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映画「プライムタイム」ネタバレ考察&解説 テーマやメッセージが全く伝わってこない残念な作品!

「プライムタイム」を観た。

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2020年日本公開作品「聖なる犯罪者」のバルトシュ・ビィエレニア主演のサスペンス。ネットフリックス限定配信作品だ。ポーランド映画という意外はまったく前知識がないままに鑑賞した。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ヤクブ・ピョンテク

出演:バルトシュ・ビィエレニア、ツェザリー・コジンスキー、ドブロミル・ディメツキ

日本公開:2021年

 

あらすじ

1999年、大みそか。生放送中のTVスタジオに武装したひとりの男が侵入する。司会者と警備員を人質に立てこもった彼の要求は、番組で自分の声明を放送することだった。

 

感想&解説

ザック・スナイダー監督の「アーミー・オブ・ザ・デッド」以来、ネットフリックス限定作品を観ていないなと思い、久しぶりにネトフリを観てみたら、2020年日本公開のヤン・コマサ監督作品「聖なる犯罪者」のバルトシュ・ビィエレニア主演のサスペンスが配信開始になっており、92分という上映時間だったこともあって鑑賞してみた。1999年のおおみそかに一人の若者が銃を持ってTV局に立てこもり、生放送をさせろと要求するというプロットのNetflixオリジナル作品だ。


まず序盤のシーンは、ミラという女性キャスターが懸賞番組の司会をする為にスタジオに飛び込んでくるシーンから映画は始まっていく。生放送まで時間がないので、後輩女性キャスターの洋服を脱がせて自分がそれを強引に着る様子から、彼女の性格の悪さが解るのだが、その直後に一人の若者が銃を片手に警備員を人質にスタジオに入ってくる。そして、生放送で自分の声明を放送しろと要求するのである。おおよそここまでが映画が始まって5分弱の展開だ。出だしは非常にスピーディなのである。


青年がカメラの前で何かを語り始めると、事故を恐れたTVスタッフが放送を止めて逃げてしまい、そのまま女性キャスターのミラと警備員グジェゴシュだけがスタジオに人質として残されてしまう。犯人の青年はセバスティアンといい、そのうちスタジオには警察と交渉人の一団が訪れる。セバスティアンは生放送ができるTVクルーを集めることを要求するが、警察側はひたすら人質解放の交渉を続ける。警官たちは人質のために突入できず、犯人は二人を銃で脅しながら同じ要求を繰り返すだけ。そのうちセバスティアンの父親ダヴィドが現場に現れるという展開になる。


セバスティアンがスタジオからダヴィドに電話をして、「テレビの生放送を観てくれ」というシーンがあるので、父親にこの犯行を見せるというのがセバスティアンの犯行動機らしいが、この父親がいわゆる”毒親”であり、説得どころか息子の「どもる癖」をバカにしたり、「自分の行動を恥じていないのか?」や「最初のパンケーキ(息子)は失敗作だった」などの空気を読まない暴言の数々で、余計に事態を深刻にさせる。いわばこの父親が、彼をこの犯罪に駆り立てた原因だった訳だ。ここまででおおよそ45分。そしてこのあたりから、この映画は序盤のスピード感が嘘のように、ぴったりと動きを止めてしまう。


この後で交渉人が女性に代わったり、セバスティアンの持っていたカバンを調べもしないのに爆弾だと勝手に断定してのドタバタがあったり、犯人と人質たちのお約束的な友情シーンなどがあったりするが、基本的には予定調和で同じようなやりとりが続き、退屈極まりない。そしてようやく70分が過ぎたころに、セバスティアンは生放送が実行できることになり、どんな声明を届けるのか?といよいよ期待が高まる。ここがこの作品で一番盛り上がる部分だと期待したのだが、実はテレビ局側は生放送をしておらず、しかもあっさりとそれをセバスティアンに見破られるというなんともお粗末な展開になる。


そして照明を落とされた隙に逃げ出そうとしたミラにケガをさせてしまい、そのまま警備員グジェゴシュも逃がすことを決断したセバスティアンは、プライムタイムに録画した声明を流してやるというTV局の重役の声に従いカメラの前に立つが、そのまま銃を自らの頭に突きつける。だが、その銃には実は弾が入っていなかった。そして警察隊の突入に遭い、暴力によって血を流しながら連行されるセバスティアンのラストシーンでこの映画は終わる。


結局、彼が何をカメラの前で伝えたかったのか?をハッキリさせないという展開は、あえての演出なのだろう。ただ残念ながら、ひとつの映画作品として本作あまりに面白くない。警備員グジェゴシュとの友情や、父親との軋轢、1999年というひとつの時代が移り変わる背景、警察やTV局といった体制側の暴力性、若者の昔から変わらない自己承認欲求と、この映画のバックボーンにはストーリーをもっと肉付けできそうな設定がうっすらと流れているのだが、これが全くメインストーリーに結びついてこないのだ。当時のポーランドの経済背景などが解っていれば、この主人公の行動原理がもう少し理解できるのかもしれないが、全世界に一斉配信されるネットフリックス作品でそこまでの前知識が必要なら、そもそも映画の冒頭でそれは説明すべきだろう。


もちろん主演のバルトシュ・ビィエレニアが熱演を魅せていたのは間違いないが、この作品自体のテーマやメッセージがイマイチ伝わってこないので、その魅力も半減といったところだ。この作品を観るなら、ネットフリックスの新着で「プラットフォーム」や「テネット」など過去の名作もたくさん配信されているので、間違いなくそちらを観るのがおススメだ。それにしても、最近のネットフリックスオリジナル映画のクオリティの低さはやや心配になってしまう。つくづく残念な作品であった。

1.5点(10点満点)