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映画「ドント・ブリーズ2」ネタバレ考察&解説 傑作の前作と比べると、凡庸なアクション映画となった残念な続編!

ドント・ブリーズ2」を観た。

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前作「ドント・ブリーズ」の監督フェデ・アルバレスとともに脚本を手がけていたロド・サヤゲスが、今回はメガホンをとった続編。最近はすっかり監督業から遠のいて、プロデュースばかりのサム・ライミが前作から引き続き製作を担当している。前作とは役割が逆でフェデ・アルバレスが共同脚本で参加しているため、スタッフ陣からみてもいわゆる正当な続編といえるだろう。ロド・サヤゲスはフェデ・アルバレス監督のデビュー作である2013年リメイク版「死霊のはらわた」の脚本から担当しているので、この二人はよほど相性が良いらしい。もちろん、あの”盲目の老人”はスティーブン・ラングが再演している。前作は傑作スリラーだったが、約5年ぶりの続編はどうであったか?今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:ロド・サヤゲス

出演:スティーブン・ラング、ブレンダン・セクストン3世、マデリン・グレース

日本公開:2021年

 

あらすじ

前作の事件から8年。盲目の老人は、惨劇の起こった屋敷でひとりの少女を大切に育てていた。少女と2人だけの生活を誰にも邪魔されないよう静かに暮らしている老人だったが、少女はこの生活に窮屈さを感じていた。そんな2人の前にある時、謎の武装集団が現れる。彼らが少女を狙って屋敷に踏み入ってきたことから、老人の狂気が再び目を覚ます。

 

 

感想&解説

2016年に公開された前作「ドント・ブリーズ」は、「20年に一本の恐怖の作品!」というキャッチコピーが大げさではないほど、素晴らしい作品だったと思う。今でも観終わったあとの満足感とスリラー映画特有の緊張による疲労感を覚えているくらいで、映画館を出る時、本当に面白い映画に出会えた幸福で胸がいっぱいだったものだ。孤独な盲目の老人だと油断した若者たちが彼の家に強盗に入ったことから、とんでもなく悲惨な目に遭うというシンプルなストーリーながら、まずはこの老人の「圧倒的な強さ」に驚かされ、次に彼の「変態性」に度肝を抜かれるという二段階のサプライズが嬉しい作品だった。しかもそれらが卓越したビジュアルによって、観客が強い恐怖を感じさせる演出へと繋がっている。


まず老人が盲目であるため彼に気付かれないように逃げ切るには、「音を立てない必要がある」というのは極めて映画的な設定で、これにより観客も主人公たちと同じように息をひそめてドキドキできる。廊下から「みしっ」と音がしただけで即座に銃口を向けられ、脱いだ靴の数から侵入した人数を即座に割り出す老人は、実は無慈悲な退役軍人であり、「帰らせてくれ」と懇願する若者の首を絞めながらも躊躇なく殺す、序盤のシーンには背筋が凍ったものだ。この男に捕まると確実に殺されるのだという恐怖を、主人公たちと同じように感じられる序盤の効果的な場面だったと思う。その後に「クワイエット・プレイス」という同じようなコンセプトの作品が公開されたが、ホラー的なショッキング演出では「ドント・ブリーズ」の方がはるかに上手いと感じる。


特に老人がブレーカーを落とし屋敷中を停電にしたうえで銃で追い詰めていくシーンは、まったく見えない主人公たちの焦りが感じられて異常な緊張感を生んでいたし、ロッキーという女性キャラを馬乗りで殴るシーンにおける老人の異常な暴力性、さらに捕まったロッキーが拘束される場面での、交通事故で愛娘を失った老人が自分の子供を出産させるために女性を監禁していたという衝撃の独白、そしてロッキーにスポイトを使って妊娠を強要するという映画史に残るキモい場面など、この老人の完全に話が通じない悪魔的な雰囲気と、無骨なタンクトップというルックス、そして救いがたい心の闇と狂気が、この「ドント・ブリーズ」という作品の肝だったと思う。悪役としてこのキャラクターは非常に魅力的だったのだ。


