「トゥモロー・ウォー」を観た。
「レゴバットマン ザ・ムービー」のクリス・マッケイが監督した、Amazonプライムビデオのオリジナル作品。実写映画監督としては初監督作品だ。主演は「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」「ジュラシック・ワールド」シリーズのクリス・プラット。他の出演者は「セッション」のJ・K・シモンズや、「かごの中の瞳」のイボンヌ・ストラホフスキーなど。クリス・プラットは製作総指揮も務めている。そもそも劇場公開用に制作されていたが、Amazonプライムビデオが限定配信用に買い取ったSF映画超大作だ。今回もネタバレありで感想を書きたい。
監督:クリス・マッケイ
出演:クリス・プラット、イボンヌ・ストラホフスキー、J・K・シモンズ
日本公開:2021年
あらすじ
ある日、2051年からのタイムトラベラーが現代に突然現れ、人類は30年後に未知の生物と戦争になり、やがて敗北するという衝撃の事実を告げる。人類が生き残るための唯一の希望は、現代から民間人と兵士を未来に送り込み、戦いに参加することだという。その1人として選ばれた高校教師ダン・フォレスターは、まだ幼い娘のために世界を救うことを決意。優秀な科学者や疎遠になっていた父親とともに、地球の運命を変えるべく立ち上がる。
感想&解説
相当にお金のかかった超大作で、これは劇場で観たかったというのが正直な感想だ。逆にこの新作がワンコインで観られるのだから、相当に”お得”であるとも言える。エイリアンとの戦闘で絶滅寸前の30年後から、数人の軍人が救いを求めて現代にタイムリープしてきたことから、未来へ行ってエイリアンと戦うことになる主人公たちを描いたSFアクションで、誤解を恐れずに書くなら「ターミネーター」のSFタイムリープ要素と、「エイリアン2」「オール・ユー・ニード・イズ・キル」「スターシップ・トゥルーパーズ」などの”大量発生エイリアン”との戦闘要素を足した感じの作品だと言えるだろう。
またビジュアルとしてもかなりのクオリティで、冒頭で描かれる明らかに現代とは違う風景の中プールに落下するシーンから、実際に主人公がタイムリープするために浮遊していくシーン、獰猛なエイリアンたちのルックスと野生動物を思わせる動きまで、安っぽさの全く無い高いクオリティの画面が続いていく。SF映画として、まずここがクリアできているのは大きい。単純に画面に映るガジェットやモンスターを観ているだけで十分に楽しいのだ。VFXの出来はかなりこの映画の完成度に寄与していると思う。監督のクリス・マッケイはフィル・ロード&クリストファー・ミラーと共に、あの名作「LEGO ムービー」のアニメーション共同監督を務めた人物で、本作が実写初作品らしいが全編を通じてかなり安定感のある画作りと演出をしていると感じる。
ストーリーとしては、以下である。2022年、化学教師である一人娘の父親であるダンがホームパーティでサッカー中継を観ていると、テレビの向こうの会場に30年後の未来から時空を超えてやって来た兵士たちが現れ、人類に助けを求めてくる。なんと30年後の地球では突然現れた狂暴なエイリアン「ホワイトスパイク」によって人類が次々に殺されており、全世界の残り人口が50万人を切っているという。そこで残された人類は「過去」に戻って、過去の地球人に助けを求めてきたのだ。1年後、この未曽有の事態に各国政府は派兵を決め、一般市民も徴兵として未来へ送るようになっていたが、徴兵されると1週間という期限で任務に就くことになり、死んでいなければ1週間後に自動的に現代に戻されるというシステムになっていた。
