映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

映画「鳩の撃退法」ネタバレ考察&解説 題材は面白いのだが、映画としてのカタルシスが薄い惜しい作品!

「鳩の撃退法」を観た。

f:id:teraniht:20210828140005j:image

直木賞作家・佐藤正午の同名ベストセラーを、「ホテル ビーナス」「原宿デニール」の監督タカハタ秀太が映画化したサスペンス。主人公の小説家を藤原竜也、担当編集者を土屋太鳳、失踪するバーのマスターを風間俊介、コーヒーショップ店員を西野七瀬、街の裏社会を仕切る黒幕を豊川悦司らが演じる。原作は2014年に出版され、第6回山田風太郎賞を受賞した作品らしい。原作は未読。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:タカハタ秀太
出演:藤原竜也、土屋太鳳、風間俊介西野七瀬豊川悦司リリー・フランキー
日本公開:2021年

 

あらすじ

都内のバー。かつて直木賞を受賞した天才小説家・津田伸一は、担当編集者の鳥飼なほみに執筆中の新作小説を読ませていた。最初はその内容に心を踊らせる鳥飼だったが、津田の話を聞けば聞くほど小説の中だけの話とは思えない。この小説が本当にフィクションなのか検証を始めた鳥飼は、やがて驚きの真実にたどり着く。

 

 

感想&解説

原作の内容はまったく知らなかったのだが、劇場でも観た予告編があまりに面白そうだったので、急遽鑑賞した本作。予告からは藤原竜也が演じる小説家の仕掛ける策略に、ラストで騙される”ドンデン返し”的な内容かと思い集中しながら観たのだが、実際はかなり違っていた。もちろん”良い意味”で違っている分には大歓迎なのだが、本作の場合はラストに向けて広げた風呂敷がどんどんと小さくなってしまい、そのまま終わってしまうという感じだ。主人公の津田は劇中で何度も、「過去に実際にあった事実」ではなく「過去にあり得た事実」を小説として描くと語っている。この津田が書く小説の内容がフィクションだからこそ、実は大きな仕掛けがあり、観客を驚かしたり感動させるという内容だと思っていたのだが、本作ではそこがあまり盛り上がらないのだ。

いきなりネタバレになるが、映画の構成としては、津田が描いている”小説”の内容と、彼が実際に置かれている”現実”の様子が交互に描かれていくのだが、この「小説の内容」とは津田が過去に経験してきたノンフィクションであることが解ってくる。しかも現在進行形で巻き込まれている事件を小説にしているために、最終的なエンディングは津田自身も解っていないという状態だ。そこにバーの店長家族の失踪事件、3,003万のニセ札事件、”倉田”と言う裏社会の男という3要素が絡みあってくる。元小説家でありながらも、今はデリヘルの運転手をしている主人公の津田。彼が馴染みの深夜営業の喫茶店で知り合った「秀吉」という男が、実はこの街の裏ボス「倉田」の部下だったり、その秀吉の妻が不倫している「春山」という男が、実は津田の勤め先であるデリヘル嬢の元カレだったり、バーの女子店員が3万を前借りしたいと言った日が、秀吉が店にいない日(妻から妊娠を告げられる日)だったりと、あまりに出来過ぎた偶然が重なりあう展開なのは、この手の作品では”お約束”なのはわかるのだが、これらの”こじつけ”が最後まで面白く転がっていかないのが問題だ。

 

3,003万のうちの3万円だけが実際はニセ札だったということで、これらの3万円が関係者のうちでグルグルと循環していき、ついには津田の手元に渡る様は画的には面白いが、これも良く考えるとかなり無理があるし、3,000万をポンと寄付してしまい「金には興味がない」と言っていた倉田が重大なリスクを背負ってまで、ニセ札作りに関係していた理由も最後までよくわからない。これらは「津田の創作です」というエクスキューズもあるが、それなら本当に「なんでもあり」になってしまう。またわざわざ富山から東京高円寺のバーに身を隠したにも関わらず、なぜ直木賞を受賞したほどの作家が、こんな”危険なテーマ”でほぼノンフィクションのような小説を書こうと思ったのか?の理由や、まだ未発表の小説の内容を倉田はどうやって知り、どうやって高円寺に逃げた津田の居所を掴んだのか?なども描かれないので、展開が唐突だ。さらに古本屋の店主である老人が、亡き妻の保険で入手した全財産3,000万円を小説家としての再起してほしいと、津田に残したにも関わらず寄付とはいえこの金の使い方も残念だ。

 

 

終盤、倉田の指示にミスした秀吉、浮気して妊娠した奈々美、その浮気相手の晴山は、偽札を流出させた原因として、実際には倉田によって殺されたと考える津田だったが、自分が書く小説の中では「全員が逃げ延びる」というハッピーエンドを描く。ここからラストまでの展開は、冒頭の喫茶店のシーンで秀吉に言うセリフ「小説家ならその二人を違う場所で出会わせるべきだ」の伏線だろう。そしてラストのバーのシーンで、もし秀吉が生きていれば「ピーターパンの小説を借りる」という約束を果たすため、自分の元に訪れるのかもしれないと話す津田に、本当に秀吉が現れ、彼を追っかけた津田とアイコンタクトして、この映画は終わる。映画の中の「秀吉一家失踪事件」の結末は、結局津田の考えたハッピーエンドしか描かれず、秀吉が生きているということしか「真実」は解らないが、「ダムで男女の遺体が見つかった」という新聞記事から想像できるのは、この死体は「奈々美」と「晴山」ということなのだろう。

 

現実と想像が入り交じる複雑な展開だが、最後まで映画を観てきた正直な感想は「それで何が描きたかったのだろう?」である。もちろん、たくさんの登場人物の中でパズルのピースが(やや強引にだが)ハマっていく気持ち良さはあるのだが、特に書き手である津田の「策略」や「小説を書いている事の真の目的」がある訳でもないし、そこになにか大きなサプライズがある訳でもないので、”映画としてのカタルシス”があまりに薄いのだ。ただ彼が過去の事実をベースに小説を書いており、ラストの展開をハッピーエンドに書いたら「秀吉が生きていた」という部分が当たっていたという話になっていただけで、各エピソード自体のひっぱりは面白いのだが、この映画全体を繋ぐストーリーとしてはかなり弱いと感じてしまう。おそらく「小説」として長大なページをめくっていくには面白い話だし、場面による説明不足もないのだと思うが、「映画」として”2時間のダイジェスト”にされてしまうとその粗が見えてしまう。

 

結果として予告編や、「この男が書いた小説(ウソ)を見破れるか」というキャッチコピーに期待した面白さは感じられなかった本作。序盤の見せ方などは上手く、これからどうなるのだろう?とかなりワクワクさせられただけに、終盤の展開には肩透かしを食らって残念だ。もっとこの物語自体が「事実かフィクションか?」のメタ構造の方に振れるかと期待していただけに、そこが弱かったのが痛い。ただ、ちょっとした役にリリー・フランキーが出演していたり、土屋太鳳や西野七瀬豊川悦司といった主演以外の役者陣は魅力的で、とても良かった。また主題歌を「KIRINJI」の堀込高樹氏が担当していたのも、ファンとしてはポイントが高い。やや性的な表現があったり暴力シーンもあるので、子供やファミリーでの鑑賞にはオススメしないが、大人が観て損はしない程度には面白い作品になっていたと思う。それにしても、藤原竜也は"クズ男"の役がよく似合う。改めて良い役者だなと感じた。

 

 

5.5点(10点満点)