その前提でこの「2」がどうだったかといえば、正直前作の魅力だったポイントが大きく後退し、”凡庸なアクション映画”になってしまったという印象だ。ただしアクションの演出は丁寧で、特に序盤での少女自身が男たちから巧妙に逃げるロングテイクのカメラワーク、少女を守りながら自宅で謎の武装集団と戦う一連のシーンでの、箱の中で水責めされた少女を脱出させるというタイムリミットがある中での肉弾戦など、そのアイデアの数々には感心させられる。また本シリーズでは重要なキャラクターである「犬」の意外な活用法や、前作の「PG12」から「R15+」に引き上げられたからこそゴア描写なども手加減がなく、アクションエンターテイメントとして楽しめるクオリティは保っている。ただあの「ドント・ブリーズ」の続編として、残念ながら個人的には評価できない作品だと感じたのである。

 

 


前述の箱の中での水責めから、水を飲んで呼吸困難に陥っている少女に老人は「息をしろ」と言う。これは老人が少女フェニックスの命を救う為のセリフなので、前作で「息をしただけで(それくらい音を立てただけで)」この老人には殺されるという、物語上のキャラクター設定が反転している。ここからも解るとおり、本作のスティーブン・ラング演じる老人は、謎の武装集団から少女を守るという「正義のヒーロー」になっているのだ。これは「ターミネーター」シリーズにおける、アーノルド・シュワルツェネッガーが演じた「T-800」の「1」から「2」への変更と同じだ。映画序盤において、少女をなるべく社会から隔離させようとする老人の様子が描かれながらも、少女に髪を切ってもらったり外出許可をする様子を描くため、前作のファンであればある程、彼が「1」と同一キャラクターには思えない。もちろん「ドント・ブリーズ」の作り手たちも、続編における単純な「善人化」にはならないように配慮しているのは感じるが、最終的にこれが上手くいっていないのである。


ここからネタバレになるが、映画中盤でこの少女を狙う武装集団というのは「少女の実の父親」であり、老人は火災現場から逃げて倒れている少女をさらい、まるで「自分の娘」として育てていたという事実が告げられる。この展開により、この時点では前作の「実の娘を交通事故で亡くした孤独な老人」という設定は活かしつつも、老人の”異常性”も担保されていると思わされる。ところが、この父親は母親と共に麻薬の製造工場を運営している犯罪者で、娘を探していた理由は火事で弱った母親の「心臓」を無理やり娘と交換するためだったという「毒親」設定が明らかになると、俄然老人が少女フェニックスを連れ去った行動は”良き事”だったように感じられる。本作においてこの展開以降、彼は”正義の人”になってしまうのだ。


「盲人」であるという特徴も前作ほど活かされているとは思えず、今回は戦う相手も退役軍人で強いため、終始老人は戦闘の度にボロボロになる。前作の魅力だった「圧倒的な強さ」も「変態性」も、今作のスティーブン・ラング演じる老人には感じられないのである。単純に”悪人から少女を救うだけ”の映画になってしまっているのだ。終盤に老人は過去の行いを悔い、「自分はモンスターだから、もうこれ以上近づくな」と少女フェニックスに語る場面がある。だがラストシーンで、ピンチに陥った老人を少女は”実の父親”を殺すことによって助け、他の人から名前を聞かれると実名ではなく「フェニックス」だと高らかに宣言する。これによって老人の行動は誘拐された少女自身からも肯定され、彼の罪は浄化される。前作の凶悪でサイコパスで無慈悲だったあの魅力的なキャラクターが、最後には完全に消滅することになる。


エンドクレジットの最後に、三作目の伏線のようなワンカットが挟み込まれるが、正直もうこのシリーズは二作目で完結したほうが良いと思う。むしろサイコパスで孤独な老人が、ある少女と出会うことで成長し自己犠牲の末に死んだのだという、前後編の二部作と思えば、まだこの展開にも納得感がある。98分というタイトな上映時間だし、特に前半はアクションの密度も高いので退屈することはないが、あのスリラーホラー「ドント・ブリーズ」の続編としては、肩透かしを喰うことになった本作。傑作の続編を作るというのはかなり難しいようだ。ただ前作を考慮せずにアクション映画単体として観れば、それほど悪い作品ではないと思う。

 

 

6.0点(10点満点)