ダンは元軍人のため、この兵役を務めるために素人同然の仲間とともに未来へタイムリープする。そこで与えられた任務は、研究施設から重要なアンプルを運び出すことだった。ここからネタバレになるが、ホワイトスパイクの襲撃に遭い、多くの命を犠牲にしつつもダンはアンプルを回収し未来の軍隊に救助されるが、そこで研究者としてエイリアンを倒す毒物を研究していたのは、なんと30年後のダンの娘だった。立派に成長した娘の姿に喜びながらも、人類最後の日が近づいてきている未来には一刻の猶予も残されていなかった。研究に必要なエイリアンのメスを決死で確保しながらも、毒物の研究に打ち込むダン父娘だったが、その甲斐もあり遂にエイリアン討伐の毒物が完成する。だが研究施設がホワイトスパイクの襲撃を受け、ダンは娘の命を失ってしまい現代へ戻されてしまう。
未来からの帰還後、自分の教え子の知識からホワイトスパイクは既にロシア北部の氷山の下にいることを突き止めたダンは、未来から持ち帰った毒物を量産して、仲違いしていた父親の力も借りつつ、仲間の兵士たちとともに現地へ飛ぶ。そこで氷山の下の埋まっていたのは、巨大な宇宙船とホワイトスパイクの群れだった。ダンたちは毒物と爆薬を使い、繁殖する前のホワイトスパイクを駆除し、逃げ出した巨大なメスエイリアンを格闘の末に倒すことに成功する。これにより、人類が壊滅するという未来そのものが消滅し、世界が救われたところでこの映画は終わる。
映画の冒頭で、主人公のクリス・プラットが演じるダンは無職だ。転職に失敗しまだ教師にもなれていない彼だが、将来「何かを成し遂げたい」と切望している。そのダンが遂には地球の未来を救うヒーローになるまでのストーリーということで、ここに強烈なカタルシスがある。さらに自分の娘が発見した毒物によってエイリアンを倒し、J・K・シモンズが演じる仲の悪かった父親も最終的には主人公を救う展開なので、親子三代に亘った協力によって世界の未来は救われるのである。もちろんあまりにご都合主義な展開だが、この「家族愛」の要素が本作の面白さを確実に増幅させていると思うし、主人公ダンに感情移入させる要素になっている。
この未来から助けを求める人類を救うために未来に行き、壊滅した未来からヒントを得てもう一度現代に戻り結果的に未来を救うという展開は、そのまま「娘の将来」を救うという父親の動機にリンクしている。しかもダンが高校教師という設定だから、「子供たちの将来」も考慮しているだろう。だからこそ、この展開には燃えるのである。もちろん「親子愛」というベタなテーマのストーリーだと言えるが、この映画のテンションにはこのくらいの既視感のあるテーマがむしろしっくりくる。また冒頭の火山オタクの生徒や不仲な父親など、やや不自然な伏線ももちろん後半でしっかり回収してくるし、ラスボスがクイーンエイリアンという「エイリアン2」的な展開も、オマージュが感じられて好ましいくらいだ。
「30年後の未来から現代に来るのは、現代ではまだ生まれていない20代の兵士ばかり」とか、「30年後には既に死んでいる中年以上の人間だけが徴兵されるルール」とか、一応のタイムリープに関する説明も語られるが、全体的なタイムパラドックスを考えると無理がありすぎて、コアなSFファンほどツッコミどころは満載だろう。だが主演がクリス・プラットという段階で、(失礼ながら)そこに重きを置いた作品ではないのだと思う。過去に観たことのないオリジナリティ溢れる作品というよりは、過去の面白かったSFアクションから「良いとこ取りした」超大作くらいに思ってもらえば、十分に満足できる作品ではないだろうか。
140分という上映時間はやや長いが、このジャンルが好きであればこの上映時間はあっという間に過ぎるだろう。絶対に必見の傑作という訳ではないかもしれないが、これだけ頭を空っぽにして楽しめる映像クオリティの高い娯楽映画は貴重だと思う。スマホやタブレットで観るには勿体ないので、なるべく大きな画面で観る事を前提に、Amazonプライムビデオの会員ならまず観て損はない作品だろう。
6.5点(10点満点)