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映画「アオラレ」ネタバレ考察&解説 ラッセル・クロウは熱演ながら、展開に不自然さを感じるB級作品!

「アオラレ」を観た。

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グラディエーター」「レ・ミゼラブル」で有名なオスカー俳優ラッセル・クロウが、あおり運転を繰り返しヒロインを執拗に追い詰めるサイコパスを演じたスリラー。その被害者となるレイチェルを「否定と肯定」などに出演した、カレン・ピストリアスが演じている。監督は「幸せでおカネが買えるワケ」のデリック・ボルテ。日本ではあまり知名度の高くない監督だし、正直過去作もパッとしないのだが、本作もややその力不足ぶりを露呈してしまっていた気がする。ラッセル・クロウ本人の「アオッてんじゃねー!」という劇場予告が印象的な本作だが、ようやく都内のシネコンが再開した為、久しぶりに劇場で鑑賞してきた。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:デリック・ボルテ

出演:ラッセル・クロウ、カレン・ピストリアス、ガブリエル・ベイトマン

日本公開:2021年

 

あらすじ

寝坊してあわてて息子を学校へ送りながら職場へと向かう美容師のレイチェル。車を運転する彼女は信号待ちで止まるが、信号が青になっても前の車は一向に発進しようとしない。クラクションを鳴らしても動じないため、レイチェルは車を追い越すが、つけてきた男から「運転マナーがなっていない」と注意されてしまう。謝罪を求める男を拒絶し、息子を無事に学校に送り届けたレイチェルだったが、ガソリンスタンドの売店でさっきの男に尾けられていることに気づく。

 

 

感想&解説

ラッセル・クロウサイコパスの悪役を演じ、自分にクラクションを鳴らした女性を執拗に追いかけまわしながら、周りの人間をどんどんと殺していくというシンプルなストーリーのスリラーだ。実際にもしラッセル・クロウが主演じゃなかったら、相当に地味な作品だっただろう。上映時間は90分と短くて、ジャンルムービーとして潔いのは美点だった。ある日突然、車に乗っていた主人公が理不尽な目に遭うという意味では、スティーブン・スピルバーグ監督のデビュー作であり、73年公開の傑作「激突!」(上映時間90分!)や、今年HDニューマスター版が公開になったばかりのロバート・ハーモン監督「ヒッチャー」あたりが近いだろうが、ストレス社会にキレたサイコパスの犯罪者というキャラクターは1993年のエブ・ロー・スミス監督「フォーリング・ダウン」からで、正直この3作品からの影響はかなり強いと感じる。


特に「フォーリング・ダウン」のマイケル・ダグラスが演じた男が、別れた妻との関係に怒りを感じているという設定や、彼が社会からの受ける理不尽な扱い、大渋滞が事件のきっかけとなる展開などは本作のラッセル・クロウが抱えている社会への憤りに近いものがあり、作品のテーマとしては近い気がする。その鬱積した怒りが、たまたま息子を学校に送り届ける為に急いでいたレイチェルのクラクションによって爆発してしまい、彼女は男の暴力に巻き込まれるのだ。とはいえ本作のラッセル・クロウは、それでもかなり「やり過ぎ」な気もする。映画の冒頭から元妻の家を訪れては、いきなり彼女らを撲殺し火を放つ場面から”凶悪度マックス”で、その後の暴力行為に意外性が無くなってしまったのは残念だ。ラッセル・クロウがじわじわと狂っていき、暴力性が増していくという見せ方のほうが、より面白くなった気がする。


ここからネタバレになるが、ラッセル・クロウはレイチェルの離婚弁護士を殺し、レイチェルの弟の彼女を殺し、弟も椅子に縛り付けて火を放ち、レイチェルの一人息子の命を狙うのだが、なぜ彼がそこまでの労力を使ってレイチェルを狙うのか?は、「不運とは何かを教えてやる」というセリフのみで多くは語られない為、こちらも命知らずのサイコパスの無謀な犯罪行為をひたすら見守ることになるが、同時にレイチェルの行動や警察の後手後手ぶりにもかなりイライラさせられる。特にラスト近くの主人公レイチェルの行動は謎だらけで、”映画を盛り上げる”という目的の為だけに行動しているようにさえ見えてしまう。

 

 


自分の母親が住んでいる場所は道が解りにくいからという理由で、ラッセル・クロウを誘い込むレイチェル。もうそのまま逃げ切れるのでは?という疑問はありつつも、あえて自分の車を探させて、近寄ったところを違う車で追突するという展開は意外性があって良かったが、そこからアッというに形勢逆転されてボコられる始末。あそこでレイチェルが殺されなかったのが不自然なくらいだ。さらに息子を”隠し部屋”でじっとさせるのは良いが、なぜかボコられたレイチェル自らがその部屋に近づき、ラッセル・クロウに見つかってしまう展開は不自然すぎる。本当に息子の身を案じているのならむしろ絶対にあの部屋には近づかず、一刻も早く他に助けを呼ぶだろう。


レイチェルがスマホのロックをしていないという設定も、「めんどくさいから」という理由以外は語られず、ラッセル・クロウスマホを盗られたレイチェルが窮地に陥るための伏線でお粗末だし、ラストの舞台では前以って警察を呼んでいたにも関わらず、警察が駆け付けるのはラッセル・クロウが死んですべてが終わった後というのも、あまりにお約束すぎだ。更にサイコパスに殺されかけた親子を自分の運転で家に帰す警察の行動も不自然で、横から突然来た車と危うくぶつかりそうになり、レイチェルがクラクションを鳴らそうとするが思い留まるという、ラストシーンの為だけに用意された構成に見えてしまう。


90分という短い上映時間だし、全体的に展開も早いので飽きずに観ていられるが、不自然な展開にいろいろと雑念が浮かぶ作品だった本作。「アオラレ」というタイトルの割には、車でのチェイスシーンはそこまで長くなく、そういう意味でもスピルバーグ監督の「激突!」は顔の見えない運転手に追いかけられるという、骨太のコンセプトだけで貫いた傑作だったと改めて思わされる。丸々と太ったラッセル・クロウは熱演していたと思うが、斬新さもなくあまり得るものがなかった映画という印象の本作。気軽にハラハラできるスリラーを観たいという需要には応えてくれるかもしれないが、あまり期待値を上げ過ぎないほうが良い一作かもしれない。

 

 

4.5点(10点満点)