なのかを思い出し、脱出する方法を見つけるしかない。リズはポッドを制御するAIのミロから、なんとか情報を探ろうと試みる。

 

 

感想&解説

本作はいわゆる「ワンシチュエーション・スリラー」と言われるジャンルで、特に序盤の展開は、ライアン・レイノルズ主演の2010年「リミット」を思い出す。「リミット」は木の棺桶に閉じ込められた状態で生き埋めにされた男が主人公で、手元には携帯電話だけ。埋められた場所はイラクの砂漠らしいが、棺の中の酸素も長くは持ちそうもないという状況で、携帯電話を駆使しながら男を埋めたテロリストと国防総省と交渉しながら、ひたすら救助を待つという主人公の映画だった。基本的には棺の中だけで映画は進むので、延々と主演のライアン・レイノルズだけを観るという作品だったが、本作「オキシジェン」も基本的にはそれを踏襲した内容になっている。上映時間101分の間、ほとんど主演のメラニー・ロランが”極低温ポッド”に閉じ込められている姿だけで映画が進むからだ。 

冒頭、メラニー・ロランがポッドの中で眠りから目覚めるところからこの映画は始まる。伸縮性のある包帯のようなもので包まれていた彼女は、包帯を破り周りを見回すが、なぜここに自分がいるのか分からない。彼女は記憶を失くしていたのだ。ポッドを叩いて外部に助けを求めていると、突然医療AIインターフェースの”ミロ”が起動し、ポッドの酸素残量が残り34%であることを告げてくる。ミロにポッドから脱出する方法を聞いても拒絶され、ポッド内の通信を使って警察に通報しても、自分の名前も場所も判らないために助けてもらえない。だが、このポッド内に書かれた製品情報から「クリオザリド」というメーカー名と製品番号が判明し、それを警察に伝えることには成功する。

 

その後ミロに自分自身をDNA鑑定させることで、自分がエリザベット・ハンセンという研究者であることを知った彼女はかかってきた電話で科学捜査官モローと話し、先ほどのメーカー名を調べた結果、エリザベットの収容されているポッドは3年前に製造停止されていることを告げられる。このポッドには治療目的で入れられたのではなかったのだ。錯乱するエリザベットだったが、改めて自分の過去を検索する事で、エリザベットにはレオという夫がいることを知り、彼に電話をしてみるが知らない女性が電話口に出るばかりで、レオには通じない。さらに科学捜査官モローからは”レオ”などという夫は存在せず幻覚をみているのだと言われて、ますます彼女は混乱していく。そんな中、徐々に蘇ってくる記憶の中で、レオがウィルスに侵されて弱っていく姿を思い出していくエリザベット。

 

 

そこへ再び先ほどの女性から電話がかかってくる。彼女はエリザベットをこの密室から救う方法を知るのは自分だけだと告げ、ポッドのロックを解除してはならないと忠告される。電話の女性がロック解除のパスワードを知っていることを知ったエリザベットは、強引にパスを聞き出しロックを解除すると、ポッド内は突然無重力状態になってしまう。ここからネタバレになるが、なんとこのポッドは地球から離れた6万キロ離れている場所にあるコロニーにあって、ウィルスによって滅亡の危機に冒されている人類を救うため、国防省の命令で植民地惑星に向かっている途中だったのだ。そしてエリザベットは12年間ハイパースリープしていた事、スリープから目覚めたのは酸素量減少による蘇生システムが作動したからだという事、酸素がなくなる前に再びハイパースリープに戻る必要があることを女性から説明され、「レオを見つけて」という言葉を最後に通話は途切れてしまう。

 

再び、記憶の中からレオの姿を探るエリザベット。そんな中、ミロの言葉から自分のポッドだけではなく他のポッドも近くにあることを知り、しかもレオが生存しているポッドの存在もわかる。その後、”クリオザリド”の研究アーカイブ映像をデータから見つけたエリザベットは、”クリオザリド”がネズミを使った「記憶の転送実験」を行っていたことを知り、更にその研究発表していた人物は年老いたエリザベット・ハンセン、自分自身であることを知る。なんとポッドに閉じ込められていたエリザベットは、博士のクローンであったのだ。先ほど電話をかけてきた女性は、年老いたエリザベット・ハンセン博士自身であった。残りの酸素量も5%を切り、しかもクローンである自分はもう死ぬしかないと一度は覚悟を決めたエリザベットだったが、もう一度レオと再会する為に、故障した他のポッドから空気を転送することを思いつく。そして彼女は、再びコールドスリープに入る準備を整えるのだった。

 

理由もわからずにポッドの中に閉じ込められている状態の序盤から、実はポッドが宇宙空間に漂っていたことが解り、夫レオのポッドも存在したことが発覚する中盤以降からの怒涛の展開が、本作一番の魅力だろう。段々とお話の規模が大きくなるに従い、そもそものSF設定が活きてくる展開になるのだ。それにより、そもそも”画替わり”のしないワンシチュエーションものにありがちな停滞感が少なく、適度なタイミングで新しい事実が発覚していくストーリーテリングによって、飽きの来ない作品になっていたと思う。また意味ありげな過去のフラッシュバック映像を挟み込む演出によって、謎をひっぱる編集も上手い。

 

そして、なんといってもこの極限状態を描くスリラー作品に最も貢献しているのは、もちろん主演女優のメラニー・ロランだろう。冒頭から叫び、泣き、怒りと感情の爆発を見せつける彼女の演技があってこそ本作は成り立っているのだと思う。とにかくメラニー・ロランの顔面アップがこれでもかと映し出され、画面の圧迫感がすごい。もちろんポッドの閉鎖空間を表現するための演出だろうが、これは効果的だった。またAIインターフェース”ミロ”の声を担当するマチュー・アマルリックの冷淡な演技とフランス語の語感も、いい意味でイライラさせられてハマっていたと思う。「理解不能」と同じ言葉を何度も繰り返すくだりなど、いかにもAIの反応といった感じだ。

 

数字によって具体的にポッドの酸素残量が減っていくというギミックによって、タイムリミットのサスペンス感を演出しているのも面白かったし、ラストもこの手のジャンルにしては珍しいハッピーエンドなのも良い。SF映画としては、スタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」のHALや、自分がクローンだったという展開はダンカン・ジョーンズ監督「月に囚われた男」などからの影響も感じられ、特に斬新な展開ではないのだが、最初の主人公がポッドに閉じ込められているというミニマムな設定から、実はコロニーごと植民地惑星に向かっていたという意外性と”飛躍の大きさ”が、本作の面白さを生んでいるのだと思う。

 

アレクサンドル・アジャ監督といえば、初期の「ハイテンション」や「ヒルズ・ハブ・アイズ」といったスプラッターホラーや、「ピラニア 3D」「クロール 凶暴領域」といったブラックコメディ・パニックの監督というイメージが強かったが、本作「オキシジェン」のような本格的なSFスリラーも撮れるのは意外であった。賛否両論あるようだが個人的にはかなり楽しめた本作は、Netflixに加入しているのなら観て損はしない作品だと思う。特にメラニー・ロランが少しでも好きな方であれば必見だろう。

 

 

7.0点(10点満点)